表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/27

鑑定士

両親は伝説の英雄。僕が生まれた時、僕がいつの日か英雄になるだろうことを誰も疑わなかった。だけど僕は、体に恵まれなかった。滑らかな剣術、鋭い槍術、百発百中の弓術。どれも持ち合わせたが、体が弱い僕は1分間以上その激しい運動に耐えられない。誰もが僕を失敗作と呼んだ。



「――それでは、祝福の儀を執り行います。」


祝福の儀。それは今年10歳になる全ての子供が受ける儀式。この儀式を受けた子供は女神様から1つの祝福を与えられ、それにより将来就く職業が決定づけられる。


「名前を。」


「ジョスです。」


司祭様に名前を伝えると、司祭様は小さく頷いて教会の壁の中央に置かれた、女神様の像に向き合う。


「女神よ。少年ジョスに祝福を与え給え。」


司祭の言葉に応えるかのように、天から降り注いだ光はジョスという少年を照らして、彼に祝福を与えた。


「ジョスの祝福は「鍛冶師」。その力を存分に役立てなさい。」


「はい!」


村でも勤勉で有名なジョスに与えられたのは鍛冶師という祝福。きっと、将来は優秀な鍛冶師になっている事だろう。彼は当然のように盛大な拍手を浴びた。


それからも多くの子供が祝福を受けては拍手を浴びた。僕の時までは――


「名前を。」


「ユウ=ソールトです。」


今までと同じように司祭様は名前を聞いたら頷いて、儀式を行った。そして、同じように天からの光を浴びて、祝福を授かった。


「ユウ=ソールトの祝福は「鑑定士」。その力を存分に役立てなさい。」


「...はい。」


予想通りと言うべきか。僕の時は賛美も拍手もされなかった。それよりも静かな教会内で目立ったのは、落胆した様な溜息と、顔見知りの子供からの罵倒だった。


――お父さんは僕にどんな祝福が与えられようとも喜んでくれると思う。でも、この祝福じゃ...


祝福にはその希少度を表す等級が存在し、それぞれS、A、B、C、Dに分けられる。その中で「鑑定士」はC級祝福に分類される。


「おい!ユウ。鑑定士じゃ冒険者にはなれないなぁ。」


いじめっ子の一人。トニーはニヤニヤしながら、いつもの様に僕を馬鹿にした。いつもだったら言い返すが、今日の言葉には言い返せなかった。


この世界には魔物と呼ばれる化け物が存在している。魔物は人間に害をなす生物で、それを討伐する職業が冒険者だ。


冒険者になるには最低限必要なものが存在する。それが祝福だ。魔物と対抗するための祝福がなければ、冒険者にはなれない。そして、鑑定士という職業では冒険者には…なれない。


「…そうだね。」


いつもの様に反抗すると思っていたのか、彼の言葉をあっさり認めた僕に彼は驚いている様子だ。


「お前、」


「――僕もう帰るから。」


「お、おい!」


何か言いたげな彼を振りほどいて、僕は教会から逃げ出した。そんな惨めな姿をあんな凄い人たちにも見られていたなんて、その時は気づかなかった。


「どうしたのかしら?」


「鑑定士だったので自暴自棄になっているのでしょう。ああいった子は良くいます。」


「ああいった子って、貴女と1歳しか違わないじゃない。」


「子ども扱いしないでください!」


現代の勇者が集めた精鋭、赤魔術師の少女と聖女の女性は、袖で目元を隠しながら教会の外へ駆け出したユウを見かけて、聖女の方は心配そうに、赤魔術師の方は呆れたように語っていた。


「あの少年…」


「どうした?」


しかしただ1人だけは、一瞬見かけただけの少年に目を輝かせる。その様子に剣士の女性は怪訝そうな顔をする。


「あの少年だ!ルース。」


それは勇者だった。


「ん?見つけたのか。このパーティに足りない物を埋めてくれる存在を。」


「いいや。そんなモンじゃないよルース。彼はこの世界を救うために必要な存在だ。」


勇者の言葉に剣士は同じことじゃないかと言いたげな顔で首を傾げる。しかし、そんな彼女に目もくれず、勇者はユウの後を追って駆け出した。


「どうしたんですか!ランさんは。」


「先程の少年に何かを見出したらしい。」


「あの少年に?でも、彼は鑑定士と言われてましたよ。そんな少年に…」


剣士の言葉に赤魔術師は最初こそ疑い深く話すが、剣士の勇者を信頼しきった顔に、「"彼は間違わない"ですか?」と、彼女の口癖を言うんだろうと予測して問いかける。


すると、予想通り彼女の口癖が返ってきた。


「ああ。彼は間違わない。」


幼馴染だからだろう。勇者と剣士の間には、他には理解できない絶対的な互いへの信頼が存在する。逆境の中、勇者が根拠のない自信を語っても、剣士は「彼は間違わない。」と一言だけ言って、彼に背中を預けて道を切り開く。


そんな彼らの関係を羨ましく思いつつも、赤魔術師は未だに疑いの目を持って、少年に追いついた様子の勇者に目を向ける。


直後、勇者は教会にも届く程の大声で、


「僕は君が欲しい!」


と、とんでもない事を口にする。


「ル、ルースさん!別の意味でランさんが間違えそうなんですけど!?」


「か、彼は間違えない…多分。」


「ルースさんが自信を無くしてどうするんですか!」


勇者の告白の様な誘い文句に、流石の剣士も動揺して、勇者への信頼が一瞬揺らぐ。「行きますよ!」と、状況を知る為に赤魔術師が駆け出すと、剣士も「あ、ああ。」と急いで駆け出した。勇者とユウの周りには既に人混みができている。


お忍びで各地を巡る勇者が目立ってしまうという現状。そして、いつも冷静な剣士でさえ動揺しているという珍しい状況に、聖女だけは静観して「あらあら。」と微笑んだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ