6.神官長が困っている
そのころ、王都の神殿では、聖花教会の神官長ヴァージルが頭を抱えていた。
王太子妃となるはずの花の聖女が、儀式に失敗した上に忽然と姿を消したのだ。
もう7日経つが手掛かりがない。
王太子ダリウスは儀式中は取り乱したものの、翌日には落ち着きを取り戻し、原因の究明を求めている。
調査中として誤魔化しているが、そろそろ限界だ。
エレナの捜索を行う一方で、過去の事例から失敗の原因を探しているが、有耶無耶になっている事が多い。王家側に問題があったのではないかと思われる事もある。
純潔を疑う声もあったが、この国では花の聖女であれば出自に関係なく王家に嫁ぐ資格が与えられる。
中には大人になってから加護の力に目覚め聖女の資格を得るものもいる。実を言えば過去はそこまで重要では無い。
特にエレナは赤子のころに教会に来て、そのまま育った子供だ。純潔を散らしてなどいたら、それこそ教会の責任問題である。
アルバローザが咲かない例は過去にも何度かあったようだ。
しかし、その場合は神が王家では無く神に使えるように伝えたと解され、一人の聖女として教会に残っている。中には王が諦められず、愛人となった者もいる。
ヴァージルは溜め息をついた。
誰もエレナが失敗するとは思っていなかった。
ダリウスとの仲も悪くないように見えた。何より、ダリウスのエレナへの入れ込みようは呆れるほどだった。
エレナもそれを戸惑いながらも受け入れているように見えたので、純潔も真心も誰も疑わなかった。
だから、万が一失敗したとしても気に病む必要はない、などとは伝えていなかった。そもそも失敗する可能性がある事を前提に行うような儀式ではない。
(もしかすると本当に神が引き留めたのかもしれない)
ヴァージルは思った。失敗の原因については、教会が認めればそれで説明がつく。
しかし、もしそうだったとしたら、エレナが失踪した理由にはならない。
手がかりは、儀式の日から見張りに着いていた神官が一人、消えている事だ。事件に巻き込まれたのか、もしや……
頭を振って嫌な想像を打ち消した。そのような事が無いように、特に真面目で信心深い者をつけていた。
「ヴァージル様!」
そこに、調査を命じていた部下が慌てて入ってきた。
「どうした、騒々しい。……何かわかったのか?」
部下はヴァージルのもとまで転がるように来たものの、そこで言葉を探している。
「……」
「なんだ。何があった?」
やがておずおずと口を開いた。
「……サミュエルと思われる者とエレナ様と思われる者の遺体が見つかりました。……遺体は半壊しておりますが、花のロザリオが」
その言葉を聞いて、ヴァージルは奇妙な呻き声をあげて机に沈み込んだ。