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合流

翌日、早朝にスメンを出発し、早くもメイリアに到着した。朝早いにも拘らず、ペイジは当たり前の様に勇者パーティを出迎えた。


「早かったな。スメンの失踪事件は解決したのか?」


「はい。捜査官の協力を得られたので、想像よりも早く終わりました。」


「捜査官?そうかこの地域はバジルの担当だったな。道理で早いはずだ。」


「そういえば、ペイジさんも捜査官でしたね。」


ペイジは冒険者になる前は捜査官を仕事にしていて、実はバジルとは同期だそうだ。


「バジルは唯一、俺の速度についてこれる奴だった。しかも俺より精神力が強い。俺の知る限り、アイツより優秀な捜査官はいない。」


「貴方がそこまで評価するとは。」


ペイジは人の闇に触れるのが嫌になって捜査官を辞めた過去がある。今でこそ、フロントラインで楽しそうに冒険者をやっているが、数年前までは廃人寸前の浮浪者だったのだから、人生とは不思議なものだ。


「まぁそんなことはどうでもいい。ついてこい。合流場所に案内する。」


合流場所は酒屋だった。中に入ると酔いつぶれたフィルと、そんなフィルに更に酒を飲ませようとするマホ、そしてそれを止めるシモンがいた。


「何をしているんですか?皆さん。」


「ラン君!久しぶりの所申し訳ないですが、止めるのを手伝ってくれませんか!」


合流早々、意味不明の事態に巻き込まれる一同。非力なシモンとは違い、パワーのあるランとルースは簡単にマホを引き剥がすと、彼女の説得をイヴに任せることにする。


「マホさん!何をなさってるのですか!?」


「お?イヴじゃない。お前も飲むか?」


アハハと笑う彼女は完全に酔っぱらっている。何故、こんな事態になっているのかというと、昨夜、勝手にスメンに向かおうとしたフィルをマホが捕まえたことから始まったのだが――


「おいフィル。何抜けだそうとしてるんだ?」


「チッ。バレたか。」


「そりゃバレるわよ。メイリア全域に結界を張ったんだから。」


フィルの暴走を防ぐために、マホは都市中に内側からの脱出を防ぐ結界を張り巡らせていた。それが作動する条件は、フィルがメイリアから出ようとすること。その判断はマホの主観が基準であり、その基準を満たした時点で作動する様になっていた。


「もうこの都市から出らないんだから、潔く諦めなさい。」


「ふん!」


本来、術者の魔力が尽きるまで、結界はいかなる攻撃においても破られない。しかし、フィルの右拳から放たれる打撃は結界にヒビを入れてしまう。


「何でこんなことでマジになってるのよ!?」


「俺は何事にも全力だ。」


二発目の打撃は更にヒビを広げてしまう。それを見て、マホはある提案をする。


「じゃあ飲みくらべで勝利しましょ!それで貴方が勝ったら行っても良いわ。」


「良いだろう!」


そうやって自信満々に勝負に興じたフィルだったが、御覧の通り、彼は酔いつぶれ、勝負を吹っ掛けたマホは酒に飲まれている。正に地獄絵図で、げっそりとしたシモンが不憫で仕方がない。


「マホさん。これを見てください。」


「なっ。それは!」


イヴが見せたのは新作の魔術で、パチパチと音を立てて火の花を咲かせるという美しい魔術だ。それを見てマホは酔いが醒めたようで、


「見た目は美しいが、戦闘においてはどんな効果を与えられるんだ?」


と、新作魔術が完成したらまず間違いなく問われる、実戦における効果の有無について言及する。その回答をすでに用意していたイヴは、自信満々に説明を始める。


「花弁が放つ火花には、物体に触れることで爆発する効果があります。そして、その爆発も火花散らします。その為、例えば敵の口内に放てば、体内から破壊することができますし、大軍を相手に放てば連鎖的に爆発を起こし、一面に花を咲かせます。また、安全の為に無機物と人体には反応しない様にしています。」


「そうか。合格…だ。」


流石に限界が来たのかイヴの説明を聞き終えたと同時にマホは気絶する様に眠った。しかし、今説明した魔術の効果は余りにも凶悪だ。しかも、最初に放つ火の花以外に魔力は消費せず、その後の爆発にイヴの魔力は関わらないらしく、その威力に対して小さい魔力で発動できるそうだ。


そんな魔術が一般化された場合の危険性は計り知れないが、そんな複雑な魔術を発動できるのは、世界でも指で数えられる程しかいない。悪用される可能性は限りなく低いだろう。


「この人は魔術に目が無いんですよ!」


自信満々に語るイヴだが、彼女もマホに引けを取らない魔術オタクだ。そもそも11歳の少女が作ったにしては、その魔術は余りにも凶悪だ。魔術の本質が敵の殲滅にあると理解しているからこそだろう。


「勇者パーティは良い教育しているようですね。」


シモンは彼女の精神性に感服したのか、細い目を輝かせてニマニマと笑う。


「イヴは天才ですから。僕達が教えた訳ではありません。」


「天才…ですか。」


シモンにとって天才の二文字には大きな意味を持っている。


平民でありながら常人を逸脱した才能を持って生まれた彼にとって、世界はこの上なく生きづらかった。フィルと出会ってからはこの世界を楽しいと思えるようになったが、かつての彼の目線からはあらゆる人間が獣と変わらず、12歳の頃に母国の軍師になった時は、兵士に限らず、王でさえ駒にしか見えていなかった。


そんな自分と同じ、天才に生まれた彼女の目には、世界がどう映っているのか以前から興味があった。以前の時は急を要する依頼だったため、雑談の機会はなかったが、今はリーダーとサブリーダーのどちらも酔いつぶれて暇な状況なので、丁度良い機会だとシモンはイヴに問いかける。


「イヴ君。貴女には世界がどう見えていますか?」


その質問の意味をイヴはすぐには理解できなかった。だから、イヴは今見えている世界をそのまま彼に伝えた。


「私には世界が美しいように見えます。」


イブの青眼に映される世界は、常人には捉えられない物質の美しさが存在している。それが自然物であれ人工物であれ、彼女はその全てに美しさを見出す。そして、その美しさをそのまま表現したのが、彼女の魔術であり、だからこそそれらはこの上なく美しい。


「そうですか。」


彼女の曇りなく眼にシモンは少しだけホッとする。どうやら彼女は天才の苦悩を背負わずに済んだのだと。


「ところで、勇者パーティの新入りというのは貴方ですね。」


「はい。」


シモンは疑問解消した途端、次の標的を見つけたと言わんばかりの速度で、ユウに目をつける。そして、まじまじと彼の顔を見つめると、突然動揺した表情で「超越者…」と呟いた。


「超越者?」


「あっ。失礼いたしました。超越者というのは、生物の限界であるレベル10を超える力を与えられた者を指す言葉です。」


賢者としてこの世全ての知識を持つシモンは、当然、古代の歴史すら把握している。勿論、消えてしまった歴史は彼でさえ知る由もないが、超越者についての文献の一部は今でも現存している。


「そして超越者は、勇者が生まれた時代に必ず現れ、いつの時代も勇者と協力して魔王を討伐しました。どうやらこの時代の超越者は貴方のようですね。」


「どうして僕が技能レベル11だと?」


「鑑定を阻害する魔道具を持っている様子ではないのに、私の鑑定を防いだからです。」


シモンの鑑定は技能レベル10に到達している。その為、低レベルの魔道具であれば貫通して鑑定する事だって可能だ。しかし、そんな彼でもユウを鑑定することができなかった。ユウが高レベルの魔道具を持っているならいざ知らず、勇者パーティ全員が身に着ける腕輪の魔道具を彼は着けていない。つまり、彼が超越者であることはシモンには明白だった。


「シモンさんは、ユウの力について何か知っていますか?」


「申し訳ありません。超越者に関する文献のほとんどは失われています。ですので私もその力の詳しい事はわかりません。」


シモンがかつて確認した文献ですら、かつて存在した書物の切れ端の写しで、原本自体は既に失われている。それ程、超越者に関する情報は禁忌だったのか、あるいは余りにも重要ではない為失われたのかはわからないが、人類がその情報に触れる機会は完全に失われている。


「そうですか。」


「約束はできませんが、なるべく調べてみますよ。」


落ち込むランを励まそうとシモンはできもしない約束をする。何故ならこの世界に彼の知らない、現存の情報なんてないのだから。


「さて、雑談は済んだか?」


いつから起きていたのか、話がひと段落ついたのを確認して、マホは会話に割り込んだ。


「フェイ。酔いつぶれてないで、さっさと起きて作戦の説明をしなさい。」


「ああ。」


彼は最初から酔ってなどいなかったと思える表情で、今回の作戦について語り出した。


「蒼炎の遺跡がA級に指定されているのは、魔人が支配しているというのもあるが、一番はその広大なエリアだ。通常のダンジョンが3から5階層なのに対して、蒼炎の遺跡は10階層あり、それぞれの階層も通常の倍以上ある。かつての使用用途は不明だが、迷宮になっているのも厄介な点だ。」


蒼炎の遺跡での死因で最も多いのは餓死で、ダンジョンボスに到達する前に死亡するのがほとんどだ。運よく辿り着けても、相手は古代から生きる魔人。常日の遺跡の魔人に比べたら劣るものの、実力が平均よりも上なのは確かで、ダンジョンを彷徨って既に満身創痍の冒険者では、どんな実力があっても為す術なく敗れるのは当然の話だ。


「ただ、我々にはペイジが作成したこの地図がある。」


1層から10層までの構造を全て書き写したその地図は世界にただ一つしか存在していない。そもそも、蒼炎の遺跡から生還したのが、ペイジが初でありその実力が伺える。


「シモンが最適のルートを見つけ出し、既にこの地図に示してくれた。このルートに従えば、2日で10層に辿り着くことができる。」


以前勇者パーティは8階層あるB級ダンジョンに挑んたことがあるが、その際は15日かけてやっと最下層に辿り着くことができた。ソウのおかげで餓死することは免れたが、その時の疲労感はA級ダンジョンにも劣らなかった。それを回避できるのはありがたい限りである。


「蒼炎の遺跡の2つ目の難点が、魔物を多さだ。その為、ボス討伐中に背後から魔物に襲われる可能性がある。それを防ぐため、我々は防衛に徹し、お前たちにボスの討伐を任せたい。」


「わかりました。」


蒼炎の遺跡は古くから存在するダンジョンなだけあって魔物の数が異常だ。それに、一個体一個体の強さも尋常ではなく、平気でB級ダンジョンのボスクラスが最下層にはうろついている。ボス討伐中にそんな怪物に背後を襲われた一溜りもない。だからこそ、大群戦を得意とするフロントラインが殿を務め、勇者パーティがボス討伐にあたることとなった。


「以上だ。何か質問は?ないならさっさと向かうぞ。」


フィルは剣を持つとさっさと酒場から出る。そんな彼を追って一同も酒場を後にし、用意周到に準備された馬車に乗り、早速蒼炎の遺跡を目指して出発した。


移動中、シモンがユウの能力について聞いて来たので、包み隠さず説明した。彼らはランと同じように、手放しユウの力を称賛した。そして、彼の力の限界が知りたいとシモンがある提案をする。


「ダンジョンのトラップすら見抜けるなら、他にも様々な物を見抜けるかも知れません。例えば、分かれ道の正解や隠し部屋などです。こちらにはペイジ君が作成した完璧な地図がありますから、色々試してみましょう。」


「良いんじゃないか?ユウの限界を把握しておけば、勇者パーティはより戦略の幅を広げることができるはずだ。」


「そうですね。やってみましょう。良いかい?ユウ。」


「はい!」


こうして彼らのダンジョン攻略が始まったのだった。

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