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【完結】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~  作者: ru
【第二章】聖女達の婚姻 ~王太子のセカンドラブは義務と責任から始まる~
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14.同好の士


 セドリックが王都に戻ってきて3日目の夕方。


 弾丸帰省で結婚式を挙げ、エレナを隅々まで堪能した余韻は未だ冷めず、セドリックは幸せを味わっていた。


 エレナに出会い想いを寄せて10年、それはもう、ありとあらゆる様々な妄想をしていた。しかしそんな妄想は現実の前では塵である。


 焦りと羞恥に染まった顔、でもセドリックを信用し切っている目。新しい感覚に戸惑う表情、甘い声、甘い汗。


 ああ、あんなに美しい、可愛い、素晴らしい存在がこの世にいるなんて。そしてこれで、全て僕の物になった。過去も、未来も、名前も、心も身体も。


 本当はエレナが生きている事を知っているのは自分だけで良かったのだが、ダリウスとリゼだけには知られてしまった。リゼに会えるのはエレナは喜ぶだろうから、しばらくしたら都合をつけてあげようと思う。


 次はいつ帰れるだろう。にやけそうになる顔とステップを踏みそうな足を引き締める。




「やあ、モンフォール君。結婚したんだって? おめでとう」


 そんな中、セドリックは珍しい人に呼び止められた。第一王子ヴァリオンだ。


 ヴィスコー公爵はダリウスの味方のような顔をしているが、ヴァリオンはダリウスと反目していることを隠さない。だからセドリックに声を掛けるようなことは今まで無かった。


「これはヴァリオン殿下、ご機嫌麗しゅう」


 にっこりと挨拶を返すとにっこりと笑みを返された。

 セドリックを警戒させるには十分な、とってつけたような笑みだ。浮き立っていた心が静かに落ち着いていく。


「お相手は男爵家のご令嬢とお聞きしたけど」

「ご存知なのですか」

「何でも大変な情熱なのだとか。どんな方なのかな」

「はは、僕も良い年ですから。ヴァリオン殿下にお話できるような面白い事はございませんよ」


 突然何を言い出すか。そういえば母がコルネリアから結婚相手について聞かれたと言っていた。

 だからと言って、雑談ではないだろう。


「ふーん。ところで、奥方は知ってるの?……君が飼っている白兎」

「え?何のことです?」

「飼い主が奥方に夢中で、寂しがってるんじゃないのかい?」


 とぼけながらも頭にスイッチが入ったように回り始める。エレナは白い髪に赤い目、なんとなく小動物を思わせるような顔立ちをしていて、ウサギに似てると言われる。だが、何故。どこから漏れた? 結婚か?


「実は、私も同じ品種を飼っているのだよね。同好の士には初めて会ったから、是非情報交換をしようじゃないか」


 同じ品種? 飼っている?


 セドリックは笑顔は変えずに考える。


 まさか、聖女を妻にしただろうと言いたいのか?

 いや、同好の士には初めて会った、というなら妻を指しているのでは無い。王族は聖女を妻にする。つまり、聖女エレナと、僕の妻エレノアは別人だと思っている。


 ……でも僕がエレナを飼っ……違う違う、匿っている事を知ってる。


「そうですか、それは是非」


 どんな可能性があるかを考えるが、セドリックにとってはまずはエレナが全ての最優先である。

 まずはエレナの安否。状況の把握。ヴァリオンの目的を探る。


 そもそも何故自分に接触してきたのか。

 ダリウスの弱みを握ったなら、わざわざ面倒くさそうな秘書官に話すだろうか。ならば狙いは僕か。

 なんにせよ、ダリウスへの報告はエレナの安全を確保してからだ。


「そうだ、早速だが今日の夜夕食に招待するよ。ヴィスコーの邸宅に、飼育小屋があるんだ。見せてあげる」


 飼育小屋? 本当に兎の話? ……そんなわけは無いだろうな。


 背筋に汗が伝う。嫌な予感がする。


「それは是非。楽しみです」



 ++



「おい、領地から連絡来ていないか!?」


 幸いにも今日中の仕事は終わっていたので、ダリウスに急用が出来たと伝えて帰宅した。

 珍しく声を荒げ、出迎えも受けずにタウンハウスに飛び込むと、驚いた様子の執事が手紙を差し出した。


「セドリック様、こちらの事ですか? たった今早馬が」


 それをひったくるようにとって開ける。


 そこには、エレナが消えたと書かれていた。

 ヴァル・フルールから出て、町で攫われたらしい。


 ヴァル・フルールから直接こちらに連絡する手段はあえて作っていなかった。繋がりを逆に辿られて見つかるのが怖かったからだ。

 しかし、だからこちらへの連絡が遅かった。


 様々な可能性を考えながらも心の中に絶望が広がっていく。


「くそ」


 手紙を握りしめる。ぐしゃりと紙が形を変えた。


 しかし今、エレナの手がかりはヴァリオンの誘いしかない。


 執事に晩餐に相応しい服をと命じ、怒りと共に秘書官の制服を脱いでいると、ウキウキした声を隠さず、父、バルト・モンフォール伯爵が部屋に飛び込んできた。


「凄いじゃないか! ヴァリオン殿下だって!?」


 怒りに震えているセドリックの肩をバンバン叩き「大物をつりあげたな!」と、褒めちぎる。


「お前、なんでそんなに王子に好かれるの? コツがあったら教えて欲しいよ」


 そう言いながら楽しげに夜会服を見せてくる。


「選んであげたから、これ着なよ。セクシーだよ!」

「セクシーとかいらないです。戦いに行くんで」


 王子とは言え、エレナに手を出したならぶっ殺してやる。

 バルトを無視して執事の方へ手を出すが、家の主人はバルトの方だ。少し困った顔をしているが、執事は動かない。


「お前は戦士ではないだろ?」


 バルトは国一の伊達者と評判のニヤけた顔で、眉毛を跳ね上げた。


「詐欺師だ。感情で動くなよ。こんな機会、なかなか無いよ? 懐に入って操れ」


 ぽん、ぽん、ぽん、ぽん、と腕を叩かれ、ふと力が抜けた。セドリックは大きく息を吐く。

 頭に登っていた血が少し落ち着いた気がする。


「……詐欺師では、無いつもりですけど」

「あらそう、無自覚だった?」


 バルトの差し出した服に袖を通す。いつもは絶対選ばない派手な色のウェストコートは、確かにセドリックの冷たい瞳を引き立てた。



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