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【完結】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~  作者: ru
【第二章】聖女達の婚姻 ~王太子のセカンドラブは義務と責任から始まる~
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17.野望に燃える男

 

「いやあ、素晴らしかったよ!」


 ヴァリオンは上機嫌に先程のプレイ(……とは認めたくはないが)の感想を述べる。


 どんなに褒められても、嬉しくはない。


 しかし、この様子からして作戦は成功したと思って良いだろう。

 セドリックはテーブルの向かいに座るヴァリオンに合わせて酷薄な笑顔を浮かべながら思った。


 鞭は上手く振れば衝撃波で破裂音をだせる。実際に当たった音よりずっと大きいし、エレナが本気で怯えてたので誤魔化せただろう。久々に振ったが上手くできてよかった。

 バラ鞭は叩いても跡がつきにくい。服の上からだし、跡がなくても不自然ではない。

 もし万が一、身体に跡がついていないかを見られても誤魔化せる。もしもそんな事をしたら、目玉をくり抜いてやるが。


「彼女は僕の愛が本物だと思っていますから、ヴァリオン殿下は手を出されないようにお願い致しますよ。僕の許しもなく他の男に何かされたら、舌を噛んでしまうかもしれない」

「ならば噛まないようにすれば良いか?」

「それで壊れてしまっても良いんですか? ダリウス殿下はあの純粋な愛らしさをお気に召しているようだ。ヴァリオン殿下にとっても、今の方が役に立つと思いますけどね」


 エレナには可哀想な事をしたが、最後に抱きしめて、愛してるよ、と伝えたら小さく頷いていた。しかしこれすらも、ヴァリオンにとっては「技」の一つととらえられただろう。最後にたくさん褒めてやるのは調教の基本……ああああああ!!! なんで僕はそんなことをエレナにしているんだ!!!


 エレナを泣かせたのは一生の不覚だ。しかも泣き声を他人に聞かせてしまった。

 いつかコイツの耳を削ぎ落としてやる。


 しかし、エレナが本当に怖がって泣いたから、ヴァリオンを騙せたと言うのも確かだ。

 あの会話の流れなら、ヴァリオンは彼女は僕の支配下にあると思っているだろう。この後エレナが僕についてどう言おうと大丈夫だ。

 道具として認識されている以上、ヴァリオンが戯れに手を出すこともないだろう。


 ただ、エレナには誤解されている気がする。

 一連の演技に僕の趣味は入っていない! 断じて! そこは信じてもらわなくては!!


「それで、君の目的は何なのかな?」


 ヴァリオンはひとしきり感動を伝えると切り出した。


「目的なんて。僕は愛する妻と美しい場所で平和に過ごしたいのです。それだけですよ」

「ははは、聖女を堕とし、国を操る動機としては、いささか弱いのではないかな」

「堕とす、だなんてそんな。保護していただけですよ」

「愚かな男を虜にして、君なしではいられない身体にしてやるんだっけ?」

「お恥ずかしい。ヴァリオン殿下の心の中に留めておいて下さい」


 やめてくれ、そんな事僕だって言いたくなかった。エレナ無しでいられないのは僕だけで十分だ。

 その場のノリでベタな台詞を言ってしまっただけだ。ああ、本当に嫌だ。

 だがご満悦などころを見ると、スパンキングに言葉責め、ベタがお好きなようだ。単純なやつだ。


 ……不本意ではあるが、これで、僕の弱みを握ったと思ってくれたのなら狙い通りだ。


「一つ聞いておきたいのだがね、」


 ヴァリオンは身を乗り出す。


「君はすでに弟を操れる立場だ。なぜわざわざアレを使おうとする?」


 アレとか言うな。僕の大事な恋人を。


「……本音を言いますとね、僕はお守りから解放されたいんですよ」


 肩をすくめて、少し困った顔をして見せる。


「このままでは、どの道僕が采配を振ることになるでしょう? それを全部ダリウス殿下にお伺い立てて、ダリウス殿下のお手柄になるようにして。……まあ、少し面倒に思うんですよね」

「確かに面倒だ」

「それで、堅物のダリウス殿下があの聖女に随分夢中だと聞きまして。儀式が失敗した後に攫って躾けたんですよ。極上の酒として献上致しましょうかと、そう考えましてね」


 ああああ!!! こんなに嘘を吐くのが辛かった事などない!!!

 間違ってもそうならないように、必死で囲い込んだのに!


「ふうん。余計な事はせず、酔っ払って寝ておけと言う事か」


 ヴァリオンは口の端を上げて腕を組んだ。

 満足したようにも、疑っているようにも見える。


「君は傀儡の王が欲しいのかな?」

「とんでもない!」


 ブンブンと大袈裟に首を振る。本当にそれは要らない。


「愛する人と過ごせる自由な時間、僕の望みはそれだけです。愛する妻との結婚のための休暇、どのくらいもらえたと思いますか? 家に半日しかいられなかったんですよ!? 休みを申請したら、黙って判子を押してもらいたい!」


 これは紛う事なき本音である。


「……君の望みは時間なのかな?」

「そうですね。領地でのんびりする事。そのささやかな望みを叶えるには大人しい上司が必要で」

「ははは、意外と物臭なのだね」


 信じてないだろうに、物分かりが良さそうな顔で頷く。

 こいつわかりやすいな、顔色が読みやすい。


「ならば、上司が変わるのは如何かな?」


 にっこりとヴァリオンは続ける。

 来たな。セドリックは気を引き締める。


「休みも取り放題だ。中央は他に任せて、領地経営に尽力しても良いよ。お気に入りの兎もまた飼えるかもしれない」

「それは魅力的ですね。しかし、……中央の財と伯爵領の財、将来を考えるとどちらが良いものかと」


 金とか、わかりやすいものをちらつかせた方が安心するだろう。そう思って条件を出す。

 ヴァリオンは、意を得たり、という顔で鷹揚に頷いた。


「頼みたいことがあるのだ。モンフォール伯爵家は古くから聖花教会の運営に深く関わっていると聞く。将来的に教会を全てモンフォール家に任せたい。宗教と言うのは儲かる。利権も大きいぞ」

「教会ですか」


 ここに教会が出てくるか。


「私の理想を聞いてくれるかい?」


 ヴァリオンが身を乗り出す。


「この国の外の事は知っているだろう? 花の加護などなく、人々は一人一人の能力を活かして暮らしている。花の神の力がなくても、人間はやっていけるのだ。何故王が神の子でなければならない? 人の子が王になり、国を人の手に取り戻す」


 ヴァリオンの瞳が熱を帯びる。先程のサディスティックな輝きではなく、理想に燃える政治家の目だった。


「神の力に頼ったかりそめの平和で、はたして幸せと言えるだろうか。私が王になる。私の子は人の子しかいない。このタイミングで教会にスキャンダルでもあれば、……例えば、死んだはずの大聖女が、我が身の不遇を嘆いて王と王妃に刃を向けるとか……まあ、そういうことがあれば、悪しき風習も変えられるだろう。……政教分離、今がチャンスなのだ。宗教は否定しない。人の心を掴むのには必要だ。だが、王国の内部に巣食っているのは違う。だから分けるのだ。人が国を動かし、神は人を纏める。それには組織を別にするのが良い」


 宗教国家で政教分離ときたか。理想を語ると言うより、ヴァリオンは自分に酔っているように見える。


「ヴァリオン殿下にはコルネリア様がいらっしゃるではないですか。もしヴァリオン殿下が王になったとしても、コルネリア様とのお子様は神の子でしょう」

「君が言うかい? 子種を注がなくとも愛する事はできるだろう」

「……」


 他人の愛に口出しはしないが、根本的に話が合わない。


「愚かで可愛いコルネリアは嫌いではないよ、彼女が私との子を欲していることもわかっている。子が出来ないせいで、彼女がおじい様や聖女達に白い目で見られていることもね」

「ヴァリオン殿下はヴィスコー公爵とはお考えが違うのですか?」

「おじい様は王家に自分の血を入れたいのだ。だから私が王位につき、聖女と子を作って、王の血筋に連なることを望んでいる。はは、ばかげた事だ」


 おじい様ときたか。ヴィスコー公爵は孫であるヴァリオンを王にしたい。ダリウスを廃し、ヴァリオンが王になるところまでは目的は同じだが、敵も一枚岩ではないらしい。

 なるほど、だから、ヴィスコー公爵と縁の薄い僕を、個人的に引き込みたいという事か。


「何故私が、国のパーツでなければならない? 敷かれたレールに乗らなければならないのだね」

「……成程。お考えをお聞かせいただき感謝いたします。僕としては、愛する妻と領地でのんびり、そこに教会の利権で潤えば、まあ、いい人生を送れそうですね」


 色々考えつつ、このあたりで手を組んでおこうと、セドリックはできるだけ悪い顔で笑って見せた。



「で、僕に何をやらせたいのです?」


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