『4』
異変を感じたのは、それから数時間後のことであった。
特にナビなどで目的地は設定していないものの、これだけ長時間車を走らせていればいずれはラノベ業界の深層部分に到達してもおかしくないはずなのに、いっこうに目的地らしきものが見えてこない。
それどころか、周囲の景色が赤城てんぷ達が普段生活している日本のものとは思えないものばかりとなっていたのだ。
……ここまでくれば、流石になにかがおかしい。
道に迷った、というだけでは到底説明がつかない異常事態を前に、警戒心を露にした赤城てんぷが瞬時にシートベルトを外したかと思うと、運転中にも関わらずハンドルから手を放して仲間達へと叫ぶ――!!
「みんな、気をつけろッ!!――何が起こっているのかはわからないが、俺達は今!何者かに攻撃されているッッ!!!!」
「「「――ッ!?」」」
赤城てんぷの言葉を聞き、驚愕に目を見開く三人。
だがそれも一瞬のことであり、赤城てんぷが身を乗り出したのとほぼ同時に車内にいた全員が一斉に走行中の車の外へと飛び出す――!!
「な、なんだこれは……!?」
宙に浮いた状態のまま、赤城てんぷ達が確認のために先ほどまで自分達がいた方へと視線を移すと、そこには信じられない光景が広がっていた。
この旅路を四人とともに駆け抜けてきたオープンカーが、壁に激突などすることもなく――それどころか、アスファルトで舗装された道ではなく、地面に敷かれた多彩に輝く虹らしきものの上を走行しながら彼方へと消失していったのである。
いくらDream Driveとはいえ、流石にこれは限度がある。
そんな赤城てんぷと同様の心境だったのか、他のメンバーも口々に叫び始める。
「『もしかして』なんて言葉を使うまでもなく、俺達がラノベ業界に辿りつけなかったのはきっと、あの虹の上を走らされていたからに違いないんだズェ~~~!!」
「クソッ!だとすれば、あの虹の先は一体どこに繋がっているんだ!?」
「さぁな、確かなことは何一つわからねぇ。……それでもただ一つ、『この世に残る真実』ってもんがあるとするならそれは、このままだと俺達が地面に激突する、ってことだけだ!!」
ボブの発言通り、このままでは自分達は落下した衝撃で大怪我――最悪命を落としてもおかしくない状況へと陥っていると赤城てんぷは素早く判断していた。
――かといって、この攻撃を仕掛けている相手の能力がわからない以上、今の自分達に打開策はない。
まさに打つ手なしかと思われた――まさにそのときだった。
「ッ!?な……これはッ!!」
唸るかのように驚愕の声を上げる赤城てんぷ。
どこから伸びてきたのかは分からないが、オープンカー同様に虹で出来た道がメンバーそれぞれの真下へと出現していた。
「なんだこれは!?俺達への攻撃じゃないのか!?……何もかも訳のわからない状況ではあるが、このまま流されるわけにはいかないッ!!」
虹を踏んでしまったものの、なんとかその場にとどまろうと赤城てんぷが踏ん張っている間にも、他のメンバーから次々と悲痛な叫び声が上がる。
「たもつーッ!!」
「つくるーッ!!」
「どんなに離れた場所にいたとしても、俺達はきっとまた巡り合うことが出来る……運命が既にそう告げているのさ……!!」
見れば、咄嗟に空中で回避する事が出来なかったのか、ベルトコンペアのように流れていく虹によって、他の3人は別々の場所へと強制的に引き離されていく……。
「……ッ!?」
先ほどのオープンカー同様に、どんどん姿が掻き消えていく三人の姿を目にして苦悶の表情を滲ませる赤城てんぷ。
だがそれも一瞬のことであり、すぐさまに思考を張り巡らせる。
「この虹がどういう原理で生み出され、どこへ向かっているのかはわからないが……あの道の先には、この現象を引き起こした奴にとって都合の良い場所が用意されていると考えるのが妥当だ……!!」
原因となった存在が虹の先に待ち受けている、という可能性はおそらく低いだろう。
つくるやボブ達が分断される形で別々の方向に流されていったことからも分かる通り、この虹の先を進んだところで自分達が真実に辿り着けるようにはなっていないはずだ。
仲間達の安否はわからないが……いずれにせよ、この場で赤城てんぷが取るべき手段はただ一つ。
「ならば俺が!その逆を進めば、そいつにとってかなり不都合だってことになるはずだッ!!」
三人が消えていった方向から一転、今度は自分が踏んばっている虹の道が出現した方を強く睨みつける赤城てんぷ。
十中八九、この先に虹を引き起こして自分達を排除しようとした“敵”がいる。
だが、足元の道は絶え間なく流れ続けており、踏みとどまるだけで精一杯の赤城てんぷが逆行するのは非常に困難と言わざるを得なかった。
あまりにも絶望的と言わざるを得ない状況の中、赤城てんぷが意を決したようにポケットに手を入れる。
「――こうなったら、出し惜しみなしの全力で行くしかないようだなッ!!」
そう叫んだ赤城てんぷの右手には、勢いよく取り出されたスマホが力強く握られていた。
素早く画面を操作した赤城てんぷは、画像フォルダから日夜SNSなどを通じて保存してきたエチチッ!画像を虹の方に向けるようにして開放する――!!
「これでも、食らいやがれッ!!」
裂帛の気合とともに、連続ランダム再生で数多の煽情的な画像が空に散りばめられた星々のように映し出されていく――!!
……めぐるとちょこ先輩の乳比べ、ウマであるにも関わらずバニーガールの格好をしたトプロ、ドルウェブのムチプリ♡キャラに作中のメスガキの衣装を着せているプレイ画像のスクショ(厳密に言うと、かなちゃんは見た目がそれっぽいだけで普通にわりと良い子ではある)、おバカなくせに身体だけは育ち切った下着姿の沙都子、二人目をご所望の様子の樋口性を捨てた新妻円香概念、先生と海水浴に来ているサキ、堅物な性格ながら八重歯を覗かせるギャップでこちらの心をくすぐってくる栞子(劇場版は30分だし内容も薄かったけど、ポニテ姿が見れただけでみんな満足してたと思う)、無自覚で小太郎に迫る形になってるぐだ子、黒ギャル懺悔室のセセリア、別に全くエロくないけどランダム再生だから流れてきたイーロンと彼の終焉を見届ける秘書を描いた短編夢小説、今晩あたりレックスを誘う気満々としか思えないホムラ、体育教師に肩を抱かれて妖艶な微笑を浮かべるおにまいの爆乳先生……。
必要に駆られたとはいえ、強制的に自身の性癖が晒される形になったことにより、急激に赤城てんぷの精神力が削られていく――!!
「グアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!?」
あまりの激痛に、苦悶の叫びを上げる赤城てんぷ。
それに呼応するかのように、スマホの電源も目に見えて消耗していく……。
……ここまでやっても状況は全く変わらず、万事休すかと思われた――まさに、そのときであった。
――ググッ、グッ……!!
そんな音が聞こえてきたと錯覚しそうになるほど、突如赤城てんぷを押し流そうとする勢いが弱まった。
いや、それどころか、赤城てんぷが睨みつけていた虹の発生源の方へと流れが逆行し始めていたのだ――!!
内心では「ここまで開放しても、俺とは全く好みが合わなかったのか……?」と絶望しかけていたが、自身の目論見が上手くいったことで思わず口元に笑みを浮かべる赤城てんぷ。
――自分の力で強引に進むのが無理なら、コイツ自身に流れを変えさせれば良い。
思いつくのは簡単でも、実行できるかは一か八かの賭けだったが、どうやら今回は成功したようだ。
とはいえ、いつまでこの状態が持続するかは分からない。
発生したばかりの道であるため、“衰え”の心配などはないかもしれないが、それでも刺激にマンネリを感じて慣れきってしまえば、すぐに萎えてもとの流れに戻ってしまう可能性すらあり得る。
であるならば、これ以上悠長なことなどしていられない。
そう判断した赤城てんぷはフル稼働させたスマホを高く掲げながら、雄々しく押し上げる方へと向かって逆行していく――!!