17.傷心旅行の計画
セドリックは未だに帰れない。このままなし崩し的にダリウスの下に就職させられそうな雰囲気だ。
近頃は顔も売れてきてしまい、少々困っている。
もう春だ。そろそろ一回、短くてもいいから、一度帰りたいとタイミングをうかがっていた。
そんなある日、ダリウスが言い出した。
「おいセドリック、春になったら領地で狩りでもしようと言っていたな」
「覚えてたんですか」
「何とか調整した。週末からいくぞ」
「ええと」
急だ。急すぎてなんの準備もできない。
しかし、ダリウスは意外と絶対にできないような無茶は言わない。つまり、準備も何もいらないという事なのだろう。
この頃ダリウスは鬼のように仕事をしていた。お前がいると捗ると、散々こき使われた。数か月先の話まで進めていたので、周りが大変そうだった。
この為だったのか、と、セドリックは思わず微笑ましい気持ちになった。
「わかりました。急なのでおもてなしはできませんが」
「たまには身分を隠していくのもいいだろう、モンフォール家には平民の友達を連れて行くと言っておけ」
「何を言っているんですか。無理ですよ」
「モンフォール伯には絶対内緒にしておけよ。寝所に女を送り込まれてはかなわん」
ダリウスは苦い顔をする。確かに父はそういうことをしそうだ。
セドリックは、どうするか考える。
平民の友人はどう考えても無理。
ダリウスは王の風格を持っていて、いるだけで周囲を威圧する。お忍びでも貴族……しかも結構な武闘派の……騎士とか。そういうのなら雰囲気に合うだろうか。
「一応聞きますけど、森でウサギ狩りとかでいいですよね?」
「そうだ。堅苦しいのはやめてくれ」
「わかりました」
「昔、森の中で随分遊んだな」
ダリウスは目に見えてうきうきし始めた。セドリックはやれやれと息をついた。いつもこうしていれば、近づきやすいのに。
最近、ダリウスが聖女を選びなおしていると噂が広まっていて、女性を紹介されることが増えたようだ。
正妃は聖女だが側妃は貴族も対象になる。ダリウスも二十二歳、良い年だ。正妃が決まる前に側妃を迎えることも十分あり得る。
エレナとの別れのショックからか、最初は自棄になったように片端から会っていたが、残念ながら拗らせた初恋に勝てる娘はいなかったようだ。最近は嫌になったようでほとんど断っている。
そういう姿を見ていると、すこしダリウスに同情してしまう。
まあ、そもそもセドリックがエレナを隠していなければこんな事にはならなかったのだが。
教会も儀式に失敗したエレナをそんなに大事にしないだろうし、あのままエレナを王宮に置いておけば、ダリウスは今頃、可愛い愛人を手に入れていたはずだ。
そしてエレナは逆らえないまま、きらびやかな王宮とダリウスの腕に囚われる。
なのでセドリックは、ダリウスに同情はするが、やったことに後悔はしていない。
セドリックはダリウスのための計画を立てつつ、何とか隙をみてヴァル・フルールに顔を出したいと思った。
それで、本邸とヴァル・フルールの間に位置する農村の別荘を用意することにした。
そのせいで、後悔することになるのだが。




