第2話 ブラック領地に降り立った私の第一声:「まず就業規則からですわ」
馬車が揺れること数日。
エルウィン辺境伯領に到着した。
窓から見えるのは、痩せ細った農民たち、崩れかけた小屋、埃っぽい街道。
私の視界に、チートウィンドウが即座に展開する。
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【エルウィン辺境領 現状診断】
復興ポテンシャル:85% 離職率:89.7% 治安危険度:A+
食糧生産効率:18% 行政非効率度:92% 労働時間:1日16時間
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(前世のブラック企業どころじゃない…
一日16時間労働で離職率9割って、もはやカルト宗教のレベルですわ…)
馬車を降りると、領民らしき男たちがぼろ布をまとって集まってきた。
皆、目が虚ろだ。
「新領主様か…」
「どうせ王都の役人追放組だろ。すぐ逃げ出すぜ」
彼らの頭上に、次々とウィンドウが浮かぶ。
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【農民A】疲弊度:95% 忠誠心:5% スキル:鍬振り
【村長代理】腐敗度:C+ 私腹率:42% 残業強要:常習
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隣のエドガー殿下が小声で囁く。
「噂では、前の領主が重税と強制労働で農民の半分を失ったとか。 王太子殿下の直轄領だったとかで…」
「殿下の『成果盗用率80%』が、ここにも及んでますね。
……では、まずは状況把握から参りましょうか。」
私は少し緊張しながら、領民たちに向き直った。
***
**領主館跡──書類の山と悪臭が充満する小部屋。**
村長代理らしき中年男が、汗だくで出迎えた。
「領主様! 年貢の帳簿はこちらでして…」
机に積まれた羊皮紙の山。
チート起動で一瞬にして解析が終わる。
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【年貢帳簿解析結果】
・実収支:報告額の38%のみ存在
・残り62%:村長代理の私腹+消えた不明金
・作業効率:手書き帳簿により月40時間浪費
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「村長代理殿、ご担当の帳簿ですけど…
実際に村に残っている穀物は、報告額の**三十八パーセント分**だけですわね?」
「ひっ、それは、その、魔獣のせいで!」
「魔獣のせいで不明金が私腹に? ふふ、面白い言い訳ですこと。
領収証と預金残高の照合結果も、こちらで見えておりますわ。」
村長代理の顔が真っ青になる。
私が淡々と続ける。
「それと、帳簿作成だけで月四十時間も浪費なさってるようですけど…
明日から帳簿の書き方を一つに決めて、月に一度だけ整理する形にいたします。
今までの十分の一くらいの時間で済むはずですわ。」
(私の視界には「作業時間九割削減」と表示されてますけど…
今のところ、私にしか見えませんものね)
村長代理は震えながら頷くしかなかった。
***
**その夜──領民集会。**
広場に灯る松明の下、痩せた農民たちが集まる。
私が臨時の演台に立つと、ブーイングの嵐だ。
「どうせ重税だろ!」
「また王太子様の命令で働かされるんだ!」
(王太子の残業強要癖、ここまで浸透してるのね…
前世でも、こんな反発食らったっけ…)
一瞬、不安がよぎる。
でも、深呼吸して声を張った。
「皆様、まずお伝えしたいことがございます。
**本日をもって、一日の労働時間は十六時間から八時間に短縮**いたします!」
「…は?」
ざわめきが広がる。
私がゆっくり続ける。
「残りの八時間は、**家族と過ごす時間**、そして**新しいスキルを学ぶ時間**です。
鍬振りだけじゃなく、**水路作りや土木、家畜管理**も順番に覚えていただきます。
そして──**頑張った分だけお給金が増える仕組み**を導入いたします。
収穫量が上がれば**ボーナス**、新しい技術を覚えれば**昇給**ですわ。
最後に、**病気や出産の時はお休み**が取れます。
年に五日間、必ずです。」
会場が静まり返る。
農民の一人が震える声で──
「そ、それ…本当か? 騙されても泣くだけだが…」
私が微笑む。
「**紙に書いてお渡しします**。違反すれば、私が責任を取りますわ。
──さあ、新領地改革、一緒にやりませんこと?」
農民たちの目が、初めて希望の色に変わった。
***
**翌朝──領主館執務室。**
エドガー殿下と二人、羊皮紙に改革スケジュールを書き込む。
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【短期改革ロードマップ】
一週目:就業規則公布+帳簿整理法統一
二週目:水路整備プロジェクト(残業禁止)
三週目:ボーナス支給+スキル研修開始
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「素晴らしいです、お嬢様。
理屈は通ってますが…領民がすぐ理解するかどうか、少し心配ですな。」
エドガーが現実的な懸念を口にする。
私が返す。
「だからこそ、**紙に書く**んです。口約束より信用されますわ。
前世では、こんな改革提案しても『コストかかるから却下』で終わりましたけど…
今は私がトップ。残業代もちゃんと出るし、最高の転職先ですこと。」
窓の外では、農民たちが初めて笑顔で鍬を握っている。
チートウィンドウが更新された。
```
【エルウィン辺境領】
離職率:89.7% → 72.3% 忠誠心:12% → 28%
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エドガーが微笑む。
「では、本日の残業は…?」
「**定時退庁**ですとも! 労基署…いえ、王立監査院も見張ってますわよ?」
二人で顔を見合わせ、笑い合う。
──ホワイト領地改革、二日目の朝だった。
(第2話 完)




