蝶よ、花よ
幼い頃から父親っ子だった。父親がテレビを見るなといえば、それに従い、勉強はほどほどでいいと言われれば、なにも考えず、己が身を飾ることに専念した。
私は他の子たちと、なにか違う。
その違和感を父親にぶつけると、
「女は幸せな結婚をして、子どもを産み育てればそれでいいんだ」と言われた。
お母さんは複雑な表情をして、それを見ていた。
成長して、素敵な男の人と出会った。
「大和撫子っていうのかな?今どき珍しいよ」
という初めの感想から、徐々に、
「頭からっぽなんじゃないの?」という嫌悪に変わっていき、別れた。
私は、なんにももたないデク人形?
ぼろぼろ泣き続けた。
「きみ、ちょっと話さない?」
父親と同じくらいの年齢の男の人に声をかけられた。
「……きみは、お父さんにマインドコントロールされて育ったんだね」
「えっ?」
「被害者だ。誰もが自分をしっかり持とうとする中で、きみはそれができないでいる」
「どうすれば良いのですか?」
「俺がもし、そういう男だったら、夜の仕事につかせて吸い尽くすだろうな」
「い、いや」
「もちろんそんなことはしない。だが、運が悪かったかもな。俺はA国のスパイで、お前を教育し直すことができる」
それがなにを意味するのかわからないでいた。
「どうして……こんなことに」
父親が泣いていた。
コールドスリープに入った私は、半分眠った意識の中で父の声を聞いた。
膨大な量の機密を脳に刻まれて、次の時代へ運ぶ仕事。私はそれに誇りを感じていた。
私と他に何人か同じ任務についていて、全員揃った時、新世界が拓けると言われていた。
「お父さん、泣かないで。私は、ホンモノの幸せを手にしたの。誇りに思って」
まどろむ心地よさに身を委ね、凍ってゆく。
「お願い、親孝行だと思って。私は私になるの」
冷たい。ただそれだけ。
蝶よ、花よ、と育てられることはとても嬉しかったけれど、私は、私として生きたいの。
私をこうした男が、私の父親を罰してくれるだろう。愛していたのか?もう、わからない。




