第29話 第二王子ユリアン、「次の一手」を打ちますわ
メルフィオでの「一日店主対決」から三日後。
私たちは王都へ一時帰還し、改革の中間報告を行うため、王城の会議室に集まっていた。
ロゼッタ(工業)、ガルド(港湾)、メルフィオ(商業)。
王太子直轄の三拠点を、八時間制で連続攻略した時点で、
空気は明らかにこちらに傾きつつあった。
(とはいえ、ここから先は“数字”だけでは動きませんわね)
***
**第二王子からの招集──静かな戦略会議**
会議室に入ると、すでに第二王子ユリアンが席に着いていた。
その隣には、父上、公爵派の重臣、そして聖女リアナ。
ユリアンは穏やかな笑みを浮かべつつも、
その瞳に、これまで以上の覚悟を宿していた。
「リリアベルタ嬢。ロゼッタ、ガルド、メルフィオ──
三都市の報告、拝見しました。」
「お恥ずかしながら、まだ『序盤』ですわ。」
私が軽く会釈すると、ユリアンは小さく頷く。
「いえ、すでに“王太子直轄の根幹”が揺らいでいます。
だからこそ──次の一手は、少し毛色を変えたい。」
***
**第二王子の提案──「軍事」に手を付ける時が来た**
ユリアンが、王国全図の羊皮紙を広げる。
「ここまでの三都市は、
・ロゼッタ:工業
・ガルド:港湾
・メルフィオ:商業
いずれも『経済』です。
そろそろ、『軍事』にも八時間制を導入するべきでは?」
会議室が静まり返る。
父上が腕を組む。
「軍は、保守派の最後の牙城だ。
王太子派将軍が多い。反発は強烈だぞ。」
私は、地図上の一点に視線を落とした。
「軍港ベリオス……ですね。」
ユリアンが頷く。
「はい。
ベリオス軍港は、王太子が“愛国軍事訓練”の名のもとに
兵士を一日十八時間近く酷使している場所です。
ここをホワイト化できれば──
『戦って守る軍』から『倒れず守る軍』へ、王国の姿が変わる。」
リアナが小さく息を呑んだ。
「兵士さんたちまで……」
***
**王太子への“招待状”──改革の観客にする**
私は、あることを思いつき、口元に笑みを浮かべた。
「ユリアン殿下。
ベリオス軍港への視察に、
王太子殿下を“公式ゲスト”としてお招きするのはいかがでしょう?」
父上が目を細める。
「ほう……自らの“愛国軍事”の現場を、
国王陛下と第二王子同席のもとで見せられるのか。」
ユリアンの瞳に、いたずらっぽい光が宿る。
「いいですね。
王太子殿下には、『改革の主催者』ではなく、
『現場を見せられる側』になっていただきましょう。」
リアナが不安そうに問う。
「……殿下は、おいでになりますか?」
私は、王太子の顔を思い浮かべる。
(“自分の持ち場”に何か言われることを、
あの方は一番嫌いますもの)
「来られますわ。
“来ざるを得ないように”招待状を書きますから。」
***
**王太子への書状──言葉選びは“社畜クレーム処理”の応用ですわ**
その夜。
私は執務机で、王太子宛ての書状をしたためていた。
『王太子アレクシス殿下
ロゼッタ、ガルド、メルフィオにおいて、
殿下の“愛国的ご決断”により、
八時間制が大きな成果を上げております。
つきましては、王国防衛の要たる
ベリオス軍港における訓練状況を、
陛下と第二王子殿下ご同席のもと、
ご高覧いただきたく存じます。
『愛国心と効率の両立』という、
殿下のお考えを、ぜひ軍にも示していただきたく──
エルウィン領主代理
リリアベルタ・フォン・エルウィン』
ペン先を止め、軽く肩を回す。
(褒めているようで、逃げ道を潰し、
断れば『軍事改革から逃げた』と言われる文面……
前世のクレーム対応で鍛えられたスキルですわ)
***
**王太子、招待状を読む──プライドと疲労の狭間で**
王太子宮殿。
アレクシスは、遅れて届いたメルフィオの「一日店主報告」と共に、
この書状を読んでいた。
「……『愛国心と効率の両立』、だと。」
側近が、おそるおそる口を開く。
「殿下。ロゼッタ、ガルド、メルフィオ──
三都市の数字は、確かに改善しています。
軍事においても、
『倒れない兵』の方が、長期的には──」
「黙れ。」
アレクシスは、書状を握りしめながら窓の外を見る。
ロゼッタの白い湯気、
ガルドの整然とした荷役、
メルフィオの静かな夜。
そして、あの日の「客の顔」。
「……ベリオス軍港は、
父上と祖父上の時代からの“武勲の象徴”だ。」
彼の表情に、迷いと恐れと、
わずかな期待が入り混じる。
「これ以上、『私のやり方』が否定される現場など──」
だが、書状の最後の一文が、
彼の退路を断つ。
『陛下と第二王子殿下ご同席のもと、
ご高覧いただきたく存じます。』
「……父上と、ユリアンも…か。」
長い沈黙ののち、アレクシスは小さく頷いた。
「行く。
軍の現場だけは、見届けねばならん。」
***
**出立──辺境から王都へ、そして軍港へ**
王城前。
軍港ベリオスへの視察団が編成されていた。
先頭に、国王レオノール三世。
そのすぐ後ろに、王太子アレクシスと第二王子ユリアン。
少し離れた位置に、私と父上、リアナ、エドガー、クロウ。
「ずいぶん…大掛かりですわね。」
私が小声で言うと、
父上が苦笑する。
「軍を動かすには、
このくらい“おおごと”にした方がいい。」
リアナが、王太子の背中を見つめて呟く。
「……殿下、あの日より少しだけ、
お顔が疲れているような。」
「八時間体験と店主イベントの疲労が、
今になって効いてきているのでしょう。」
少しだけ、私は心の中で毒を吐いた。
(ようやく、殿下も“普通の人間”として疲れを感じ始めたのかもしれませんわね)
***
**次の舞台──ベリオス軍港の姿**
軍港ベリオスへ向かう道すがら、
私は内政チートで、事前情報を確認する。
```
【ベリオス軍港(事前情報)】
兵士平均訓練時間:一日18時間
過労による戦闘不能率:演習時30%
上官暴力・罵倒頻度:極めて高い
士気:表面上高いが、内心疲弊
改善余地:SSS
```
(……これは、
“ブラック企業の最終形態”ですわね)
王太子の背中越しに、
軍港の海が、かすかに見え始める。
(殿下。
ここで、“本当の意味での戦力外”になるか、
“ホワイトな軍の守護者”になるか──
選ぶのは、あなたですわ)
私は、改めて姿勢を正した。
王国ホワイト改革、第三幕。
「軍事」の扉が、静かに開こうとしていた。
(第29話 完)
執筆を優先するため、しばらく感想欄を閉じています




