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伝言

今回より第一章です。

序章とは比べ物にならない困難が勇者パーティを待ち受けています。

フロントライン結成メンバーの一人にして、現副ギルド長。それがシンである。


かつては〈忍者〉というA級祝福を以て、冒険者の象徴的な存在として君臨していた。


「待っていたよ。勇者パーティの諸君。」


60を迎え、体は衰える一方の彼だが、それでもその存在感は健在だ。もし今、再び冒険者に戻ったとしても一線級の活躍をすることは間違いないだろう。


「初めまして。シンさん。これからよろしくお願いします。」


「うん。よろしく。それじゃあ、依頼について話そうか。」


場所は冒険者ギルドが所有する秘匿拠点。その位置は副ギルド長のみが把握しており、ギルド長や副ギルド長の補佐でさえ、その位置を知らない。そして、実際にこの場所に訪れている勇者パーティでさえ、その位置を正確にはわかっていない。


何故なら、この拠点に繋がる通路は存在せず、シンが指定した特定の場所に、何処からともなく扉が現れるだけなのだから。


「君達も分かっているだろうけど、フロントラインに来る依頼は並みの難易度ではない。中には、S級ダンジョンに匹敵する難易度の物さえ存在する。その為、一先ずこちらで整理した、幾つかの簡単な依頼を君達に遂行して貰いたいと思う。」


そう言って紹介された依頼は3つだ。


一つ、A級ダンジョン「夕焼けの鳥籠」の攻略依頼。


二つ、アルメーラ王国の王女の護衛依頼。


三つ、B級ダンジョン群の攻略依頼。


「既に先方には話をつけてある。王女の護衛依頼は今日から2か月後だ。それまでに夕焼けの鳥籠を攻略してくれ。」


「わかりました。では、早速依頼遂行に参ります。」


「扉はダンジョン近隣の都市に繋げてある。検討を祈る。」


扉を潜り、勇者パーティが降り立ったのは、夕焼けの鳥籠近隣の都市「ミラー」。帝国とアルメーラ王国の国境沿いの存在する都市の1つである。


「ミラーか。ここに来たのなら、まず彼女に挨拶しにいかないとな。」


「そうですね。」


ユウ以外の4人が当然と言わんばかりにある場所へと歩み始める。


「彼女というのは?」


「帝国屈指の占い師マリー。多分だけど、私達より君の方が詳しいんじゃない?」


「ああ、マリー叔母さんのことでしたか。」


ユウの母親マーシャの実妹、マリー=センダー。ミラーを含む国境沿い全域を守護する国境警備隊の総司令官だ。住まいを重要都市であるミラーに置いており、副業で占い店を経営している。


「マリーさんはいますか?」


占い店に入るとランは早速、フェイスベールで顔を隠した受付の女性に、マリーの在否を確認する。受付の女性はその問いに微笑すると、


「ラン君もまだまだね。ユウはすぐに気づいたというのに。」


とベールを脱いだ。店に入った瞬間からユウだけが気付いていたが、彼女こそがこの店の店主、マリーだったのだ。


「マリーさん。お久しぶりです。」


「久しぶり。ラン君。君達が来ることはわかっていたよ。それで、夕焼けの鳥籠について聞きに来たのかな?」


「流石ですね。その通りです。」


先程も述べたが彼女は占い師だが、彼女の扱う〈占術〉は通常のそれとは一線を画す。


通常の占術は、人の運命を抽象的に占ったり、未来を朧げに観測するスキルなのだが、彼女の占術は自身の未来を正確に観測し、人の運命を具体的に占ってしまう。つまり彼女の占術は、実質的な未来予知なのである。


「ついてきて。ここでは人目につくから。」


占い店の一室に入ると、彼女は早速、夕焼けの鳥籠について話し始める。


「夕焼けの鳥籠は、君達が先日攻略した蒼炎の遺跡より古い歴史を持つダンジョンで、ダンジョンボスはフィーという名前の不死鳥よ。本来は神獣である彼女だけど、約千年前に魔に堕ちて以来、万を超える人が彼女に殺された。近年は大人しくしていた彼女だけど、1年前から再び人里を襲い始め、100を超えるパーティが投入されたけど、全員が失敗に終わったわ。最終手段としてフロントラインに依頼された訳よ。ここまでは君達も知ってるはずね。」


マリーが今から語るのは、彼女だけが知っている情報。


「ここからは他言無用でお願いね。フィーのことだけれど、彼女は人を殺したことがないわ。」


「どういう事ですか?」


「彼女は魔に堕ちたけれど、心は高潔なままだった。人を殺せと脳が訴えても、心でそれを抑制して何とか今の今まで正気を保っていたわ。そこで疑問が湧くわよね。それならなぜ、彼女が人を殺した歴史が残っているのか。答えは単純よ。彼女には偽物がいるの。」


約千年も前のこと。当時のフィーは大帝国のとある地域で神として崇められる存在だった。


彼女の力は絶大で、当時不治の病と言われた難病を彼女は息吹だけで完治させ、人類を滅亡の危機に追い込んだパンデミックから、大帝国を救い出した。


そんな彼女は人々から愛されていたが、ある日を境に、彼女は魔に堕ちた。その原因はボロンという一体の竜だった。彼は自身の不老不死の為に彼女の力を奪うと、彼女が住んでいた宮殿を支配し、彼の不老不死を維持するため、力を失い魔に堕ちたフィーを宮殿の最奥へと幽閉した。それ以降、ボロンはフィーになりすまし、人類を恐怖で支配した。


「大帝国が滅亡した原因の一つが彼にあると言っても過言ではない。」


大帝国が滅んだ直接的な原因は、後に魔王となる一人の魔人だが、その魔人の誕生の原因がフィーの不在なのだから、ボロンの責任は重い。しかし、その事実を知る人は、大帝国から派生した5つ国家のどこにも伝承されていない。唯一、マリーだけが占術によってその事実を知れた。


「君達にお願いしたい。邪龍ボロンを倒し、フィーを助け出してほしい。」


「当然です。ですが一つだけ聞いて良いですか。フィーは魔に堕ちたとおっしゃっていましたが、魔から彼女を救う方法はあるのですか?」


「あるよ。唯一、聖女の白魔法だけが魔を浄化できる。フロントラインじゃなくて、君達が来てくれて良かったよ。」


もしフロントラインだったら、確実にフィーを助けられるが、魔に堕ちたを彼女を浄化できず、暴れる彼女を仕方なく殺すことしか出来なかったはずだ。しかし、魔王のおかげで偶然勇者パーティがこの依頼にあたることになった。これは、かつて善行を積んだフィーの運命なのだろう。


間違いなく世界は彼女を救う方向へと進んでいる。


「それを聞けて良かったです。必ずフィーを助け出します。その後のことはお願いします。」


「わかってるわ。隠蔽工作はこちらに任せなさい。」


フィーを助け出したとして、世界の歴史において、彼女は被害者ではなく加害者。一万人を超える人間を殺した邪悪な魔物だ。勇者パーティに、そんな彼女を助け出せと願ったのだから、マリーは責任を持って彼女に平和を与える。


「それじゃあ、この部屋は自由に使って良いから、作戦会議でもしなさい。君達、冒険者ギルドにはいけないでしょ?」


「マリーさん。ありがとうございます。」


勇者パーティは現在、冒険者ギルドの支部を介して依頼を熟していない。これは全てのギルド職員に周知されている。しかし、依頼を受理していないだけで、冒険者ギルドの施設を利用すること自体は可能だ。それでも利用できないのは、どこに魔王軍の内通者がいるかわからないからだ。


「そうだ。少しだけユウ借りてくわね。」


マリーはそう言うと、ユウを連れて退出する。残された一同は早速、作戦会議を開始した。


「ユウ。まさか君が超越者だったとわね。」


「叔母さんも知ってるの?」


「勿論よ。私のこの占術も銀翼龍の加護を受けた物なのだから。」


「銀翼龍?」


銀翼龍とは、かつて朱陽山の麓にてユウが出会った神々しい龍のことである。当時の記憶をユウは失っているが、何故かマリーは竜との出会いを記憶している様だ。


「超越者にはそういう対応してるのね。だからあの時...」


「どうしたの?」


「いや。何でもないよ。どうやら君に伝えなきゃいけないことがあるらしい。」


マリーはユウを社長室に招くと、異様にきれいな木箱を取り出し、その中身を見せてくれた。それは銀色に輝く鱗で、神々しい魔力を内包している。


「銀翼龍の鱗?」


「そうよ。今から10年前、私が国境警備隊として、初めて任務に当たった日、私は国境沿いの湖で銀翼龍に出会い、彼からこれを貰ったわ。どうやら彼は私に会いに来たみたいで、いつか現れる超越者へのメッセンジャーの役割を私に与えた。それと共に私の占術は覚醒し、自身に訪れる未来を明確に観測できるようになったの。それで、彼に任された伝言だけど。一度しか言わないからね。」


質問する間もなく、マリーは伝言を語り始める。


「超越者よ。貴様の役目は勇者を補佐し、魔王を討伐すること。貴様に5つの命を与える故、それを活用せよ。また、超越者には人間には御し切れないだけの力があり、通常覚醒から10年はその力を十全に扱いきれない故、それを憂慮すること。最後に、これは他言無用である。もし口外した場合、この伝言は記憶から消去される――あれ?何の話をしてたんだっけ。」


「...!」


「まぁいいや。ユウ。気を付けて行くんだよ。」


マリーから銀翼龍に関する全ての記憶が消去された。その能力こそ健在だが、彼女の記憶は補完され、突然覚醒したものと言う事になっている様だ。


「行ってきます。」


ユウはそれ以上何も言わないで、勇者パーティの待つ部屋に向かう。ユウが戻った頃には作戦会議は佳境を迎えていた。


「おかえり。ユウ。早速だけど――」


ユウはマリーとの会話を整理できないまま、作戦会議に参加した。心ここにあらずという様子のユウだったが、地頭の良さ故か、全ての情報を理解して見せる。


「なるほど。では、フィーの救出を優先するわけですね。」


「うん。マリーの話通りなら、ボロンは不老不死のはずだ。そして、その維持にはフィーが必要。つまり、彼女を救出できさえすれば、ボロンの不老不死はなくなる。討伐は格段に簡単になる。」


不死鳥における不老不死とは、単に死なないという訳ではなく、老いぬ体と無限の寿命、そして傷を一瞬で癒す圧倒的な再生力を意味する。その再生力は異常と言って良く、即死する程の傷を負っても平均1秒程度で全回復してしまう。


つまり、死なないという訳ではないが殺す方法がない。という訳だ。とはいっても、回復が間に合わない程の圧倒的な速度で攻撃し続ければ、殺すことは可能だ。しかし、そんなことができるのは、人類ではフロントラインくらいの物だ。


「ただ、もし救出が不可能になったら、どうにかして討伐するしかない。その作戦を今考えているんだが思いつかなくてね。」


今まで、夕焼けの鳥籠に挑戦した先人たちの話だが、ボロンは消し炭にしても、細切れにしても、圧し潰しても死なないらしい。不死に見間違うほどの再生力の彼を殺す方法なんて、そう簡単に思いつくはずがない。


「戦闘中に対応していくしかないかもしれない。そうなったら、ユウの鑑定が頼みの綱だ。よろしく頼むよ。」


「はい。」


ボロンがいくら不老不死だって、弱点はあるはずだ。そこを的確につければ、もしかしたら討伐できるかもしれない。今までにない不安を抱えながら、作戦会議は終了した。


部屋を後にし、シンが用意してくれた宿に向かう途中のことだった。


「ねぇ。ユウ。何かあった?」


唯一、ユウの違和感を感じ取ったイヴが彼に問いかける。


「いえ。特には。」


ユウは白を切るものの、イヴの目は誤魔化せない。しかし彼女は「そう。」と言って、それ以上は追求しなかった。まだ出会ってから3か月程度しか経っていないが、一緒に死線を潜り抜けた彼に対する最大限の信頼の表れだった。

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