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蒼炎の遺跡2

地竜を倒して5時間が経った。地図上だとあと少しでボス部屋に到着する。


既に異様な空気が漂うその通路を抜けると、簡素な大広間が彼らを出迎えた。そこには、彼らが通った通路を含めた三つの通路と、巨大な扉が存在している。その扉からは、勇者パーティが今までに感じた事のない程の禍禍しい魔力を感じる。そんな扉を前に、一同は再び、作戦をおさらいする。


「このダンジョンの特性上、ボスとの戦闘が始まった同時に、ダンジョン中の魔物がこのボス部屋に向かってくる。それらを俺達が対処している間に、勇者パーティはボスを討伐してくれ。知っての通り、ダンジョンにおける魔物の数は実質無限だ。俺達でも足を掬われる可能性がある。つまり、迅速なボス討伐が今回の攻略の鍵だ。わかったな。」


ダンジョンは魔物が一体死亡すると、別の場所に一体、魔物を生み出すという性質がある。その為、何体殺そうが魔物の数は減らない。そんな超大群の相手はフロントラインでさえ一苦労だ。しかし、そんな役を彼らが買ってくれるのは、勇者パーティを信頼しているからだろう。


「では始めよう。健闘を祈る。」


言い終えると、フロントラインは守備を固める。3つの通路をシモンを除く3人がそれぞれ守り、中央のシモンが3人を同時にサポートするというシンプルな陣形だが、彼ら一人一人の実力がずば抜けている為、最も堅牢な陣形となっている。そんな彼らを頼もしく思いつつ、勇者パーティは早速、ボス討伐を開始した。


扉を開き勢いよく部屋の中に入り込む。扉は背後の警戒も兼ねて閉じつつ、ランとルースは勢いそのままにイーリャとの近距離戦を開始する。


ペイジの情報から彼が魔術師である事はわかっていたので、その弱点である近距離戦をついての事だった。しかし、その作戦はたったの10秒で破綻する。


彼らがイーリャに斬りかかった瞬間に、ユウは彼の鑑定を終えていた。その情報を整理すると、どうやら彼は魔剣士であるとわかった。しかも、魔術よりも剣の方が遥かに優れているということも同時に判明した。


「2人共!離れて――」


ユウが言い終えるよりも早く、イーリャの魔力で作った剣が2人を吹き飛ばす。その威力は凄まじく、一瞬で2人は壁に打ち付けられた。幸い2人共受け身を取っており無傷だが、元の作戦が白紙になったのは事実だ。しかしやることは変わらない。


遠距離になると、イーリャは超技術で無数の魔術を放って来る。その数は地竜と戦った時のマホに匹敵している。しかし、その全てをイヴは涼しい顔で撃ち落として見せると、なんと反撃までして見せた。その全てが切り伏せられてしまった物の、イヴの脅威をイーリャに植え付けることができた。


直後、イーリャは遠距離戦を不利に思ったのか、距離を詰めてくる。それを許す訳もなく、ランとルースは息の合った連撃でその突進を封じる。しかし、その連撃も華麗な剣術で往なされると、その一瞬の隙を突かれ、イーリャの接近を許してしまう。


放たれるは、イーリャ最速の突き。その剣は青い炎を纏っており、威力は言うまでもない。しかし、その突きはユウの障壁によって呆気なく防がれ、イーリャは大きな隙を見せてしまった。それを見逃すはずもなく、ソウは鉄鎖で彼を縛り上げ、その行動を制限する。一瞬で拘束を破られはしたが、その間に

イヴの高火力の魔術を何発も直撃させた。イーリャは満身創痍ながら剣を振り回すと、落ち着いて距離を取って息を整える。


そんな暇を与えまいと、ランとルースは追撃に出る。満身創痍のイーリャ相手だが剣戟は互角。彼の剣術には舌を巻くばかりだ。しかしながら、イブの援護もあり戦況は優勢、最後の作戦を決行する準備は整った。


魔術で援護をしながらユウから弱点を聞いていたイヴは、ランとルースに合図を出すと、それと同時に氷の魔術を放った。イヴは青魔術を扱えない為、その速度は普段の赤魔術とは比べ物にもならないが、ランとルースが魔術が着弾するギリギリまでイーリャの気を引いてくれたため、魔術は正確にイーリャの喉に着弾した。


その威力は先程の赤魔術より遥かに弱い。しかし、面白いくらい簡単に、氷はイーリャの喉を貫くと、あっさりとイーリャの首を切断してしまった。


当然イーリャは即死で、ユウが確認してもやはり生命力はゼロだった。念の為その死体はイヴの炎で灰にし、正式にダンジョンを攻略しようとダンジョンコアを破壊しようとしたその時だった。


「おや。イーリャは死んでしまったのか。」


そいつは見たこともないスキルで、一瞬にしてその場に現れると、床に散る灰を摘まみ上げる。突然の出来事に、一同は一瞬制止する。しかし、それが魔人であると最初に理解したユウは皆を守る様に障壁を展開する。


「ほう。良い判断だ。」


その障壁はいつの間にか放たれていたどす黒い魔術を偶然防ぐと、一瞬にして崩壊していく。それを目の前に、一同の危険信号は警鐘を鳴らす。


――こいつは違う!


今まで出会ってきた魔人や魔物とは、明らかに違う異質な雰囲気。それを漂わせるこの魔人は…


「しかし貴様ら。図が高いな。」


直後、魔人が魔力を放出する。今まで感じ取れなかったことが可笑しな程の恐ろしい魔力に、一同は思わず平伏す。


「クッ…!何が…」


ランは〈勇気〉を発動し、その魔力に抵抗し立ち上がろうとする。しかし、圧力は益々強くなり、ランは完全に身動きが取れなくなる。


「ふむ。残念だ。この程度で恐れるとは、今世の勇者は実に期待外れだ。」


実のところ魔人は今の今まで何もしていない。ただ、魔力を放出しているだけ。しかし、それだけで勇者パーティは恐怖に負け、身動きが取れなくなってしまったのだ。そして、その様子に失望した魔人は今にも、何かを仕掛けようとしている。


「ユウ!アイツは何者なの!?」


何とかして前に立つユウに声を掛けたイヴは、その表情に動揺する。彼の表情は正しく”絶望”だったから。


「魔王…です。」


「…!」


その声を聞きとれたのは、近くにいたイヴとソウだけ。しかし、その様子にランとルースも察してか、なんとか距離を取ると、戦闘態勢に入る。


「ふむ。どうやら少しは骨がある様だ。」


その余裕ぶった態度にイヴは付け入る隙を見出す。他の誰にも気づかれない様にソウとユウに目配せをすると、彼女はソウに隠れて魔術を発動する。そんな彼女を隠すように、ソウは露骨に白魔術を発動し、ランとルースに回復と強化を与えた。


「その力。貴様聖女か。」


ソウに興味を示す魔王にユウは大したことのない魔術を放つ。魔王は当然そんなもの軽々と弾くと、不愉快だと言わんばかりに、ユウに反撃する。その反撃を障壁で何とか防ぐと、ユウはあえて「何故、魔王がこんな所に。」と問いただす。


「貴様、何故俺が魔王だと!?いや、まさかお前が今世の超越――」


魔王の意識からイヴが消えたその瞬間、彼女の魔術において、速度も威力も最大級の最強の赤魔術を放った。その魔術は完璧に魔王を捉え、見事に直撃する。


「ん?なんだ。」


魔王は当たり前の様に無傷だった。彼はなんと、意識外からの攻撃さえ、簡単に防いでしまったのだ。しかし、その攻撃には流石の魔王も脅威に感じた様で、


「貴様らの中で最も脅威なのは、勇者でも聖者でも超越者でもなく、貴様だったか小娘。」


魔王がここに来た理由。それは、イーリャに会いに来たためではなく、勇者パーティの戦力を削ぐため。


この世の摂理(ルール)として、魔王城以外の場所で魔王は勇者を攻撃することができない。しかし、それ以外のメンバーに攻撃することはできる。


「死ね。」


不可視の攻撃がイヴを襲う。何とか障壁で防いではいるが、その猛攻は流石のイヴでも防ぎ切れない。そんな彼女を助けようと4人も動くが、魔王は通常の魔術でその出鼻を挫くと、再びイヴに集中砲火を放つ。


――このままじゃ…


イヴの顔に不安が浮かぶ。当然だ。勇者パーティは今いつも通りではない。勿論、作戦を立てれていないからというのもあるが、一番は魔王が今までのどんな魔物や魔人より強いから。


そしてその時は来る。魔王の猛攻が、遂にイヴの防御を破り、彼女の命を――



「おかしいですね。」


最初に違和感に気付いたのはシモンだった。既に、5分も経過しているのに、ダンジョンが終わらない。シモンは勇者パーティの実力なら、3分程度討伐できると考えていた。しかし、5分経過しても攻略が終わらない。これは異常事態だ。


シモンは背後の扉を調べる。すると、扉に強力な結界が施されていることに気付いた。


「フィルさん!異常事態です。」


その言葉にフィルは今相手している魔物を一瞬で薙ぎ倒すと、急いでシモンの元に戻った。その様子にマホとペイジも戻ると、4人で状況を確認する。


「確かにおかしい。壊すか。」


「はい。お願いします。」


フィルは力を込めて扉を殴る。しかし扉はビクともしない。即ち、その結界はマホの物より強力という訳だ。しかし、結局その結界をフィルは10発の打撃で破壊し、扉を粉砕する。


勢いよく部屋に飛び込んだ彼らを待っていたのは、イヴを庇って攻撃を受けたユウの姿だった。


「ユウ…!なんで。」


「なんという事だ。俺の魔術を受けて尚、仲間の為に動くとは。」


「貴様!」


イヴは攻撃を受けたユウを受け止めると、彼を抱えながら杖無しで無造作に魔術を放った。怒りに身を任せた魔術が魔王に当たるはずもなく。その全てが防がれてしまう。


「しかし死んでしまっては意味がない。結局は死者が増えるだけだ。」


そう嘲笑って、当初の目的であるイヴを再び狙って、不可視の攻撃が防がれる。しかし、先程とは違いその場にはフロントラインがいる。ランやルース、ソウよりも早く動き出したペイジは、イヴとユウを抱えてその不可視の攻撃から彼らを守る。


そして二発目の攻撃からはマホが魔術で迎撃し、その全てを防いで見せた。見えないはずの物をどうやって防いでいるのかは見当がつかないが、できるという事実が重要だ。


そして、そんな彼女を信頼して動いていたフィルは、勇者パーティに叶わなかった魔王への攻撃を成功させ、彼を打撃で吹き飛ばした。


「勇者パーティ!逃げろ。俺達でもこいつは抑えられない。」


「流石は人類最強。あの結界を破って来たか。」


魔王はフィルの打撃を受けてなお無傷。当たり前の様に防御していたようだ。その底は未だ見えず。歴代最強と謳われるフロントラインでさえ、足止めで精一杯という程。


「マホ。こいつらを生かすことこそ、俺達の最大目標。だから、あれを使え。」


「わかった。お前達。さっさと集まりなさい。」


緊迫した状況でも冷静な彼らに気圧され、3人はイヴとユウの下に急いで向かう。


「ペイジはフィルの援護に向かいなさい。私もすぐに合流する。」


「承知しました。」


マホは勇者パーティを一か所に集めると、彼らを魔力の円で囲った。そして、何かのスキルを発動する。


「勇者パーティ。お前達を助ける私達の判断は間違っていなかったと思えるように、ちゃんと強くなるんだぞ。わかったな。」


「マホさん。なんでそんなこと...」


「わかるだろう。恐らく私達はここで死ぬ。それ程までに奴は強い。しかし未来のお前達なら奴を倒せると信じている。これからの世界を任せたぞ。」


「ちょっ――」


次の瞬間。何かのスキルで勇者パーティはメイリアに移動した。それが、魔術の理論も物理法則も無視した超絶スキルだという事は言うまでもなかった。


そして、勇者パーティが完全敗北したことも、言うまでもなかった。

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