傭兵たち (1)
あの偉大なレオナルド・ダ・ヴィンチの剣術を見てみたいとは思っていた。
だが、こんなに早く見ることになるとは、ルチオは思ってもみなかった。
「今、俺たちを相手に強盗を働こうってのか?」
ハルバードを持った集団が道を塞ぎ、ルチオ一行を脅してきた。
この時代にハルバードを装備した武装集団といえば、間違いなくライスロイファー(スイス傭兵)だ。
身なりも態度も荒々しく、トスカーナ語にも不慣れで、話し方がたどたどしい者たち。
それに加えて、飢えているのか、力もなさそうだった。
「そうだ、強盗だ!だから持ってるものを全部よこせ!」
「バカじゃないの?どこの商人が金を持ってこんな険しい道を通るのさ?金は全部銀行にあるに決まってる。」
「うるせえ。言い訳はいいから、金がないなら他の物でも出しやがれ。」
「ないって言ってるだろ。確かめてみな。」
ルチオが馬車の後ろの荷物室を開けたが、何もなく空っぽだった。
当然だ。この空間にはこれからコーヒーチェリーを積む予定だったのだから。
もちろん、荷物があったとしても渡すつもりはない。
「じゃあ、その馬と馬車を奪ってやる!」
ガンッ!
ハルバードで荷室を無理やり破壊した。
従者のパオロと御者は震えていた。
奴らの一人が御者に火縄銃を向けていた。火縄に火もつけずに。
『ライスロイファーは銃なんか使わないはずだが……どこかで奪ったのか?』
彼らは誇りに生き、誇りに死ぬスイス傭兵だ。
火縄銃のような不名誉な武器を持ち歩くはずもないし、規律も厳しく民間人を脅すようなこともない。
「お前たちの隊長は誰だ?」
「へ?隊長?」
「隊長」という言葉に驚いた様子がはっきりと見えた。
規律の厳しい隊長が別にいるのは確かだ。だが、何日も飢えれば規律も乱れる。
「えっと……そうだ、隊長。隊長は俺だ。さっさと持ち物を全部差し出せ。」
「金なんかないってば。」
「坊や、お前な……そんなことしてると本当に痛い目見るぞ?ふざけてると思ってんのか?」
レオナルドが突然馬車から降りて、彼らに近づいた。
腰に剣を差した男が無言で近づいてくるものだから、傭兵たちは驚いて槍を構えた。
「お前、何者だ?」
「イライラする奴らだな。トスカーナ語の勉強でもして出直してこい。」
レオナルドは素早く奴らの間に入り込んだ。
シャキン!
一瞬で剣を抜くと、二人の腕を素早く斬りつけた。
「うわああっ!」
腕から血が噴き出た二人は、傷を押さえて転げ回った。
実戦とはこのように、一瞬で始まり、一瞬で終わるものだ。
長年剣を習ってきたルチオの目には、レオナルドの動きが非常に洗練されて見えた。
『ポスタ・デ・フィネスタラ(突き)から続くポスタ・デ・ドナ(斜め斬り)、トゥータ・ポルタ・デ・フェッロへと続くきれいな防御姿勢、そしてあのミューティエレン(絡めとって押し込む動作)の鋭さ、あれは本物の達人だ!』
ルチオは、レオナルドのロングソード剣術を見るだけで快感を覚えた。
『現代の剣術復元は本当によくできていたんだな。自分が知っている通りの、ハイレベルな技術だ。』
しかも、ハルバードを持った相手に密着して間合いを潰すという点も、熟練の戦術だった。
理屈では簡単でも、身体で実行するには相当な実戦経験が必要だ。
もう一人が槍を突き出そうとしたが、レオナルドは即座に敵の懐に飛び込み、槍を奪って遠くに投げ捨てた。
ヒュンッ!
「パン・ディエ・ユングス!」
『お、ドイツ語、やっぱりスイス傭兵だな。』
ルチオも素早く馬車から降りて小柄な身体で跳びかかった。
そして、火縄銃を持った傭兵に接近し、サイドソードを目の前に突きつけた。
「ヴァス?ヴァス?」
強盗を働こうとしていた四人の傭兵たちは、反撃する間もなく武装解除された。
レオナルドの素早い剣技に加えて、奴らがあまりに飢えていて疲れていたせいだった。
ルチオが彼らに問いかけた。
「お前たち、ライスロイファーだろ?」
「あ……うん……まあ、悪かったよ。俺たちは行くよ。」
よく研がれたサイドソードを奴の頬にぴったりと当てた。
「お前たちの隊長は誰だ?この近くにいるんじゃないか?」
「隊長なんていないけど……?」
馬鹿なことを。
『「隊長」という言葉に毎回ビビってるくせに、隊長がいないだと?』
「目ん玉くり抜くぞ?」
刃先が頬骨のあたりをかすめて血がにじむと、奴はため息をついた。
「隊長のところに戻ったら、俺たち殺される……」
「隊長に殴られて死ぬか、俺に刺されて死ぬか、どっちがいい?」
ルチオがいたずらっ子のようにニヤリと笑うと、傭兵たちは頭のおかしい奴を見たように震えた。
四人の傭兵は、パオロによって丁寧に、そしてほどけないように縛り上げられた。
レオナルドが剣を納めながら尋ねた。
「こいつらの隊長のところに行って何をするつもりなんだ?そのままピサの役人に引き渡せばいいんじゃないのか?」
「役人に引き渡すより、もっと嫌がることをしてやりたいんですよ。」
「でも危険すぎないか?そこに盗賊がどれだけいるかも分からないんだぞ?」
「盗賊じゃなくて、ライスロイファーですよ。」
「統制のとれてない傭兵団なんて、盗賊と同じだ。」
「こいつらが統制されてないだけで、隊長は別ですよ。隊長のとこに戻ったら殺されるって言ってるじゃないですか。つまり規律が厳しいってことです。」
「お前はたまに、何考えてるか分からん。」
「ピサまで連れて行くより、早くて確実な方法があるってことです。」
そうは言ったが、実際にはルチオはスイス傭兵を見た瞬間にひらめいた。
『フィレンツェの弱点を克服する方法が、勝手に転がり込んできたんだ。逃すなんてバカだろ。』
他の傭兵ならともかく、スイス傭兵だぞ。
これはダメ元でもやる価値がある。
***
ライスロイファー、スイス傭兵たちは駐屯地に連れて行かれながらも、心配そうだった。
「火縄銃は公子様に差し上げますから、どうか隊長には言わないでください。」
馬車に縛られて運ばれながら、彼らは震えながら何度も懇願してきた。
「俺は公子なんかじゃない。だいたい、なんで俺がお前らの言うことを聞かなきゃいけないんだ?」
「ライスロイファーにとって、銃は卑怯の象徴なんです……」
「武器はなんでも使えるのが傭兵だろ、卑怯も何もあるか。」
スイス傭兵たちは正々堂々と戦うことを名誉と考えていた。
弓さえ使わないのに、火縄銃を名誉と感じるはずもない。
『でも俺にとっては幸運だ。火縄銃なんて、ここからどれだけの技術を発展させられるか!』
前世で兵器技術も学んでいたから、銃器の進化には明るい。
それを工学的に再現してくれる人も、すぐそばにいる。
銃器マニアも満喫できるぞ!
「こちらです。」
連れてこられた傭兵が、遠くにある駐屯地を指差した。
山にぴったりと張り付くように形成された駐屯地は、一目で見ても数百人規模だった。
駐屯地の入口を守る衛兵たちは、かなり規律が厳しそうだった。
「誰だ?」
「脱走兵を捕まえてきました。私たちを相手に強盗行為を行いましたが、こちらの出身だと言っていました。」
「なっ!ちょ、ちょっと待ってください……」
衛兵は慌てて駐屯地の中へ入り、隊長を連れてきた。
「スイスのアルビン・フォン・シレネンと申します。部下たちの惨憺たる行動に、顔を上げることもできません。」
四十代と見える典型的な軍人だったが、かなり品のある貴族の話し方だった。
しかしルチオの記憶には、その名はなかった。
この時代の人名や地名、歴史的事件はたいてい覚えている。
そのルチオの記憶にないということは、歴史に残らなかったか、記録が少なかったか、見落としていたかのいずれかだろう。
「彼らをどうされるおつもりですか?」
「厳しい処罰を与えるつもりです。あなたに対して無礼を働いたことは、決して見過ごすつもりはありません。」
スイス人ながらトスカーナ語も堪能で、貴族らしく修辞も華麗だった。
だが、彼の返答は嘘のない事実だとすぐに分かった。
強盗行為をした部下たちを見る目があまりにも冷たく、連れてきた者たちの顔は青ざめて死にそうだった。
ルチオは捕まった連中の顔を見て、言葉を続けた。
「幸い、私たちが制圧しましたが、フィレンツェでは強盗に襲われたという話がたびたび出ています。」
だが、隊長アルビンは意外なことを言った。
「本来なら補償を差し上げるべきところですが、事情が芳しくなく、どうかご寛容いただきたく存じます。」
これほどの規模の傭兵団が他国にいながら、事情が悪いとは。
確かに、兵士が飢えて脱走するほどなら、それも事実だと見るべきだ。
「お気になさらずに。私たちは何の被害も受けていませんから。」
「それはありがたいお言葉です。率直に話していただき、感謝いたします。フィレンツェに他の被害者がいるようでしたら、後日必ず補償するとお伝えください。」
「ところで、事情が芳しくないというのは、差し支えなければお聞かせいただけませんか?なにかお困りのようで……」
レオナルドが肘でつついて「首を突っ込むな」と言いたげな視線を送ってきたが、ルチオは知らん顔をした。
アルビン隊長は慎重に口を開いた。
「我々の傭兵団はリアーリオ領に雇われていたのですが、契約上の問題がありまして。」
ルチオは一瞬固まった。
『リアーリオ領だって?』
イーモラ市の領主、ジローラモ・リアーリオ伯爵の領地のことだ。
『イーモラ以外にもトスカーナに領地があったのか。』
レオナルドとメディチ家の同性愛告発事件を仕組んだ疑いのある男。
ルチオはさらに踏み込んだ。
「もしお手伝いできることがあれば協力したいのですが、詳細をお聞かせ願えますか?」
「ありふれた金銭問題ですよ。我々はリアーリオ領で私兵として働いていましたが、家から報酬が支払われなかったのです。」
「では、報酬ももらえずにそのまま退去しなければならなかったのですか?」
「我々ライスロイファーはそれほど甘くはありません。ただ、契約期間が終わるや否や、さらに多くの傭兵が押し寄せてきて、手の打ちようがなくなってしまいました。」
「取り返すまでここに駐屯するしかないということですか?」
「いえ、スイスは現在戦争中で、早く帰還しなければなりません。もともと我々も守備隊に所属しているもので。」
「戦争ですか……旅費のご用意は?」
兵士たちが飢えているのに、どこへ帰れるというのか。
果たして、アルビン隊長は深いため息をついた。
「それが一番の問題なのです。」
この時期、スイスが参加していた戦争といえば、言うまでもなくブルゴーニュ戦争だった。
フランスまで巻き込んだ複雑な戦争だが、簡単に言えば、ブルゴーニュ公シャルルとスイスの領土争いだ。
この戦争は、最終的に1477年、スイスの勝利で終結する。
『むしろ好都合だ。今この人たちを雇っても、2年以内に使うことはなかったからな。』
フィレンツェは軍事力が弱いが、それが問題になるのはもっと後の話。
それなら2年後に雇う条件が最善だ。
「我が商会と家門で、アルビン隊長のお役に立てる道を相談してみます。」
「お言葉だけでもありがたい。ですが我々は正式に訴訟を起こして、リアーリオ家から報酬を取り戻すつもりですので、どうかお気遣いなく。」
アルビン隊長は辞退したが、ルチオはこの機会を逃すつもりはなかった。
15世紀最強とまで言われたスイス傭兵を、どうにかしてフィレンツェに引き入れたかった。
どうせ傭兵団を雇うなら、スイス傭兵が最高だ。
「食糧をケチらず、しっかり食べさせながらお待ちください。すぐに良い知らせを持って戻りますから。」
***
ルチオの心の中では、アルビン隊長はすでにフィレンツェの守備隊長だった。
傭兵団の駐屯地に立ち寄ったため、ピサに到着したのはかなり遅い時間になっていた。
「パオロ、まず人をやってアンジェロ先生に事情を説明し、明日うかがうと伝えてくれ。」
「かしこまりました。それではイブラヒム様のもとへ向かうのですね?」
「ああ。」
馬車は速歩で走り出した。
以前イブラヒム・ハサンと会った宿屋を目指して。
『コーヒーはすでに大流行だ。俺が独占できる時間も、もうあまり残っていない。』
コーヒー事業は、とんでもない規模になるのが確実だった。
最初から成功が約束された商売ではあったが、ルチオの予想をはるかに超えていた。
だからこそ焦るしかなかった。
『だが、エチオピア産の最高級コーヒーだけは、今後も俺が独占し続けなければならない。』
その点をイブラヒム・ハサンにしっかり認識させなければならなかった。可能なら約束、いや、契約も結ばなければ。
アラビア風の紋様が刺繍されたタペストリーが、視界に入ってきた。