第96話 演習
遂に白銀と会う日がやって来た。
合流場所がAA級ダンジョン内の訓練所というのが、不穏な空気しかない。
待っていると、いかにもな雰囲気の四人組がやってくる。
勇者アタッカーの白銀。
斥候兼アタッカーの黒鉄。
回復兼魔法系アタッカーの青錫。
魔法戦士のアタッカー赤銅。
全員アタッカーをこなすという超攻撃型のパーティ。
普通は成立しない。
相手の攻撃を受け止めるタンク役が居ないから、攻撃で誰かが崩れれば終わる。
それを終わらせないのが、勇者の破格なバフと勇者パーティの壊れた性格だ。
完全なバトルジャンキーパーティ。
絶対俺と性格合わないよなぁ…。
白銀ってハーフなのかな？金髪のロングに彫りの深い顔『そんな装備で大丈夫か？』って聞きたくなる顔してる。
「お前がウサギ使いか？」
「あ、はい」
「じゃ、行こうか」
「え！？」
「いや、戦わないとお前達の実力分からないだろ？」
「あ、いえ、それはそうなんですけど」
「じゃあ、行くぞ」
「行くぞって、実力測るなら訓練所で試してからじゃないんですか？」
「死の危険の無い戦闘なんかしたところで意味ないだろう」
「でも、ここってAA級ダンジョンですよ？」
「俺たちが今後挑むのはSSS級ダンジョンだぞ」
何も言い返せねー。
単純に敵が強くなるだけのダンジョンは、AA、AAAと上がっていく。
Sが付くダンジョンはそんな単純じゃない。
単純に特殊って意味だけならS級、これはそんなにヤバいダンジョンは無い。
変わってるってだけだ。
これに危険度や特殊度が増すとSS級、罠だったり特殊な攻撃だったり、一気にヤバさが増す。
SSS級、普通の人間は行っちゃダメなダンジョン。
入っただけで恐慌状態になったり、毒ガス蔓延してたり、方向感覚が狂って出て来れなくなったり。
富士の樹海ダンジョンは方向感覚が狂うのと、フロア移動毎に精神系の状態異常に抵抗しなきゃならない。
もちろん、敵も尋常じゃなく強い。
「えっと、パワーレベリングしてくれるって聞いてたんですけど…」
「だから行くんだろ、つべこべ言わずにさっさと着いてこい！」
いきなりAAダンジョンでパワーレベリングするんだ…。
多分、恵ちゃん以外は掠っただけで死ねると思うんだけど…。
こんなパーティで大丈夫か？
誰か、大丈夫だ！問題ないって言ってくれ！
いや、これって全滅フラグだっけ？やっぱり言われなくて良いや。
ーダンジョン内ー
このダンジョンは通称『ビーストダンジョン』
ビーストタイプのデーモンがメインで出るダンジョンだ。
Aランクより上のダンジョンだと、わりとポピュラーな存在のデーモン。
強靭な肉体、豊富な魔力、優秀な知能、残虐な性格。
世の中一般のイメージそのまんまな感じのモンスター。
ただ、能力や性能が安定しない。
見た目は同じでもどんな能力でどんなタイプかわからない。
その中でビーストタイプは、知能と魔力を減らして強靭な肉体に全ベットしたようなタイプ。
ハマるとトンデモなモンスターになるけど、紙装甲で簡単に倒せたり、ものすごく鈍重だったりするのも居る。
それでも、フィジカルのみに特化してるせいで、高性能になる確率は普通のデーモンより高い。
「あのー兄貴、その格好はなんすか？」
なんか、たかしが不満げだ。
「ん？ウサギアーマーだよ、うちのコロのスキル」
「他の三人も雰囲気似てるの着けてるっすよね？」
「うん、コロは分裂ってスキルあるからね」
「俺の分は？」
「ないよ」
「なんででっすか！」
「え？いらなくね？」
「そんな事無いっすよ！」
「分裂のせいでステータスへの恩恵はほとんどないし、光学迷彩も空歩も使わないだろ？」
「そ、そっすけど、なんか仲間ハズレみたいで嫌じゃないっすか」
「…あぁ！その発想は無かった」
「酷いっす、仲間ハズレっす！」
「あ、いや、そっちじゃなくて、仲間って発想が無かった」
「兄貴、それはダメっす、俺マジで泣くっすよ」
「そうだよなぁ、仲間って事にしてやる気出させてこき使う方が合理的だよなぁ」
「あ、兄貴、それは思ってても言っちゃダメっす…クルっす、心にクルっす」
「あーごめんごめん、分裂使って、ウサギアーマー着けるから許して」
「全然納得出来ないけど、納得するっす」
「しょうがないよ、最初に出会いが最悪なんだし、生きてるだけでもありがたいと思って」
「…それ言われると、なんも言えねぇっす」
殴られた方は忘れないもんなんだよ。
それが実害無かったとしてもね。
これでも、かなり譲歩してるんだけどなぁ。
