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最期

「それじゃあ。行こうか。」


あれからまた一週間と少しが経過して、遂に「常日の遺跡」に挑戦する日となった。あの日以降も、ユウの魔術と剣術の向上の為に、C級ダンジョンに挑戦し、ユウを主軸にダンジョンボスの討伐にも成功した。そうやって成長したユウだったが、今日は完全に守られる立場だ。


A級ダンジョンは付け焼刃が通用する訳がない、そういう難易度のダンジョンであり、ユウは鑑定と障壁に徹するしかない。一瞬の判断ミスがパーティの全滅に繋がりかねないのだから。


陣形はいつも通り、ルース、ユウ、ソウ、イヴ、ランの順番。全員が斜陽花を一片飲み込んで、廃墟となった市街地のど真ん中にある、極寒のダンジョンへと足を踏み入れる。


「え?これって...」


足を踏み入れて、最初にその異質さに気付いたのはイヴだった。


「どうした?」


「この氷。全部、魔力でできています。魔術には見えませんので、何かしらのスキルなのでしょうが、これ程強力なのは聞いたことがありません。」


スキルを維持するには、ソウの結界がそうだったように、それ相応の魔力が伴う。仮にダンジョンの環境を変える程のスキルならば、低く見積もってもイヴ二人分の魔力が必要である。それを補う存在がこのダンジョンに住んでいる訳だ。そして、それが可能なのはまず間違いなく、


「魔人の仕業だろうな。」


魔人は人類が誕生する遥か昔から存在しており、そもそも魔人の中で魔力が少なく迫害された者達の子孫が人間である。しかし、稀に魔人に近しい力を持って生まれる人間が存在する。イヴもその1人で、魔人に近しい魔力量を誇っている。しかし、当然、人間から怪物が生まれるように、魔人から怪物が生まれることがある。常日の遺跡に住まう魔人は、恐らくそれである。


「今からでも帰ろうかな。こんな怪物と戦うのは骨が折れるからね。」


「お好きにどうぞ。貴方無しでも私達は挑戦しますから。」


「冗談だよ。」


魔人の中でも最上位の存在と戦う可能性があるというのに、勇者パーティはいつもと変わらない様子で、そんな気の抜けた会話をしていても、各々が役割を果たして、どんどんと奥へと進んでいく。


道中、何体かの魔物を倒したが、そのどれもがワーウルフやスノージャイアントに匹敵する強敵で、A級ダンジョンの難易度を如実に表していた。


「今夜はここで野営しよう。」


流石、元居住区と言うべきか、当時のままで残っている一部の場所には体を休めれそうな場所が存在する。当然で、扉も何もかも凍ているため、破壊して入るしかないが、中は意外にも綺麗でかつて人が住んでいたのがありありと理解できた。全てが凍っていることを除けば、だが。


食後に斜陽花を一片飲み込んで、体力を温存する為にさっさと寝袋に入る一同。ランだけは唯一の扉に座って、見張りをする。


翌朝、いつも通りの時間に起きたイヴは見張りをするルースに挨拶を済ませると、今まで感じていた違和感を解消するべく、天井のつららをルースに取って貰って解析を始めた。


皆が目を覚ました頃。大体の解析を終えたイヴは、開口一番、衝撃な発言をする。


「どうやら、この氷は魔術でもなければ、スキルでもないようです。」


「どういうこと?」


「この氷はただの魔力です。体内から放出された魔力が、冷気となって今も残留している。という訳です。」


魔力にはそれぞれ性質があり、それによって得意な魔術が決定づけられる。例えば、ソウは光の性質を持っているから、光の魔術に長けているし、ユウは火の性質だから、火の魔術に長けている。


そしてこの性質というのは、魔術だけでなく単純な魔力放出にも影響する。強弱あるものの、火の性質を持った者が、ただ単に魔力を放出しただけでもその魔力が熱を帯びることがある。その現象が、このダンジョンでも起こっている訳だ。


「つまり、この魔力の主は氷の性質を持っている訳だな。」


「そうなります。とても珍しい性質ですね。」


一般に知られる性質は魔術の属性と同様で、火、水、土、風、光、闇の6つ。ただし、この世界で最も多い性質は無属性で、この場合は魔術を使うことができない。逆に最も少ない性質として代表的なのが氷属性で、この場合は魔力に冷気を帯びるとされている。


歴史上でも氷の性質を持って生まれた人物は少なく、最後の氷属性も8年前に亡くなっており、現在その性質を持っている者は0人となっている。


「しかし厄介ですね。アメリアさんの情報だと、魔人は青魔術をコピーして氷の魔術を使うそうじゃないですか。ランさんが青魔術を持っていますから、まず間違いなく氷の魔術を使ってくると予想できますが、氷の性質を持った人の青魔術は次元が違います。私の炎で溶かせるかどうか。」


「イブでも難しいのか...予想よりも厳しい戦いになりそうだな。」


「魔人の技能レベルによっては、撤退するしかないでしょう。ユウ、もし魔人の青魔術の技能レベルが7以上なら、報告をせずにすぐに撤退の合図をして欲しい。それ未満なら対応して見せるわ。」


「わかりました。」


ダンジョンに入らないとわからないこともあるが、今の所その全てが凶報。事前に、魔人の実力を高く見積もっていたはずなのに、それすら超えて来るなんて予想外――


「まぁ、予想通りだね。」


「最悪な予想的中ですけどね。」


なんて訳はなく。魔人は常識はずれなのが当たり前。事前の予想が当てにならないのなんてのは、対魔人においてはいつも通りだ。だから、予想が外れた時の予想も事前に立てて来た。その予想さえ外れることも予想済みで、それくらいしないと攻略できないからこそ、A級に指定されているのだ。


「そうだね。最悪な状況だ。でもその時の為のプランBだろ?」


「そうですけど。」


彼らにはこういった時の作戦もある。だから臆さずに、彼らは最下層に進んでいく。進むにつれて冷気は強さを増し、斜陽花を以てしても少し肌寒い程だ。そして、真冬の様な寒さを感じた頃、荘厳な扉が目の前に現れた。それは廃墟になった後につけられたのだろうと、簡単に予想できるくらいには浮いた見た目の扉で、つまりはその先にボス部屋が存在している訳だ。


扉は例に漏れず凍り付いていた。今まで最も強固に凍っている。


「皆さん。障壁を張ってください。」


それを突破するにはイヴの持つ魔術の中でも高火力な物を選択しなければならない。味方への誤爆を防ぐため、しっかりと障壁を展開してからイヴは魔術の豪炎を放つ。


ドカーンという激しい爆音と共に扉が粉砕、それと同時にユウ以外の全員で障壁を展開する。


いつものプランAでは、ランとルースが防御し、その後ろにユウ、部屋の外にイヴと回復役であるソウを配置して、ユウの鑑定が終わってから、ユウ以外で攻撃に転じる訳だが、プランBではよりユウの防御を固める為に、全員で防御に徹している。この作戦は全滅の危険性を孕んでいるが、それでもどんなに強力な魔術を敵が持っていようと、4回だけは防げるという防御に特化した作戦。その間にユウが弱点を見つけられなかった場合は、即撤退するという事まで作戦に盛り込んでおり、敵がどうしようもない強敵だった時用の逃げ腰の作戦だ。


しかしランに言わせれば逃げ腰で結構。冒険者にとって、人間にとって最も大事なのは命なのだから。


「えっと…」


そんな作戦を決行したのも束の間、鑑定を始めたユウの言葉が詰まる。それは魔人が余りにも強かった訳でも、弱点が見つけられなかった訳でもなく。


魔人が死んでいたから。


「相打ち...だったのか。」


ボス部屋の中央で決着の瞬間が凍ったまま残っていた。最強パーティ「ブレイカー」のリーダー、ヴァンと魔人の決着の瞬間が。


ヴァンの剣は正確に魔人の心臓を貫き、同時に魔人の鋭い爪もヴァンの心臓を貫いている。そして、ヴァンの剣を中心に氷が広がっている。


「この氷はヴァンさんのだったのか。」


8年前に亡くなった最後の氷属性がヴァンだった。しかし、人間にこの規模の魔力放出なんてできる訳がない、という先入観がその可能性を切り捨てていたのだが、どうやら彼は自身の命と引き換えに、これをやってのけた様だ。


「魔人は自己再生ができた。つまり、心臓を貫いたくらいじゃ死なない。それを知っていたから、彼は自身の命という最大の代償を払って、魔人を道連れにしたようだな。流石は生前〈最強の剣士〉という二つ名を恣にした男だ。」


「この姿を見ればわかる。もし魔人が自己再生できなかったら彼らは勝っていた。単純な戦闘能力では、20人分のスキルを覚えた魔人よりもヴァンさんの方が上だったのだから。」


――味方が壊滅し、唯一の生き残りだったアメリアとレイラを生かすために足止めを担ったヴァンは、魔人と互角以上の戦闘を繰り広げて、遂に魔人の心臓を貫いた。通常であればそこで勝てるはずだった。しかし、本来魔人は習得できない〈白魔術〉を魔人はその特性で習得し、実質的な無敵状態に至った魔人はそんな攻撃を異に返さず、逆にヴァンの心臓を貫いた。


「これで終わりだ。逃げた2人も後でそっちに送ってやるよ。」


逃げた2人を追おうと、剣を抜こうとしたその時、ヴァンは剣先に全身の魔力を集めて、それを一気に放出した。それは物凄い勢いで魔人を自身を仲間の遺体をダンジョンを一瞬で凍り付かせる。ただ、何の偶然か、アメリアとレイラが通っていた通路だけは凍らず、彼女らは無事に生還した。


――ああ、2人は逃げきれただろうか。


心臓を貫かれても、凍り付いても、まだ意識を保っていた彼は最期の瞬間まで彼女らの心配して絶命した。


そんな英雄の最期の姿を目に焼き付けて、ランはイヴに彼を開放する様に命じる。


イヴは今までに見たことがない、優しい暖かさを放つ炎で氷を解かすと、綺麗にヴァンだけを開放し、ダンジョンの床に寝かせた。そのまま、凍ったブレイカーの面々を1人ずつ解放して、イヴは彼らの体をその優しい炎で包み込んだ。すると、彼らの濡れた体は見る見るうちに乾いていく。


炎が消え去ると、何の合図も無しソウは白魔術で、彼らの傷を丁寧に治療した。そうして綺麗な状態に戻った彼らをリュックに入れる。


念のため、凍った魔人は粉々に砕き、イヴの魔術で灰も残さず燃やし尽くして、さっさとダンジョンを後にした。


ライトウルに戻ると、教会に彼らの遺体を届けて、冒険者ギルドにその経緯を説明した。数日後、開かれた「ブレイカー」の為の葬式には、世界中の名立たる冒険者が集結し、彼らを弔った。


特にアメリアとレイラは、亡くなった彼らの親族と共に最前列で彼らの埋葬を見届ける。


「ありがとう。ラン、ルース、ソウ、イヴ、ユウ。君達のおかげでやっと彼らの葬式を開けた。やっと、彼らを見送れた。」


頭を下げるアメリアとレイラを前に、ユウは葬式がどれだけ特別な物かを初めて理解する。


冒険者という職業は死と隣り合わせ、そんなことわかっていた。でも、当然は葬式はできるものだと思っていた。だけど、死体を安全な場所まで持って帰れるとは限らないし、そもそも死体が残るかもわからない。仮に凍り付いていなかったら、彼らの死体はその他大勢と同じように、ただの骨になっていた。そうなれば、彼らを連れ帰ることはできなかった。


良かった。ユウは心の中で安堵する。あの英雄にあんな暗い場所は似合わないし、誰にもその最期を知られないなんて悲し過ぎるから。しかし、歴史上の数多の英雄の中には惨めな最期を迎えた者は少なくない。ましてや歴史に残らない者だって少なくない。


願わくば、100年後の未来にも彼の名前がありますように。ユウは帝都の墓地に刻まれた彼らの名前を見て、心の中でそう願った。

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