バニーガール
•ミキ:クラブで働くバニーガール。母の影を嫌いながらも夜の世界に生きる。自由を願いながらも、愛に縋るうちに堕落していく。
•山並:クラブを仕切る黒服。冷静沈着だが、ミキを守るために組を裏切る決意をする。彼女にとっては檻であり、同時に唯一の救い。
•組の男たち:裏社会に繋がる暴力団員。冷酷に二人を追い詰め、逃げ場を奪う。
夜の街で生きるバニーガール・ミキは、自由を夢見ながらも逃げ場を失い、煌びやかなネオンの檻に囚われていた。
そんな彼女を陰ながら守ってきたのは、冷静沈着な黒服の男・山並。
彼は客とのトラブルから彼女を庇い続けるうち、裏社会の組織から目をつけられる。
やがて組は、落とし前としてミキを差し出すよう命じる。
抗えば自らの命を失うと知りながら、山並は組を裏切り、ミキを連れて逃亡を決意する。
しかし夜の世界に逃げ道はなく、二人は追っ手に追い詰められていく。
――「命を選ぶか、愛を選ぶか。」
最後の選択を迫られたミキは、ためらうことなく山並と共に堕ちる道を選んだ。
銃声が響く廃墟の夜明け、二人は抱き合ったまま血に染まり、朝陽に包まれて静かに息を引き取る。
煌びやかで残酷な夜の世界。
そこで芽生えた愛は、救いではなく――永遠の檻だった。
(場面:閉店後のクラブ。煌めいていたネオンは落ち、薄暗い照明と煙草の残り香だけが漂う。テーブルには割れたグラスが転がり、静けさの中に不穏な気配が残っている。)
ミキ「……さっきの客、まだ店の外で騒いでるの?」
(不安げに手を組み、山並を見上げる)
山並「……もう帰した。だが、しばらくは面倒になるかもしれねぇ。」
(血のにじむ拳を軽く振って、笑みを作る)
ミキ「……その手……また、あなたが……。」
(震える声)
「どうして……どうしていつも、私なんかのために……。」
山並「“私なんか”じゃねぇ。
お前がいるから、俺はここで立ってられるんだ。」
(強く見つめ、低く囁く)
「だから、もう逃げるな。」
ミキ「……でも……外に出れば、私は自由に……」
山並「外? ――笑わせんな。」
(冷たい声に変わる)
「外には、もっとタチの悪い連中がいる。お前が一歩でも踏み出せば、骨の髄までしゃぶられる。」
(近づき、彼女の顎を掴む)
「檻だと思うなら、それでいい。……けど、その檻の鍵は俺が持ってる。」
ミキ「……そんなこと言われたら……もう抗えないじゃない……。」
(瞳に涙を浮かべる)
山並「抗う必要なんて無ぇ。」
(唇を重ねる。長い沈黙の口づけ)
「堕ちろ、ミキ。俺と一緒に。」
(ミキは目を閉じ、静かに頷く。頬を伝う涙は、拒絶ではなく覚悟の証。)
ミキ(心の声)
「――これは愛? それとも鎖?
答えを知る前に……私は自ら堕ちていく。」
(山並の携帯が震える。画面には暴力団の名が光る。)
山並「……呼び出しだ。今夜は長くなる。」
(立ち上がり、背を向ける)
「ミキ、ここで待ってろ。……お前は、もう俺の女だ。」
(ドアが閉まる。残されたミキは震える手で唇をなぞり、微笑む。)
ミキ(小さく)「……私の夜は、もう終わらないのね。」
(暗転。煙草の匂いと、遠くのサイレンだけが響く――。)
(場面:人気のない路地裏。クラブの喧騒から離れ、湿った夜風が吹き抜ける。山並は携帯を切り、煙草を踏み消す。ミキが追いかけてくる。)
ミキ「山並……どうして出て行ったの? さっき、電話……組の人じゃなかった?」
山並「……聞いてたのか。」
(苦い顔で煙を吐き出す)
「ああ。組からの“命令”だ。お前を……差し出せってよ。」
ミキ「……え……。」
(青ざめて後ずさる)
「わ、私……そんな……どうして……。」
山並「お前が客を拒んだ。あの男は組に太いパイプを持ってる。だから“落とし前”として……。」
(拳を握り締め)
「だが、俺は渡さねぇ。ミキ、お前は俺の女だ。」
ミキ「……でも、そんなことしたら……山並、あなたが……!」
山並「わかってる。組を裏切れば、俺はもう生きちゃいけねぇ。……だが、いいんだ。」
(真っ直ぐに見つめ)
「お前一人を、この腐った檻から連れ出せるなら、それでいい。」
ミキ「……そんな……私のせいで……!」
山並「違ぇよ。お前がいなきゃ、俺はとっくに壊れてた。」
(そっと頬に触れる)
「だから……一緒に逃げよう。地獄の果てでもいい。」
(遠くでエンジン音。黒塗りの車が路地に入ってくる。ヘッドライトが二人を照らす。)
ミキ「……来た……!」
(恐怖で震える声)
山並「走れ、ミキ!」
(拳銃を懐から抜き放つ)
「ここから先は、俺が全部背負う!」
(銃声が夜を裂く。ミキは涙を振り切って走り出す。振り返ると、山並の背中が光に照らされ、影が長く伸びていた――。)
ミキ(心の声)
「……私の夜は、彼の血で赤く染まっていく。
それでも……彼の選んだ愛から、もう逃げられない……。」
(暗転。銃声とサイレンが混ざり合う。)
(場面:夜明け前の廃ビル。ガラスの割れた窓から冷たい風が吹き込む。二人は走り続け、息を切らして座り込む。)
ミキ「……もう、ここまで来れば……大丈夫……?」
(額に汗を浮かべ、山並にすがる)
山並「いや……奴らは必ず追ってくる。組を裏切った俺を……生かしちゃおかねぇ。」
(震える手で銃を握りしめる)
ミキ「そんなの、いや……山並……私、あなたを失いたくない……!」
山並「ミキ……。」
(彼女の手を強く握り、苦笑する)
「俺だって失いたくねぇ。でもな……命と愛は、同時には選べねぇんだ。」
(外で車のドアが閉まる音。足音が近づく。)
ミキ「……来たのね。」
(恐怖に震えながらも、山並を見つめる)
山並「あぁ。……俺がここで時間を稼ぐ。その間に逃げろ。」
ミキ「そんなの嫌! 一人でなんて……行けない!」
山並「ミキ……愛してる。だからこそ、お前には生きてほしい。」
(涙をこらえて、彼女の唇に最後の口づけを落とす)
「……命を選べ。」
ミキ「……愛を捨てろって言うの?」
山並「違ぇよ。愛を残して生きろって言ってんだ。」
(ドアが蹴破られる音。銃口がこちらに向けられる。)
ミキ(心の声)
「――命か、愛か。
どちらを選んでも、きっと地獄。
それでも、私が選ぶのは――」
(銃声が響き、画面は暗転。)
山並「……ミキ、逃げろッ!」
(彼は銃を構え、立ち上がる)
ミキ「……いや。」
(静かに首を振り、彼の背にしがみつく)
「山並……私は、一人じゃ生きられない。」
山並「バカ! 生きろって言ってんだよ!」
ミキ「……生きてても、あなたがいないなら……それは死んでるのと同じ。」
(涙を溢れさせ、彼の唇を塞ぐ)
(短い、けれど永遠にも思える口づけ。銃声が重なる。)
(ミキの身体が小さく震え、血が胸を染める。山並もまた、肩を撃ち抜かれ、膝をつく。)
山並「……ミキ……!」
(彼女を抱き締める。震える声)
「何で……命を……」
ミキ「……だって……私、愛を選んだから……。」
(かすかな微笑み。視線はぼやけていく)
「あなたと一緒なら……怖くない……。」
(山並の目に涙が溢れ、彼女を強く抱き寄せる。)
山並「……俺もだ。……最後まで……お前と一緒だ……。」
(外から怒号が響く。だが、二人にはもう関係ない。抱き合ったまま、血に染まる床に横たわる。)
ミキ(心の声)
「――夜は終わらない。
朝陽が差しても、私たちの愛は……闇の中で生き続ける。」