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【完結】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~  作者: ru
【第一章】花の聖女と秘密の庭 ~伯爵令息の溺愛スローライフ計画は成功しない?~
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10.何でも話せる友人


「ダリウス殿下、お呼びとのことでまかり越しました」

「セドリック! よく来てくれた!」


 数日後、久々に会った旧友の顔を見て、ダリウスは眉間の皺を僅かに緩めた。


 セドリックはダリウスの数少ない友人だ。

 優秀な男だし、本当は側にいてほしいのだが、人づきあいは嫌いだと言って領地に引きこもって出てこない。


 ダリウスも忙しい身であるし、二人とも日ごろ文通をするような人間でもない。季節の挨拶以外では、本当に久しぶりだった。


 早速人払いをして二人になる。


「わざわざ王宮まで来てもらってすまないな。こういうところは苦手だとわかっているのだが」

「ダリウス殿下から急ぎのお呼び出しとは珍しい。何かあったのかと駆けつけましたよ」


 数年越しでも変わらない飄々とした態度に、ダリウスは安心感を覚えて姿勢を崩した。

 セドリックもあまりかしこまらずに、出された紅茶に口をつける。


「セドリック。エレナを覚えているか?」

「さて……」


 セドリックは首を傾げる。


「俺がお前の邸にいた時、巡礼で来た花の乙女がいただろう、まだ幼い子だった。俺たちもまだ子供だったが」


 ダリウスは子供時代、非常に病弱な子供だった。側妃が生んだ出来のいい兄もいる。それが原因で命を狙われ、モンフォール家のカントリーハウスに長く身を隠していた時期がある。


 セドリックはモンフォール家の長男だ。母は王妃の女官で、幼いころから友人として育ってきた。ダリウスとともにカントリーハウスに居を移し、王宮に復帰するまで支えてくれた。


 ろくに歩けないときも面倒を見てくれたせいか、ダリウスはセドリックを同い年だが兄のように慕っている。


「ああ、あの子供ですか」

「実は三年前の聖花祭で、ようやく聖女として俺の前に来た。ずっと待っていたのだ。あの子であれば聖女になるだろうと思っていたし、名前もわからなかったから、待つしかなかった。彼女は俺の事は覚えていなかったが、俺は」


 ダリウスは言葉を切って苦々しい顔をした。


「俺は妃に彼女を望んだ。ほぼ孤児のような状態の、教会しか後ろ盾のない彼女を」

「……」

「俺の我儘を通して、漸く決まったのが一年前。そして先日婚約の儀を行ったのだが……アルバローザが咲かなかった」

「なんと」

「俺の気持ちは問題ないはずだ。何せあれからずっとだからな」


 ダリウスは自嘲気味に笑った。

 モンフォール家の屋敷にいた時、ダリウスはそこで偶然出会った花の乙女の一人に恋をした。そして彼女が聖女として自分の前に現れるのをずっと待っていたのだ。


 初恋が諦められないなど王太子のいう事ではない。そんな自分を愚かしいと思いながらも、出来る限りのことをして、そして手に入れたと思っていた。


「しかし……花は咲かなかった。エレナに裏切られたと思い、つい、激昂して」


 ダリウスは頭を抱えた。


「それで、彼女はどうしているんですか?」


 セドリックの気遣わしげな声に、ダリウスの胸がつまる。


「ダリウス殿下?」


 様子がおかしいダリウスに、セドリックが寄り添うように問う。


「死んだ、らしい」

「死んだ……?」

「神官が言うには、伝説の大聖女のように神に召され、枯れた花のように崩れ落ちて遺体も残っていないと」

「それは……」


 セドリックも絶句している。それはそうだ。そんな御伽話のような死に様。


「俺は信じると表明するしか無い。本当に死んだのであれば、教会が消したのか、自害したのかもしれない。或いは教会が匿っているか、逃げたか……」


 死んでしまったのであればダリウスのせいだ。

 それは一生心の中で背負っていく。しかし王太子としては、表面上はここで終わりにしなければならない。


「生きていると信じたいが、アルバローザが咲かなかった以上、見つけたとしても妃にする事もできん。であれば、生きているなら俺が探さない方が良いだろう」


 ダリウスは大きくため息をつく。


「こんな事、セドリックにしか話せないからな。悪いが暫く俺に付き合って王都にいてくれないか。たまに話を聞いてくれ」

「わかりました。一度戻って準備して、すぐに戻ってきます」

「頼む」

「しかし、社交の場はごめんですよ。春になったら、モンフォールの領で狩りにでもいきましょう」

「そうだな。モンフォール家の庭も、久しぶりに歩きたい」


 微笑むセドリックを見て、ダリウスは少しだけ気分が晴れた。


 大丈夫だ。きっとエレナは生きている。どこかで幸せにやっている。

 俺は王太子だ。初恋が叶わなかったくらいで落ち込んではいられない。


 そう思って無理に笑った。



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