交易の時代(2)
「カフヴェはオスマン帝国でもしばしば禁止されるのです。ヨーロッパでカフヴェを売るのは簡単ではありませんぞ。」
ハサンは正直に交易品の問題を明かした。
ルチオは偽の髭を撫でながら尋ねた。
「カフヴェが禁止される理由は何ですか?」
「カフヴェを飲むと少し興奮して眠れなくなるのです。このような状態を一部の宗教指導者たちは不純だと見なすのですよ。」
「アラビアのすべての国々がカフヴェを禁じているのですか?」
「そうではありません。一部の話に過ぎません。大多数のアラブ人は、疲労を和らげる飲み物として認識したり、インスピレーションを呼び起こす飲み物として好んでいます。」
「それなら問題はないでしょう?私にとっては問題ありません。」
見るまでもない。コーヒーの輸入は早く始めた者が勝つゲームだ。
ルネサンスをコーヒーで染める計画。
ルチオが好きなコーヒーと好きなルネサンス、良い組み合わせだった。
「では、エチオピアのカフヴェの生豆を輸入したいです。」
「生豆?我々はカフヴェチェリーの生の果実しか扱っていません。生豆はどの商人も扱っていませんぞ。」
ルチオは少し戸惑ったが、これもまた現代との違いの一つだった。
この時代ではコーヒーの果実の処理が流通過程に含まれていなかったのだ。
「ああ、はい。では生の果実を輸入するしかありませんね。」
そのコーヒーチェリーを輸入してフィレンツェで生豆を分離するしかなかった。
いずれは現地で果肉を分離して生豆だけを輸入できるようになるだろう。
「よろしい。ではどのくらい取引するつもりですかな?」
「最初はサンプルとして少量を輸入するつもりです。しかし、徐々に量を増やしていきます。」
歴史的に見てもコーヒーの流行は難しくなかった。
貴族や宗教指導者の間で流行が始まれば、広がるのは一瞬だ。
「ムスリムに寛大なヨーロッパ人なら初対面でも信用できます。契約書は持ってきましたか?」
「ありがとうございます。ささいな取引にもかかわらず、快く応じてくださって。」
「何を言っているのです。我が方にとってはメディチ家と取引できることだけでも悪くないことですよ。」
二人は契約書を交わしながらお互いの条件を確認した。
その後、立ち上がって握手を交わした。
『やった。コーヒーを手に入れた!』
ルチオは満足した。
イブラヒム・ハサンもいずれ知ることになるだろう。
軽い気持ちで締結したこの契約がどれほど大きなチャンスだったかを。
***
コーヒーチェリーはまず3袋受け取って果肉を除去し、生豆を乾燥、発酵させた。
果実の処理法については詳しくなかったのでハサンの助けを借りたが、おかげで現代のコーヒーとほぼ同じものが作れた。
『おお、この香り。これだ、これ。』
ルチオは原始的な方法でコーヒー豆をカリカリと焙煎した。
前世でハンドドリップコーヒーを学んだ際にローストも習っていたので大きな困難はなかった。
こうして焙煎した豆をよく挽いて水と一緒に煮れば、それがまさにアラビアでよく飲まれる煎じ式のコーヒーだ。
焙煎に集中していると、屋敷中に香ばしいコーヒーの香りが立ち込めた。
「この匂いは何ですか?」
好奇心を抑えきれなかった侍女たちが時々ルチオの部屋をノックして入ってきた。
しかしパオロが重要な実験中だといって何度も追い返した。
ルチオは厳しいふりをするパオロを見て呆れた。
「パオロ、これはそこまで秘密にすることじゃないよ。」
「ですが、私はルチオ様から一生懸命学んでいる最中です。このパオロが熟達した後に秘密を共有いたします。」
「どうせレオナルドにも方法を共有するつもりなんだけど。」
「少なくともメディチ邸の使用人の中では、私が誰よりも先です。」
「本当に大したことないってば。」
ようやく煮出したコーヒーを濾して完成させた。
コーヒーを試飲したパオロは非常に毅然とした表情で言った。
「ご覧ください。この香りは素晴らしい。この悪魔の飲み物を誰にでも見せるわけにはいきません。」
「悪魔なんて言うな。変な噂が立ったら本当に教皇庁から捕まえに来るかもしれないぞ。」
「ですがこの苦味と香りを体験したら、悪魔以上にふさわしい言葉が思いつきません。」
ルチオは渋い顔をしながらパオロの言葉を訂正した。
「違うよ。悪魔じゃなくて天使の飲み物さ。それが正しい表現だ!」
「まあ、そう考えるとまたそう感じられますね。天使の歓喜が込められた飲み物…と言うにはあまりにも黒すぎますが。」
その時、ルチオはひらめいた。
「アンジェロ・ネロ(黒い天使)と名付けよう。」
するとパオロは拍手して喜んだ。
「それです!コーヒーの別名としてこれ以上のものはありません!」
「適当な時に使うための別名だから、広めないように。」
「もちろんです。私はルチオ様の意に反することは絶対にしません。」
コーヒーが完成すると、陶器のポットに注いでロレンツォのもとへ持っていった。
執務室にいたロレンツォは陶器のポットを見て不思議そうにした。
「ルチオ、それは何だ?」
「以前に申し上げたのを覚えていますか?アラビアの交易品のことです。」
ロレンツォがこの飲み物の香りを嗅ぐと、今にも惹き込まれそうなほど魅力的だった。
「コーヒーとか言ってたな?あの交易品のことか。」
「はい。味も香りも良いですが、何よりお父様の痛風予防に効果があります。」
「痛風?」
「はい。先代のお祖父様のように、お父様も痛風のリスクが高いので、前もって予防しなければなりません。」
「お前がそんなに私を気遣ってくれるとは思わなかったな。」
ロレンツォの父であるピエロ1世は、結局痛風とそれに起因する合併症で亡くなった。
晩年にはほとんど動けず、激しい痛みに苦しみながら死んだのだ。
ロレンツォもまた痛風で死ぬ。没年は1492年だから、残りはたった16年しかない。
しかしロレンツォは早く死んではいけない人物だった。
『ロレンツォは歴史的事実だけ見ても本当に素晴らしい人物だった。』
歴史には彼の欠点や失敗が多く語られているが、人柄に関する非難は一度もない。
それはロレンツォの時代でも、またその後の時代でも変わらなかった。
『ロレンツォはルネサンスをルネサンスらしくする人物だ。16年後に死ぬなんて、あまりにも惜しい。』
すでにレオナルド・ダ・ヴィンチがフィレンツェを離れるという歴史さえ変えてしまった今、ロレンツォの寿命を延ばすことなど大したことではない。
何より父親ではないか。
父が16年後に死ぬという事実を知っていながら、息子としてその未来を変えるのはごく自然なことだ。
「一度お召し上がりください。」
とくとくとく。
濃い黒色の飲み物が茶碗を満たした。
ロレンツォはコーヒーではなく、ルチオをじっと見つめた。
12年も放っておいた父を恨んでもおかしくないのに、子どもはむしろ父の健康のために遥か遠くアラビアの飲み物を輸入したのだ。
すでに胸がいっぱいになった。
ロレンツォは込み上げる感情を抑えつつ、平静を装って杯を手に取った。
「ありがとうよ。でも痛風の予防が目的なら、儲けは少ないんじゃないか?」
「お父様の健康を考えて見つけたのは事実ですが、味と香りが優れているので、すぐに流行ると思います。」
「ということは、この飲み物は薬ではなく嗜好品に分類されるわけだな?」
「はい。人々が豊かになるにつれて嗜好品の消費も増えるので、輸入量も徐々に増えていくでしょう。利益も増えるはずです。時間の問題です。」
ロレンツォは頷き、にっこり笑った。
ルチオの交易はメディチ銀行を通じて行われるので、最終的には家門の財政にも役立つことになる。
以前、少し資金を支援してくれと言っていたが、まさかこんなことを企んでいたとは。
ルチオが頼もしく思えると同時に、自分の血筋から生まれた才能を誇らしく感じた。
ズズッ。
ロレンツォがコーヒーを飲んでみると、香りでは予想できなかった苦味が口の中に広がった。
だが、後味が悪くなく、非常にすっきりとした苦味だ。大人であれば十分に楽しめる味だった。
「君の言う通り、味も香りも実に良いな。しかも痛風にも効くとは、素晴らしい。」
「もちろん、コーヒーだけに頼ってはいけません。痛風予防の努力も必要です。」
「努力か。私は何をすればいい?」
「お肉やお酒を過度に召し上がらないようにしてください。特にビールのようなお酒は避けてください。運動も規則的にされるのがよいです。」
「ルチオ、それはどこで聞いた話だ?お前の祖父を診た医者たちはそんな方法を一度も言ったことがないぞ。」
「イスラムの商人を通じて聞きました。痛風という病は過飲、過食によって起こるそうです。」
イスラムの話が出ると、ロレンツォは頷いた。
『この時代はイスラム医学が優れていると知られていた時期だったな。』
痛風がどれほど苦しい病か、ロレンツォはよく知っていた。
ルチオの助言通りに注意すれば、寿命も少しは延びるだろう。
***
「パオロ、お前の手は繊細じゃないな。焙煎されたコーヒーの色が均一じゃなかった。」
食堂ではレオナルドが手際よくコーヒーを焙煎し、挽き、煎じ、濾して飲み物を完成させた。
『私が作ったものよりも優れてるじゃないか?』
ルチオだけでなくパオロも、ぽかんと口を開けて感嘆した。
パオロのデモンストレーションを一度見ただけで習得してしまったレオナルドの技を見物する時間だった。
「レオナルド、卓越した芸術家の腕前で淹れたコーヒーは、やはり芸術的ですね。」
「でもこのコーヒーってやつは、すごく繊細だな。作る人の腕によって味の差が大きい。」
「私もその点が気がかりです。腕が足りない人でも美味しいコーヒーを作れるようになれば、もっと普及しやすいんですが。」
「コーヒー作りが基本教養のアラビアとは事情が違うから仕方ないね。」
「それをどうにかする方法はないでしょうか?」
「道具が必要だな。ちょっと考えてみよう。」
「メディチ家なら支援してくれるでしょう。パオロ、どこか良い鍛冶屋はありませんか?」
「家門の仕事をよく任せている鍛冶屋があります。詳しい設計図を描いてくれれば大丈夫でしょう。」
レオナルドはすぐにすらすらと絵を描いた。
設計図をあんなに一気に描く人は初めて見た。
彼がざっと描いた絵だけでも、構造が理解できた。
『これは…ドリッパー?形は漏斗に近いが、原理はあれと同じだから。すごいな。』
コーヒー粉を濾しながら液体を中央に集めてカップに注ぐ道具。
コーヒーを煎じずに、漏斗の中に粉を入れて熱湯を注げば、それがドリップコーヒーだ。
『それにあのグラインダー。上で挽いて、粉は下の容器に溜まる構造だ。これなら粉の粒度も均一になるだろう。』
ミキサーのようなものとは違って、すでに挽かれた粉がさらに細かくなるのを防ぐ構造だ。
簡単に描かれた設計図が最も現代的に工夫されていたことに、ルチオはとても驚いた。
『ああいうのが天才というのか?問題は鍛冶屋の技術力であって、構造そのものは優れている。』
これが収束進化というやつか。
ここに砂時計のようなものを加えれば、コーヒー製造をマニュアル化できるだろう。
そうすれば誰でも簡単にコーヒーを作ることができ、普及にもつながる。
『これらの器具も大量に作って、コーヒーと一緒に販売しなきゃな。』
そこにはレオナルドの持ち分も相当量与えるつもりだった。
「焙煎の段階が一番の問題だな。これだけは各人の目利きに頼るしかなさそうだ。」
「そのくらいの不便は各レストランが我慢すべきです。あるいは、私たちが焙煎した豆を売ってもいいですし。」
「それも良い考えだ。」
その時、ボッティチェッリがコーヒーを飲んで叫んだ。
「いいことを思いついた!コーヒーに酒を混ぜるのはどうだ?」
ルチオは舌打ちした。
『まったく、酒に関してはすごい御仁だな。もうカクテルを作ることを考えるなんて。』
現代にもそういう飲み物は多かった。カフェ・ロワイヤル、アイリッシュ・コーヒー、カルーアなど。
「どんな酒とどの比率で混ぜれば美味しくなるか、かなり研究が必要ですね。」
「研究が必要ってことは、たくさん飲まなきゃならんってことだろう!俺がやってみる!」
ボッティチェッリ(小さな酒樽)でありながらたくさん飲むと言うなんて、ルチオは少し呆れた。
それでも成功すれば良いメニューが一つ増えるのだから、むしろ勧めるべきことだった。
「レオナルド、これだけあればレストランを救うメニューとして十分じゃないですか?」
「十分どころか、コーヒーが少しでも知られればレストランはとても忙しくなるだろう。」
「それだと困るんですけど。」
「え?困るとはどういうことだ?」
レオナルドはきょとんとした。
レストランを救うメニューを導入しておいて、いざ忙しくなれば困るとはどういう意味か。
「レオナルド、その道具ができれば、誰でもコーヒーを作れるようになりますよね?」
「そうだな。」
「じゃあ、レストランは従業員を雇って運営して、レオナルドは私と一緒に別のことをやりましょう。」
「従業員だと!そこまで忙しくなるなら当然雇わないと。で、別の仕事って何だ?」
「山ほどありますよ。そして第一に、わたあめ機を作らなきゃいけません。」
「わた…何だって?」
レオナルドは「なんだこの頭のおかしい奴は」という顔をした。