33.マイルズは巻き込まれた
マイルズは突然できた待機という名の休養日を満喫していた。
いつも難しい顔をしている真面目な王太子が、珍しくお忍びで遊びに行くということで護衛に白羽の矢が立ち、王太子と、最近よく王太子と一緒にいる伯爵令息のお守りを命じられた。
行くまでは少々面倒だなと思っていたが、出発してすぐ、ダリウスとセドリックに対する印象は変わった。
二人とも息子ほどの年だがしっかりしていて危なげがない。坊ちゃん育ちかと思いきや、馬のスピードも速いし悪路もものともしない。
ダリウスは気難しいと評判だったが、なぜかセドリックには良くなついている。見ていると、セドリックのサポートが絶妙だ。あんな部下がいたら自分だって重用するだろう。
貴族の坊ちゃんのお守りかと思いきや、気持ちのいい若者二人の引率、という感じになり、マイルズは大変気分が良かった。
夜は、まさか自分が王太子とサシで飲むことになるとは思わなかったが、ダリウスも話せば面白く、マイルズの田舎の話もよく聞いてくれた。
今日、待機を命じられた時も、少々渋る振りはしながらも、二日酔いはきついし、二人で危ないこともないだろうからラッキーだと思っていたのだ。
それが。
「マイルズさん、すみません。ダリウス殿下がモンクスフードの茂みに突っ込んでしまいまして」
まさか、子供のような事故に遭うとは。
モンクスフードは毒性が非常に強く、誤って触れたり、香りを吸い込みすぎたりするとしびれて体が動かなくなり、最悪の場合は死に至る。
野山で遊ぶ時には特に気を付けなければならないのだが……
坊ちゃま育ちは知らなかったのだろうか。
セドリックとともに慌ててダリウスを助けに行く。
モンクスフードの毒に当たったダリウスはセドリックが引っ張り上げた木の根元に寝かされていた。
「セドリック様、こういう時はもう少し離さないと。花粉が届くと悪化しますよ」
「そうなんですね。このくらいなら大丈夫かと」
やはり、伯爵令息は野山を駆け回って遊ぶなどないのだろう。
風向きを考えると、花粉が届きそうなところに寝かせていた。
幸い大したことはなさそうだったが、顔色が悪く気を失っていた。担ぎ上げて村の薬師のもとへ運ぶ。
「この村の薬師は加護持ちなので、処置してもらえると思うんですが……」
セドリックが言った通り、担ぎ込んだ小さな家には加護持ちの女がいて、応急処置で解毒をしてくれた。
「なんでこんなことになったんです?」
「久しぶりの自由でしたから、殿下もテンションが上がっちゃったみたいで。ウサギを追いかけて茂みに落っこちちゃったんですよね……」
「子供ですか……」
「すみません……」
呆然と会話しながら、マイルズは生きた心地がしなかった。
護衛騎士としてついてきていたのだ。こんなことでも任務失敗で首にされるかもしれない……
「僕がついていながらすみません。マイルズさんには迷惑かからないように何とかしますから」
「いや、私も同行すべきでした」
「もし何かあれば、うちに来てください、王家ほど報酬は出せないですけど」
「はは、そんなお気遣いなく」
自分よりもセドリックの方が青くなってしょげている。マイルズはセドリックに余計な心配をさせないようにと強気に振舞った。
「マイルズさん、殿下は僕が見ています。本邸から馬車が来るので待っていてもらえますか」
「わかりました」
セドリックに任せて外に出ると、ちょうどモンフォール家の紋章が入った豪華な馬車が、農村に到着するところだった。




