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老い

作者: 月島 真昼



 その病室は腐った水の匂いがした。

 後ろ手に扉を閉めて二歩近づく。ベッドに横たわる祖父の姿は元の面影をほとんど残していなかった。

 撫でれば皺の寄る手、

 骨の浮き出た首元、

 数秒置きのハー……、ハー……、という醜い呼吸音、

 白い目は半分迫り上がっていてもう見えているのか怪しかった。

 年の割りには多かった髪は白く染まっていた。

 僕は叔母に祖父の顔を見るように言われてそちらの側に回った。祖父が荒い息を吐く度に病人特有の嫌な息が鼻を突く。

 僕は少量の不快感と失望感を持って祖父を見おろした。

 幼いころの祖父は優しく力強く大きかった。よく将棋を指した。僕はいつも勝てなかったけど一昨年に一度だけ勝ったのだったか?

 何事も豪快に笑い飛ばすような性格で僕は畏怖と親しみを持って祖父を密かに尊敬していた。

 老いとはなんだろう。

 なぜ人はここまで醜く堕ちなければならないのか。

 母はこのところ看病で少し窶れていた。こんなことは母の体調に比べればどうでもいいのだが、安価なファミリーレストランに行くことや弁当が増えた。

 祖父は母には厳格だったと聞いている。こんな姿になってなお母を縛り付ける祖父に鈍い苛立ちを覚えた。

 母が僕を病室から連れ出した。

 母の話は僕の耳には半分も届かなかった。

 大学の入学式を終えたばかりの僕はまだスーツ姿のままでこれを一目祖父に見せたかった。

 明日も僕は大学がある。祖父は明日まで生きているだろうか?

 明日、大学にいる途中で祖父の訃報があればどうしようか?

 頭の隅で僕はそんなことを考えている。

 母は強い人だった。一番近くで祖父が衰えて行くのを見ていたはずなのに、泣き言に似たことはほとんど漏らさなかった。

 その母が一言だけ言った。

 辛い、 と。

 母と母の姉と祖母の三人分のご飯と家まで荷物を取りに行くことを任されて母は僕を連れて病室を出た。

 母は大学の話を聞きたがった。

気を紛らわそうとしているのだとわかっていたので僕は少し陽気に言葉を紡ぐ。

 まだ1人だけだが大学で新しい友達が出来たことを話した。僕は内気で人見知りな性格なのを母は知っていたからそれを喜んだ。

 高速道路に入ったとき不意にラブホテルのふざけた名前が目に入って僕は言い様のない怒りを感じた。

 八つ当たりだ、と自分で気づいていた。






 読んでくださってありがとうございましたm(_ _)m

 どうも書かずにはいられませんでした



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― 新着の感想 ―
[一言] 母が長期入院したときのことを思い出し、胸に迫るものがありました。 普段通り陽気に騒ぐテレビに、やけに腹立った記憶があります。 良い内容なので、幾つかの誤字が非常に惜しいです。普段は気にしな…
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