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【完結】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~  作者: ru
【第一章】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~
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25.幼いころの話4~庭のお世話

 

 まだ日は高い。

 坊ちゃんを従者の少年に任せて、エレナは庭に戻ってきた。


 絡まった枯れ枝の奥に朽ちた木のベンチ。穴の空いたブリキのバケツ。動物を模した石の置物があるが、雨風で削られてしまい何なのかはっきりしない。

 小さな噴水の後も見つけたが、枯葉が土になって詰まってしまっている。子供の力では、完全に元に戻すのは難しいだろう。


 エレナもここに滞在するのはあと二日だった。

 出来ることをやって、あとは春になるのを待つしか無い。


 よし。


 エレナは、できるだけやろうと決意した。まずは道具だ。庭に続いている勝手口を覗けば、かまどで火を起こしているメイドが見えた。


「すみませーん」

「ん? 見ない顔だね……ああ、巡礼の子か」

「お庭を世話したいのだけど、道具を貸してくれる?」

「もちろん。あっちにあるから自由に使っていいよ。花の乙女様にいじって貰えば、次の春は凄い事になりそうだね」


 笑顔がやさしい人だった。エレナもつられて笑顔になった。


「頑張るわ。坊ちゃんと一緒にやるの。やり方は教えておくわね」

「ええ! あのセドリック様とかい!? そりゃ凄い」


 メイドは大袈裟に驚いた。そりゃ、車椅子の子に土いじりさせると聞けば驚くだろう。

 あの子はセドリックって言うのか。お互い名前も名乗らずに遊んでいた事に気が付いた。


 今更、お名前は? と、改まって聞くのも気恥ずかしい。従者の少年には、機会があったら聞こうと思った。


「ああ、庭で食べられそうなお菓子があるよ。持って行きな」


 そう言って、籠にジンジャークッキーとお茶のポットを入れて持たせてくれた。


「ありがとう」


 お礼を言っておやつの籠を抱え、鋏や箒やバケツを借りる。

 大荷物を抱えて庭に戻ってくると、従者の少年が興味深そうに枯れた木々を見ていた。


「坊ちゃんは?」

「お休みになったよ。ありがとうって伝えといてくれって言われた」

「ええ!? あの坊ちゃんが!?」

「ふふ、そんなに驚く?」


 従者の少年は穏やかに笑った。よく見るとその少年は綺麗な顔をしていて、坊ちゃんよりも坊ちゃんらしいなとエレナは思った。


「ねえ、手伝って」


 エレナは少年に鋏を渡し、枯れた枝を剪定するように頼む。大きな鋏を使うのは小さいエレナには不安だったので助かった。


「こんなに切っちゃって大丈夫なの?」


 エレナの指示で鋏を入れていた従者の少年が不安そうに言う。


「大丈夫よ、ずっとそのままになってたみたいだから枯れたところが多いし。少し刈り込んだ方が、元気になると思うわ」


 そうして二人でせっせと庭仕事をする。

 少年はやった事はないと言うが、もともと器用なのかすぐにコツを掴んだようだ。


 手を動かしながら、エレナは気になっていたことを少年に聞いた。


「坊ちゃんは、歩くのはできないの? 車椅子から降りて、座ることはできるかしら」

「しゃんと背中を伸ばして座るのは難しいかな」

「そうなの」

「でも、昨日から少し調子がいいんだ。ずっと部屋に引き篭もっていたのもよくなかったんだと思う」

「坊ちゃんは何の病気なの?」

「わからない。僕も教えてもらえないんだ」


 ◆◆◆


 ひと段落して、少し綺麗になった木陰に二人座り込む。


「はい、これ。坊ちゃんと一緒に庭をやるって言ったらくれたの。一緒に食べよ」

「僕が食べて良いのかな」

「大丈夫よ、あの子の分もあるから後で持って行って。それに、坊ちゃんよりあなたの方が坊ちゃんぽいし」

「え?」

「貴族の御子息って、もっと優しいものじゃないの? 貴方の方が優しいし、なんて言うか、紳士ってかんじ」

「そう。……嬉しいな」


 教会に来る貴族の子息は、花の乙女には礼を尽くして接してくれる。

 花の乙女は聖女になる可能性があり、聖女は王妃になる可能性があるから、貴族の子供は教会の人間に失礼のないように言われている。


 なので、花の乙女だと知っても、乱暴に口を利く坊ちゃんは、エレナが知っている貴族の御子息っぽくはなかったのだ。


 はにかむ従者の少年は愛らしくて、絵に描かれたように貴族の御子息にふさわしい姿だった。

 長い足を少し曲げて、庭先に腰掛けているのすら絵になる。


 メイドにもらったジンジャークッキーを二人で分けて食べた。


「美味しい!」

「本当だ。庭で食べるなんて初めてだな。こういうの、すごくいいね…あ、」


 少年はふとエレナのほっぺに手を伸ばした。


「え、何?」

「食べかすついてる」

「え?」


 指で頬を払ってくれた。いつも坊ちゃんの世話をしているからか、その仕草はとても慣れていて自然だったが、エレナは少年に見つめられてドキドキしてしまった。


「あ、ありがと」


 そんなエレナを見て少年はにっこりと微笑んだ。エレナは何だか恥ずかしくなって目をそらす。


「君は、いつまでこの屋敷にいてくれるの?」


 少年が優しい声で尋ねた。


「予定では一週間だったから、あと二日だと思うわ」

「……ずっといて欲しいな」


 その声には今まで聞いたことのない響きがあって、エレナはちらっと少年を見る。少年は、目を細めてこちらを見ていた。


「ここには、子供は坊ちゃんと僕しかいないからね。坊ちゃんは外では遊べないし」


 エレナは目の前に広がる庭を改めて見渡した。

 子供二人で少しやったところで、まだまだ荒れ庭だ。ここから、あの木が見せてくれた庭になるまで相当かかるだろう。


「そうね……私も、せめて春まではいたかったな」


 春になったら、美しい花がたくさん咲きますように。


 そう思ってエレナは巡礼の時に村でやるように、植物がよく育つよう加護の力を使って祈った。


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