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【完結】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~  作者: ru
【第一章】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~
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24.幼いころの話3~朽ちた庭

 

 外に出て良い空気を吸ったからか、少女が気に入ったのか。

 坊ちゃんはその日落ち着いていて、夜もぐっすり眠れたようだった。

 従者の少年も夜中起こされることもなく、久しぶりにたっぷり眠れた。


 従者の少年……本物のセドリックは、朝起きて、あの子にもう少し付き合ってもらいたいと思い、巡礼の神官に、あの少女を屋敷にとどめてもらえないか頼みに行った。


「あの子の事、お屋敷の坊ちゃんが気に入っていて……もしできたらここにいる間、遊ばせてくれませんか」


 ダリウスが彼女について何か言っていたわけではないけれど、『お屋敷のセドリック坊ちゃん』は本当は僕の事だから、嘘はついてない。

 そう思い、ドキドキしながら頼んだ。


「ああ、エレナかい? いいよ、リゼと交代してもらえばいいから」


 神官はあっさりと了承した。モンフォール家は教会へのつながりが強い。モンフォール家の坊ちゃんの頼みは断らないのだろう。


 エレナ、っていうんだ。


 セドリックは聞いた名前を自分だけの秘密にしようと心の中にしまった。

 ダリウスが知らなくて、自分が知っているということが、心に火をともした。


 どうせダリウスは自分から名前を言ったり聞いたりしないし、昨日の感じだと「おい」とか「ねえ」とかで伝わっているから、名前も知らずに遊んで終わる気がする。


 もし聞かれたら、ダリウスはセドリックを名乗るのだろうか。

 それは、とても嫌だなと思った。


 ◆◆◆


 その日は幽霊の泣き声はしなかった。耳の良いリゼもよく眠れたようだった。


「エレナは残りなさい」

「えー」


 翌日もエレナは留守番だった。

 村を周る巡礼は珍しいものもたくさん見られたので、エレナは不満だった。


「このお屋敷の子が、エレナと遊びたいと言っているそうなんだ。昨日会ったのだろう? ここは子供も少ないし、遊んでおあげ」

「はぁい」


 昨日の鍵で開く扉を探すのも面白そうだ。

 見つけたら坊ちゃん達を呼びに行こう。

 そう思って、リゼたちを見送った後エレナは庭を駆ける。


 扉はすぐ見つかった。昨日開かなかった扉がそれだったのだ。

 ドキドキしながら扉を押す。

 ぎぎぃ、と、軋む音を立てて扉が開いた。


 素晴らしい何かが広がっているかと思ったが、残念ながら期待は裏切られた。


 四方を壁に囲まれた小さな朽ち果てた庭だった。枯れ枝が方々に伸び、それに枯れた蔓が絡まっている。


 これではあの坊ちゃんは残念がるだろうか? そう思いながら注意深く見て回る。


 木の根元にそっと触れてみれば、確かに生きている感じがする。しばらくエレナは目を閉じて、木と心を通わせた。


 ――このお庭はなあに?


 エレナは木に問いかける。


 木は言葉を持たないが、エレナの中にイメージを送る。


 流れ込んできたのは、春の美しい景色。無数の白薔薇が咲き誇る庭。美しい黒髪の女性。

 この庭の一番幸せだった時なのだろう。今は寂しそうな庭だが、木に生気が宿っている。土を耕し枯れた枝を整えれば、春には息を吹き返すだろう。


 エレナは木に微笑みかけると、坊ちゃんを呼んで来ようと屋敷に駆けだした。


 ◆◆◆


 坊ちゃんは枯れ果てた庭を見て、明らかに失望したようだった。


「こんなものか……」

「今は冬だから、もう少ししたら緑になるし、花だって咲くわよ」


 エレナは車いすに体を預けた坊ちゃんに教えるが、彼は目を閉じて自嘲気味に呟いた。


「死ぬ前にこの庭が見たかったのだが、気が滅入るだけだった。……無駄だったな」


 フン、と鼻を鳴らして強がる坊ちゃんが、しょんぼりと肩を落としているように見えた。


 エレナは良いことを思いついた。本当はみだりに加護の力を人に見せてはいけないのだけど、弱っている人を助けるためならば少しくらい良いだろう。


 エレナは従者の少年に手伝ってもらって、坊ちゃんの車椅子を、さっきの木のところへ連れて行った。


「手を伸ばせる?」


 坊ちゃんの細い手をとって、木の幹に触れさせる。エレナは跪いて坊ちゃんの手を挟んで木に額をつけた。


 できるだろうか。高位の聖女が、死に際の人にこうやって昔の風景を見せてあげていたのを見たことがある。


 この木はあの景色が好きだったみたいだ。あの黒髪の女性は坊ちゃんの縁者かもしれない。そうだったら、頼めばイメージを伝えられるかもしれない。


 ――ねえ、この子にも、庭の美しい姿を見せてあげて


 エレナの心に、ふわりと先ほどの風景が広がった。

 坊ちゃんにも見えているだろうか。


 暫くそうしていた。

 額に当てた手が震えたように感じて顔を上げると、坊ちゃんは静かに涙を流していた。


「お世話をすれば、春になればああなるわ」

「そうか……」


 ぽつりと呟いて、坊ちゃんは俯いた。


「坊ちゃん、今日は戻りましょう。いつでもまた来られますよ」


 従者の少年が優しく声をかける。返答が無いので、部屋に戻る事にした。


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