23.幼いころの話2~二人の少年
従者の少年は坊ちゃんの様子を伺う。
坊ちゃんは大体いつも、ベッドの中で苛々していた。ちょっとしたことで癇癪を起し、手当たり次第に物を投げつける。
今日は朝からいつもよりも落ち着いている。珍しくカーテンを開け、窓から庭を眺めていた。
「庭にいる子供を連れてこい」
従者の少年がとなりの窓から確認すると、庭に少女がいた。数日前から屋敷に滞在している巡礼の子だ。
なぜ? と思ったが、余計なことを言うとまた面倒だ。一礼して向かおうとする。
「いやまて、俺も庭に出る」
「え?」
思わず聞き返すとものすごい目で睨まれる。この世のすべてを恨んでいるようなすさんだ目だった。
睨んでくるだけならもう慣れた。ただ、すぐ動かないと癇癪が始まる。それは面倒だ。
「用意します」
車椅子に乗せれば行けるだろうか。段差や階段は一人では無理だ。だが大人に頼んだら絶対止められるし止められたら後が怖い。
そうだ、あの子に手伝ってもらうか。
従者の少年は庭に駆け下りて、少女に声を掛けた。
◆◆◆
泣いている少年に会った翌日。エレナは一人留守番で、庭を散策していた。
モンフォール家は広くて、沢山の庭があった。冬だったので花はあまり咲いていなかったが、人懐っこいコマドリを追いかけて遊んでいた。
庭は壁で仕切られているところもあり、壁には扉があって迷路のようだった。
庭から庭へ巡って楽しんでいたが、一つだけ開かない扉があって、コマドリを見失ってしまった。
他の入り口を探していると、屋敷の方から、おおい、と声をかけられた。
「ねえ、君は巡礼の子?」
走り寄ってきた少年はエレナより背が高く、幾分か年上のようにみえた。ふっくらした頬が寒さで赤くなっている。
「ええ、そうよ」
「あのさ、坊ちゃんが窓から君を見て、庭に出たいと言っているんだけど、手伝ってくれない?」
見上げると、窓から幽鬼のような少年がこちらを見ていた。昨日泣いていた子だ。今かけてきたこの子は、あの坊ちゃんの従者なのだろうか。
二人で坊ちゃんを車椅子に乗せて庭に出た。階段や段差は、従者の子が坊ちゃんを抱き上げて、エレナが車椅子を運んだ。
坊ちゃんはずっと不機嫌そうな顔をしていたが、大人しくなすがままになっていた。
庭にでると、坊ちゃんは何かを探すように周りを見渡した。落ち窪んだ目をぎょろぎょろと瞬かせ、庭を仕切る壁を見ている。
「昨日は、どうして泣いていたの?」
かける言葉も思い浮かばず、気を遣えるほど大人でも無かったエレナは遠慮なく聞いた。
「泣いてない」
「うそ、だってリゼが幽霊が泣いてるっていうから見に行ったのよ。そうしたらあなたがいたの」
「幽霊はお前だろ、朝になっても消えないなんて図々しい幽霊だ」
坊ちゃんはエレナを睨むと、気が抜けたように車椅子にへたり込んだ。
「あら、もうおしまいなの?」
「うるさい」
「あまりいじめないで。坊ちゃんは部屋から出るの久しぶりだから」
従者の子が嗜めるように言った。そんなに歳は離れていないように見えるが、坊ちゃんがガリガリなのもあって、とてもしっかりしているように見える。
「おい、余計な事を言うな」
坊ちゃんは弱々しい声で悪態をついていた。
「今日はもう戻りましょう」
従者が声をかけるが、坊ちゃんは弱々しくもはっきりと首を横に振る。
そして億劫そうに、握った手をエレナに突き出した。
「なに?」
受け取ったものは、古い鍵だった。
「どこかに、これで入れる庭がある。探して、俺を連れて行け」
古い謎の鍵。これでしか入れない秘密の庭。エレナは興味を惹かれて頷いた。
それを見て安心したのか、坊ちゃんは今度こそぐったりとしてしまった。二人は慌てて坊ちゃんを支え屋敷に戻る。
坊ちゃんをベッドに横たえるまで、なぜか大人はだれも出てこなかった。




