30.王太子妃
イルヴァレアの王宮が、今日ほど美しい日は無い。
鮮やかな花々の中に、花の聖女達のローブが揺れる。
王宮の中、大聖堂前の広大な中庭には、濃い緑の中に紅や群青などの濃い色の花々を中心とした植物が植えられている。
少し季節外れの花でも、今日ばかりは聖女達が祈りを捧げ、満開となっている。
花々の間に渡された支柱には薔薇にしては太いつるが這っている。
エレナは辺りをきょろきょろと見回しながら、この式典に一人の聖女として参加できなかった事を少し残念に思った。
でも主役はもっと嫌だったから良かったのだ!
この大観衆の中、注目されながらアルバローザを咲かせる。そんな事、私にできるわけが無かったのだ!
はっ! だから神様も資格なしとしたのではないか。さすが神様だ。
などと考えながら、エレナはモンフォール家の一員として招待客に紛れ込んでいた。セドリックは裏方で走り回っているのでここには居ないが、家族から離れなければ観にくるだけなら良いと許可してくれた。
エレナは目立つ方では無いが、元同僚があちこちにいるので、ベールのついた大きな帽子で髪と目を隠し、扇子で口元を隠している。まさか死んだエレナがここに居るとは、誰も思っていないから大丈夫だろう。
モンフォール伯爵が選んだ濃い桃色の華やかなドレスは、エレナの清廉さが薄れて愛らしさが際立っている。自分で見ても聖女には見えなかった。変装みたいで楽しい。
セドリックが選んだエレナらしい雰囲気のドレスは、夜の披露宴に着ることになっている。
今日はこの庭まで、一般大衆も入場を許されている。その分ものものしい警備体制で騎士達が目をひからせている。正装の、体格の良い騎士達はそれすらも荘厳な儀式の一部のようだ。
聖堂の正面の大扉も開け放たれている。距離はあるが、祭壇に祈りを捧げるリゼが見えた。
やっぱり、リゼはかっこいいな
エレナではああはならなかっただろう。堂々として雰囲気がある。凛とした存在感がさらに増したように思う。
隣にダリウスが立っているが、リゼに注目が集まっている。婚約の儀から一般には王太子妃扱いだったが、今日のこの儀式をもって、正式な王太子妃となる。
初の公開された儀式だ。それなのに、生まれた時から女王だったような顔をしている。全く危なげなく、粛々と儀式を進めていく。
リゼの凛とした声が響く。祈りというより宣言のような強い声。
祭壇に飾られたアルバローザが一斉に開花し、それがどんどん広がるように、連鎖するように、庭のアルバローザも次々と開いていく。
どのくらいの数のアルバローザが咲くかは、未来の指標とも言われる。二人の絆の強さが祈りの強さとなるのだ。
濃い色で整えられた庭に、多数の大きな白い花が咲き誇る。その数の多さに民衆の歓声が上がる。
その声にかき消されたが、二人が見える位置にいた貴族達はどよめいた。
いつも仏頂面の王太子が、幸せそうに、愛おしそうに微笑み、妃を抱き寄せてキスをしたのだ。
「順番が違うわね」
モンフォール夫人が厳しい目でコメントをした。
「いいじゃないか。ダリウス殿下も我慢できないことがあるんだろ」
モンフォール伯爵が嬉しそうに拍手している。
++
我が妃の活躍が目覚ましい。
ダリウスは同じテーブルで書類に目を通すリゼを見る。
集まった民衆の前で見事にアルバローザを咲かせて、リゼはダリウスとの絆を見せた。
その美しい姿に皆が注目しているのを感じて、これは俺のだぞと思った時には抱き寄せて口づけしていた。後でリゼに怒られた。
その後もすべての儀式、祭礼、全く危なげなく、リゼはこなした。
これまで聖女の王妃は祭礼の為のお飾りというのが常識だったが、リゼはダリウスの補佐を買って出た。
リゼが書類から目を上げる。
「ダリウス、もっと教会に頼るべきだわ。信仰だけは根付いているのだから、それを使わない手はないわよ」
「む、そうか」
セドリックも意見を言う。
「殿下、まずは目的がありませんと。であれば各地の貴族との連携を強めていく必要があるかと思いますが」
「うむ」
「聖女の私が注目されている今だからこそ、やれることってあるでしょう?」
「こういったことは少しずつでも長く続けられる事が重要ですよ」
正式に王太子妃となった日から、リゼはダリウスと対等に振る舞うようになった。公の場ではスイッチが入ったようにツンとすますのに、身内しか居ないとこの通りだ。
ダリウスとしては特別になったようで嬉しいのだが、何故だと聞いたら「私も吹っ切れた。あなたがやりたいようにやるなら私もそうする」と言われた。我が妃は甘くない。
リゼとセドリックは馬が合わないらしく、ダリウスは最近それに挟まれて頭が痛い。
しかし、リゼの話を聞いていると、今までセドリックのいう事しか聞いていなかったなと反省する部分もある。
命の危険も去ったし、これからは広く人と交流していこうと思う。リゼのお陰か、セドリックの可愛げ作戦のお陰か知らないが、だんだん怖がられなくなってきた気もする。
「ならば制度は議会を中心に進め、運営には教会も参加させる方向ではどうだろう? 一方的に決めて結論だけ伝えても動かないだろ。問題はあるか?」
一生懸命に頭を捻っていたらリゼもセドリックもダリウスを見つめた。
「なんだ?」
「我が国の未来は明るいなと思って」
「そうね。ちゃんと人の意見が聞けるようになって偉いわね」
馬鹿にされているような気がしてむっすりと黙り込むと、リゼが笑う。
最近、リゼのお腹が目立ってきた。そろそろ休んだ方が良いと思うのだが、言う事を聞いてくれない。セレネも聖女は安産だから大丈夫と言ってはいたが、心配だ。
でもきっと、守ろうと閉じ込めてしまったら今のこの笑顔は見られない。好きなだけ好きなようにやればいい。そして辛くなったらいつでも安心して休めるように、自分がしっかりしていなければと思う。
お互い支え合いながらやっていくのが、自分たちには合っているのだろう。
怒るのも泣くのも含めて、どんなものでも全部受け入れる覚悟は初めから出来ているのだ。
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。
セドリックの話を書き終わってから、ダリウスはこの後どう幸せになるのだろうかと考えてこのような感じになりました。
ダリウス殿下を幸せできたので良かったなと思います。
読んでいただいただけでも大変嬉しいのです。大変嬉しいのですが、もし、評価の☆☆☆☆☆をぽちっと、押していただけますと、今後の執筆活動の励みになります。
現在、新作を連載中です。こちらはリゼとダリウスの話から、対等な男女のラブストーリーってのもいいなと思って書き始めました。よろしければぜひそちらも→https://ncode.syosetu.com/n8855ke/
最後まで、本当に、ありがとうございました!!




