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心の色は薔薇言葉  作者: 月夜野桜
第七章 神の剣となる覚悟
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第二話 唐桃(アプリコット):疑惑

 六月二十六日。金曜日だが、試験的にミサを開催してみるという。昨夜任務をこなしたばかりで仕事が入らなそうなラミアとフルールは、早速ジョシュアの教会に向かっていた。


「ふるる、ここ何日か嵌めてるそのグローブ、一体何なの? 寝るときもそのままよね?」


「これ? 握力鍛えるやつ! お姉様みたいに格闘も出来るようになるんだ!」


 助手席のフルールは、シャドーボクシングのようなことを始めた。ラミアはそれを横目で見て、可笑しそうに笑いながら言う。


「筋トレなんて意味ないわよ? ネクロファージいるんだから。もう成長しないわ」


「がーん!! じゃあもしかして、あたしずっとこのまま? ずっとこの大きさのまま?」


(充分大きいのに何言ってるのかしら、この子は……)


 欲張りを自称しているが、確かにその通りとラミアは思った。この間のドレスの採寸の数値は見るべきではなかった。実際に数字で比較すると、とんでもないダメージを受けた。


「あたしずっとチビっ子のまま。まだ伸びてたはずなのになー。せめてお姉様くらいの大きさ欲しかった」


 フルールが自分の頭に手を載せて言っているのを見て、ラミアは自分が考えていた『大きさ』という単語は、当てはめる場所を根本的に間違っていたのを理解した。


「背はもう伸びないし、筋力も増えないけど、気功術はまだまだ上達するわ。それで身体強化をすればいい。ネクロファージが霊的なものだからかしら? 魔法や気功術の類は、普通の人間以上にこなせるようになる。マザーときちんと仲良くなれたらの話だけどね」


「ほうほう。仲良くする秘訣は……?」


「何かしら? 時間と……信頼……かしら、やっぱり?」


 人とネクロファージは共生関係。互いに互いを必要とし、互いのためを想うことが出来れば、その絆は強くなる。それが力となる。人同士と一緒だとラミアは思った。


「とりあえず行ってくる! サボり姫の代わりに、あたしがお祈りしておいてあげるよ!」


 フルールはそう言ってまた元気よく礼拝堂へと駆けていく。ラミアがいつもの通り林で待っていようと礼拝堂の裏手へと行くと、ポケットの中で端末が震え出した。


(コーネリアス……。どうしよう、ミサはもう始まったみたいだけど)


 しばし考えたのち、ミサが終わるころにフルールにメッセージが届くよう予約をして、ラミアは先に教会を離れた。すぐにはフルールを連れていけないとコーネリアスには伝えたのだが、三人で相談するまでもない簡単な任務だという。あとで迎えにきつつ説明すれば良い。


   §


(ふるる、どうしちゃったのかしら? すぐに連絡してくるかと思ったのに)


 シアトルまで戻り、コーネリアスと簡単な打ち合わせを済ませてビルを出てきても、まだフルールからの連絡がない。もう一度時計を確認して、ラミアは考えた。


 ミサは終わっているはず。終了後にジョシュアと話し込んでいたら、まだメッセージに気付かずにいてもおかしくはない程度の時間。しかしラミアは、無性に心配でならない。


(まさか私がいなくなったことに絶望して? 余程のことがない限り使わないつもりでいたけど……今は余程のことでいいわよね?)


 そう自分に言い訳しつつ、フルールの端末の位置情報を強制的に表示する。失敗続きで疑念の生まれたフルールに対して、コーネリアスが仕込んだもの。


 奇妙なことに、現在位置が拾えない。最後の記録も教会の敷地の中だった。電源を切っていても検知可能な特別なもの。仮に自殺と考えても、位置情報が消えるのは明らかにおかしい。シールドケースに入れれば検知出来なくなるが、そんなことをする理由がフルールにはない。


 何かアクシデントにでも巻き込まれたのかもしれない。ラミアの心に不安が渦巻いて広がっていった。この場所であれば、ジョシュアが目撃している可能性は高い。


 先週の告解のあと、半ば押し付けるようにして教えられた、ジョシュアの連絡先へと通話をかけた。すぐには反応がなく、ラミアの心に焦りが生まれたころに、ジョシュアの優しげな声が端末のスピーカーから聞こえてきた。


『ラミアさん、フルールから連絡がないことがご心配なのでしょう? 教会へお戻りなさい』


「あの子、まさか?」


『ご心配されているようなことはありません。彼女に来客がありまして、銀の手シルバーハンドのアジトの一つで秘密の話をしているようです。電波が遮断される場所なので、連絡が取れないのでしょう』


 それならば、検知出来なくてもおかしくはない。銀の手シルバーハンドであれば、拠点の場所を知られないよう、移動前にシールドケースに入れさせるくらいのことはする可能性がある。


「彼女は無事なのね? ならすぐにそちらに戻るわ。良かった、最悪の事態じゃなくて……」


 ひとまずの安堵は覚えたものの、初めてのこと。特別な何かが起きたはず。ラミアは通信を切ると急いで教会へと戻った。ジョシュアは敷地の入り口のところで待っていてくれた。


「ジョシュア牧師、フルールは? アジトの場所って、どこなのかしら?」


「こちらです。本来外部の人にお教えしていいものではありませんが、今回は特別に利用許可が下りています。――内容が内容ですので」


 ラミアの頭の中に二つの疑問が渦巻いた。一つはジョシュアの言った『内容』という言葉の意味について。もう一つはジョシュアの案内する先が、教会の居住棟であることについて。


「こちらからどうぞ。私はこの先に立ち入る許可を頂いていません」


 二階建ての居住棟には通常存在しないエレベーターの前で立ち止まり、ジョシュアは言った。


 この地下に拠点があるのだろう。裏の敷地が広いのはそのため。ミサによく銀の手シルバーハンドが出入りしていたのも、直接的な関係があったのであれば、納得のいく話。


 ラミアが乗り込むと、エレベーターはかなりの深さを下りていく。途中、地下にルナタイトが埋まっているのを感じた。おそらく網を張って霊子の通過を防いでいるのだろう。


 金網で電波を遮断するかの如く、ルナタイトの網で霊的な感知能力を遮断出来る。充分な深さがあったため、地上からはその存在に気付かなかったのだ。


「お姉様、良かった。丁度呼び出そうと思ってたとこだったんだ」


 エレベーターが止まり、ドアが開くと、目の前でフルールが待っていてくれた。ラミアは思わずその身体を抱きしめる。


「ふるる、良かった。心配したのよ?」


「それよりも大変なの。あたしたち、とんでもないことしてたみたい。こっち来て」


(とんでもないこと……? 一体どういう意味?)


 困惑しつつフルールに手を引かれ、アジトの奥へと入っていく。各部屋の壁にルナタイトの網が埋め込んであり、他に人がいるかどうかは感知出来ない。フルールが一つの部屋の前で立ち止まり、ドアを開くと、その先には見たことのある顔の人物がいた。ドアが閉められ、霊的にも外部から遮断されたあと、男が口を開く。


「モーガン・マグワイアです。立場はご存じ……と思いますが」


 直接会ったことはないが、コーネリアスから受け取った資料で見た記憶がある。それを確認しようとラミアは端末を取り出したが、案の定電波は届いていない。


 最新の公式資料は見られないが、ローカル保存してあったものの方で確認をする。確かに目の前の男は、モーガン・マグワイアという名前で、公設秘書のカテゴリに登録されていた。


「身分の確認は済みましたか? でもあなたの手元の資料は、間違っている可能性がある。後程電波の届くところに戻ったら、公式資料で確認し直してください」


「どういう意味?」


「語る前に証拠を見せた方がいいでしょう。――これを。今週の月曜日に、とあるデジタル・ゴシップ紙に掲載される予定だった記事です。ギリギリ差し止めることが出来ました」


 モーガンが示した大型携帯端末の画面。そこに映し出されている画像を見て、ラミアは大きく眼を見開いたまま硬直した。それは、フロリダでトローリング中のクルーザーで、ラミアが標的ターゲットの首を刎ねる瞬間を捉えた写真だった。


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