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心の色は薔薇言葉  作者: 月夜野桜
第一章 氷の瞳の黒薔薇姫
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第四話 花浜匙(スターチス):成功、あるいは同情

(さてと、この後始末はどうしようかしら……)


 室内を見回して、ラミアはその惨状に頭を悩ませた。密かに侵入し、証拠を残さず標的ターゲットだけを暗殺する予定だった。可能なら自業自得の事故死に見せかけようと、過剰摂取で心臓麻痺を起こすような麻薬も用意してあった。マフィアと繋がりがあるのなら、充分に有り得る話。


 幸いにして、通報された気配は今のところない。単純な回路で構成されていたのか、照明だけ先に復活したようで、壁に埋め込まれた端末のパネルなどは死んだまま。監視カメラの類も止まっているだろう。だがEMP投下前に撮影された記録が残っているかもしれない。


 何らかの方法で証拠隠滅する必要があるが、怯えた感じの氣が建物の各所で震えている。使用人か何かだろう。機械はともかく、一般人を大量虐殺して口封じ、というわけにはいかない。


(何かしら、あの場所? 地下……不自然ね)


 子供らしき小さな氣が、一カ所に固まっているように感じられた。しかも高低差からすると地下室。別れた妻との親権争いの報道を見た気がするが、こんなに多人数のわけがない。


 ラミアは祓魔師エクソシストの少女に視線を落とした。傷はきちんと再生が進んでいて、何とか生命を繋ぎとめたことを確信出来る。氣が変質することもなく、状態は安定しているように思えた。


 それに安心すると、建物内の図面を頭に思い浮かべ、子供たちがいる場所へと急いだ。


(なるほど……そういうことなのね)


 厳重に閉ざされた金属製の扉の向こうに、子供たちの氣を感じる。弱っているようにも思えた。この状況から考えられる可能性は二つ。そのどちらだとしても、こちらの都合の良いように解釈して、設定を作れる。証拠隠滅ではなく、偽造で済みそうだった。


 扉の横の操作パネルに手を触れても反応がない。他にまともな手段で開くとは思えず、ラミアは白薔薇ロサ・アルバを発動して軽く振るった。合金製の扉が易々と斬り裂かれ、少し手で押すだけで内側へと倒れていく。その先の光景はラミアの予想以上に酷く、思わず顔をしかめた。


(これは……確かにこっちなら、生き残ってる使用人から言質取れそうだけど……)


 まだティーンエイジャーにもなっていないような子供たちが多数、鎖で繋がれていた。ご丁寧に猿轡まで嵌められている。そしてラミアの予想した可能性の一つが確かであった証拠として、男女問わず一糸まとわぬ姿だった。身体のあちこちに痣や生傷が残っている。直視しがたい部分が血塗れになっている幼女すらいた。


「そんなに怯えなくても大丈夫。警察に頼まれて、あなたたちを助けに来たの。安心して」


 ラミアは努めて優しい声を出して、子供たちの前で膝をついた。近くの男の子の頭を撫でる。うまく笑顔が作れている自信はない。それでも、次第に子供たちの氣の震えは収まっていった。


 落ち着いてくれたと判断すると、ポケットからシールドケースを取り出した。EMPの影響を受けないよう入れてあった、携帯端末を手にする。コーネリアスへの直通回線を繋ぐと、話しかける前に相手の声が端末から響いた。


『ラミア、終わったのか?』


「コーネリアス、ちょっとイレギュラーがあって、派手にやることになってしまったわ」


 小さな溜息が、端末越しに聞こえる。僅かに間が空いてから返答があった。


『やはり薔薇の色は白ではなかったか。日程を変えた方が良かったんじゃないか?』


「大丈夫よ、どうにか出来る。今からちょっとショッキングな映像を見せるから覚悟して」


 そう宣言すると、カメラをオンにして、子供たちの様子をコーネリアスへと送った。歯ぎしりの音が端末から漏れた気がする。彼ならこれをうまく利用して、穏便に収めることだろう。


『もういい、消してくれ。やはり性犯罪者だったか。救出のために特殊部隊が動いたことにする。その情報を流して現地の警察を向かわせるから、お前はすぐにそこを離れろ』


「嫌よ。この状態で置き去りには出来ない。保護に来るまで残るわ。適当に設定作っといて」


 端末に向けて言い放つと、一方的に通信を終えた。それから子供たちの方へと微笑を向ける。慣れないことして引きつった顔になっていないか心配だが、ラミアは懸命に猫撫で声を出した。


「今からその猿轡と鎖を外すけど、決して騒いだり逃げ出したりしないで。約束出来る?」


 唇に人差し指を立てて当て、反応を探る。子供たちが頷くのを確認してから、右手を掲げた。その手首には、十字架のついたブレスレットが光っている。


「お姉さん魔法使いだから、魔法でどうにかするわね。怯えないで、大丈夫。これは決してあなたたちを傷付けない。――白薔薇ロサ・アルバ、お願い」


 ラミアの右手に白銀の刀が現れると、子供たちに動揺の氣が走った。騒ぎ出す前にと、一番近い子供の手首の鎖を素早く正確に斬り裂く。すぐに感嘆の色へと変わっていった。努めて笑顔を作りながら、手首、足首の順で斬って解放していき、最後に全員の猿轡を取り外した。


「ありがとう……」


 騒がないという約束を守ってくれたのだろう。一人の男の子が囁くように言った。周りの子供たちも、外には聞こえないくらいの小さな声で、次々と感謝の言葉を口にする。まだその表情は笑顔にはなっていなかったが、不安の色は薄くなっていた。


 子供たちを一人ずつ抱きしめて、安心させていく。その身体の温かさは、しばらく忘れていたもののように感じた。たまにはこういうことをするのも悪くないと思える。自分の存在意義レゾンデートルのようなものを、認識させてくれる。


(――あ、あの子、目が覚めちゃったのね……)


 二階で祓魔師エクソシストの少女が意識を取り戻した気配を感じ取って、ラミアは目の前の子供たちの顔を見ながら迷った。この子たちをここに置き去りにはしたくないが、今騒ぎを起こしてしまいそうなのは、上の少女の方だろう。


「ごめんなさい、少しだけこの場を離れるわ。すぐに助けが来る。それまで中で大人しくしていられる? 外には怖い人がいっぱいいるの、知ってるでしょ? 声も出しちゃ駄目よ」


 ラミアは人差し指を唇の前で立てて、子供たちに静かにしているように命じた。素直に頷いたのを確認すると、急いで二階のリビングへと戻る。祓魔師エクソシストの少女が起き上がっていて、自分の身体のあちらこちらを触ってみては、その度に首を傾げているところだった。


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