44.ダリウスの災難
エレナは夢の中でアルバローザが咲き誇る庭園に居た。
こんなに上手に出来たのだ。早く褒めて欲しいな、と、ふわふわした気分で庭園の入り口から、誰かが来るのを待っていた。
「おい、おい!」
なのに、横から肩をゆすられる。
朧げに覚醒すると、ユサユサと肩をゆすられている。まだ眠いのに起こさないで欲しい。もう少し……
「うう…もうすこしだけ……」
うにゃうにゃ言いながら自分をゆする手を払おうとする。
起こしに来たと言うことはメアリーだろうか。
「めあり? 今日、せどりっく、くるの?」
「おい……」
手が離れた。なんだ、別にまだ起きなくていいのか……じゃあもうすこし
丸まって再度寝ようとした。
「おい!」
乱暴に肩を掴まれて上を向かされた。ひどい、メアリー、もう少し優しく起こしてくれても
「うー」
うっすら目を開けると。
そこにはダリウスが、気まずそうにエレナを見下ろしていた。
「え?」
「お前もあいつらも俺をなんだと思ってるんだ……」
低い声に一気に覚醒した。血の気が引く。
エレナは、やたらと豪華な広いベッドの上で、ダリウスに押し倒されているようだった。
「え?」
片方の肩はベッドに押さえつけられ、脇に大きな手が置かれている。ダリウスはエレナの身体に跨るようにベッドに乗り上げていた。
「ひっ」
咄嗟に悲鳴を上げようとしたら手で口を塞がれた。
「何もしない! お前が全く起きないから……ああくそ、なんで俺がこんな目に」
何もしないと言われても、この状況で口を塞がれて恐怖しか感じない。
エレナの心臓は飛び出そうなくらいバクバクしている。悲鳴は飲み込んだが、歯がガタガタとして噛み合わない。
「いいか、本当に何もしないから、大声出すなよ。落ち着けよ」
ダリウスは口から手を離してゆっくりエレナの上から退いた。
エレナは逃げようと起き上がるが、自分の格好に気がつき、慌てて上掛けに包まった。
このネグリジェはとても可愛いのだけど、身体が透けるのだ。何も羽織らずに男性の前に出て良い格好ではない。
いや、これはある意味男性の前に出る用の格好なのかもしれないと、今気が付いた。
「起きたか? ここは俺の部屋だ。何があったか見当はつくから何も言わなくて良い。俺は何もする気はないから、とにかく落ち着け。落ち着いたらさっさと自分の部屋に戻れ」
そう言って、酒瓶を片手に、壁に向かって座った。
「……」
混乱していた頭が少し落ち着いてくる。
寝る前。モンフォール伯爵にここで朝まで過ごすように言われた……役にたてと。
ダリウスは出て行けと言う。出ていって良いだろうか。
条件、そうだ。セドリックとの結婚を認める条件、ここに、朝までいる事……役に立て? 役にたつってなに?
「どうした。早くしろよ。俺もさっさと寝たいんだ」
ダリウスが壁に向かったまま不機嫌に声を上げる。
「早くしないと、俺の気が変わるかも知れないぞ」
エレナは立ち去る勇気ももてず、ダリウスの気持ちを考える余裕などなく言った。
「あ、朝まで、この部屋に、居させてもらえないですか?」
「はあ?」
「は、伯爵様の言いつけで、朝までこの部屋に居なければいけなくて」
「お前、何言ってるかわかっているのか? 伯爵はお前に、俺に抱かれろと言ってるんだぞ?」
そうか。
役に立てとはそう言う事か。伯爵はそれで、私をここに……
改めてはっきり言われてカァーっと血がのぼる。
抱かれる、と言われてもなんだか想像がつかない。知識としては知ってはいるが、なんでそんな事をしたいのか、それになんの価値があるのかわからない。
伯爵は、ここに朝までいればセドリックとの結婚を認めると言った。
セドリックは、私を守るために婚約者にしたいと頑張ってくれている。
そもそもセドリックはなぜ私にこんなに良くしてくれるのか? ダリウスが気に入っている私が……役に立つから?
だ、抱かれる?
この前みたいに、抱きつかれる……だけではないのだろう、というくらいは、分かるけど。
でも、ここには居ないといけないし、伯爵がそう言うなら、それが役に立つ、のだろうか。
沈黙が長かったからか、ダリウスが振り返って見ていた。
エレナは真っ赤になったまま、考えて、考えて……
「お、お話し、しましょう!」
叫ぶような声は、ひっくり返ってしまっていた。




