第23話 王太子の「八時間体験」強制視察
国王陛下の命令から一週間後。
王都ホワイト試験区は、これまで以上に多くの視線を集めていた。
掲示板には、新たな数字が並ぶ。
『配給効率:従来比+47%』『倒れ率:0%継続』
そんなある朝。
試験区の入口に、異様な一行が現れた。
***
**王太子アレクシスの「強制体験」開始**
王太子アレクシスを先頭に、側近十数名。
後ろには、明らかに不承不承な顔の宮廷官僚たち。
「これが、父上の命じた『八時間体験視察』か……」
アレクシスが吐き捨てるように呟く。
隣に控えるクロウが、無表情で応じる。
「第二王子殿下のご伝言です。『殿下の体験談、楽しみにしております』。」
王太子のこめかみに、青筋が浮かぶ。
そこへ、私とリアナが迎えに出る。
「王太子殿下、ご到着お待ち申し上げておりましたわ。」
「ふん……さっさと終わらせろ。」
***
**内政チートで「最適体験コース」を設計**
私は、心の中でチートを展開。
```
【王太子アレクシス】
残業依存:89%
集中力耐性:3時間(以降急落)
反発心:MAX
最適体験:【最も地味で単純作業】推奨
```
(地味作業で「八時間は長すぎる」と自覚させるのが効果的ですわね)
「殿下。まずは『帳簿確認業務』からお願いいたします。
最も基本的な仕事を、八時間でお願いしますわ。」
王太子が鼻で笑う。
「簡単な仕事なら、十六時間でもできる。」
「ぜひ、そのお言葉を。では、こちらです。」
机の上には、無限に続くような数字の羅列。
***
**「八時間地獄」の序盤──王太子の慢心**
最初の二時間。
王太子は意外と真面目に帳簿に向かっていた。
「ふむ。単純作業なら、確かに誰でもできるな。」
側近たちも、配給リスト整理や在庫確認に追われる。
リアナが、そっとお茶を配る。
「殿下、お体にお気をつけて。」
「気遣いはいらん。」
しかし、三時間目あたりから変化が。
王太子のペンの動きが、目に見えて遅くなる。
***
**中盤──「退屈」が最大の敵**
五時間目。
王太子の目の下に、うっすらクマが浮かぶ。
「単純作業が……なぜだ、集中が……」
隣の官僚が、小声で囁く。
「殿下。残業ならアドレナリンが出て集中できますが、
定時作業は……淡々と続くだけです。」
「黙れ! 私が負けるものか!」
だが、六時間目。
王太子の手が、初めて止まった。
「この数字の羅列……いつまで続くんだ……?」
```
【王太子アレクシス】
集中力:100%→38%
イライラ度:+73%
「八時間長すぎる」自覚:42%
```
***
**市民の視線──「王太子も働いてる」効果**
窓の外では、市民たちが試験区を遠巻きに見ていた。
「王太子殿下が、あそこで働いてるぞ。」
「八時間で帰るのか? 残業しないのか?」
「なんか……疲れた顔してるな。」
噂は、瞬く間に広がる。
酒場では、すでにネタにされていた。
「王太子殿下『帳簿つまらん…』だってよ。」
「愛国心より退屈が勝ったかw」
***
**終盤──王太子の限界突破**
八時間目、最後の三十分。
王太子は、ついに机に突っ伏した。
「……もう、限界だ……」
私が、静かに砂時計をひっくり返す。
「本日の体験、お疲れさまでした。」
側近たちも、全員ヘトヘト。
予定より早く、試験区から退場する一行。
リアナが、そっと呟く。
「殿下の机、周りに書類が散乱してました……
十六時間なら、もっと酷いことに……」
***
**国王陛下への「体験レポート」**
その夜。
クロウが、王太子の「体験記録」をまとめた羊皮紙を持参した。
『王太子アレクシス殿下 八時間体験記録』
・作業開始:意欲高
・4時間目:疲労兆候
・6時間目:作業停止三回
・8時間終了:突っ伏し退場
私は、さらなる追撃資料を添付。
『王太子直轄官僚の十六時間実態』
・作業効率:実働六時間相当
・残業十時間は「見ているだけ」状態
クロウが、にやりと笑う。
「第二王子殿下も、このレポート楽しみにしておられます。」
***
**王太子宮殿の崩壊感**
王太子宮殿。
アレクシスは、ベッドに倒れ込むように横たわっていた。
「八時間……たった八時間であの疲労……
十六時間働いている官僚どもは、何だ……?」
側近が、おずおそず報告。
「殿下。試験区では、あの作業を毎日、
淡々とこなしている者たちがおります。」
「ありえん……!」
初めて、王太子の目に迷いが宿った。
```
【王太子アレクシス】
八時間体験完了:YES
「改革かもしれない」自覚:12%
権威失墜:+28%
```
***
**改革派の夜──次の手を打つ**
王城客間。
私と父上、リアナで反省会。
「王太子殿下、完全に想定内でしたわ。」
父上が笑う。
「次は、全国主要都市での試験区拡大だ。」
リアナが、少し心配そうに。
「でも、王太子殿下の目……あの暗殺の時と同じでした。」
「ええ。だからこそ。」
私は、窓の外を見る。
「次は、王太子殿下に『自分で選ばせる』番ですわ。
『改革か、失脚か』──どちらを取るか。」
王都ホワイト試験区の灯りが、静かに瞬いていた。
王太子の「八時間体験」は、王国の常識に、確かな亀裂を生んだ。
(第23話 完)




