『2』
赤城てんぷが全力疾走しながら向かったのは、このアパートの駐車場であった。
そこには、赤城てんぷに共鳴するかの如くいくつかの人影がすでに集まっていた。
「――あんまりにも遅すぎるから、買ったフライドポテトが冷めるところだったんだズェ……!!」
色彩を持った男子高校生:山田 つくる。
「――フン、俺からすれば、赤城てんぷの遅刻は想定内だったがな?」
つくるの恋人にして確かな戦略性を兼ね備えた男子高校生:佐藤 たもつ。
「――Be-hype.全てが嘘ッパチなこんな世界であっても、俺は魂より深い部分でこの瞬間が来るのを確信していたのさ……!!」
スタイリッシュさの中に、胡散臭さをにじませるムーブメントを繰り出す黒人留学生:ボブ。
「――オゥ、待たせたな。お前ら……ッ!」
そして、そんな彼らに対して不敵な笑みを返す赤城てんぷ。
こうして、運命的な何かに導かれるように四人の男達が集結を果たした。
彼らは颯爽と黄色のオープンカーへと乗り込むと、赤城てんぷの運転のもとDream Driveへと繰り出していく――!!
運転してまもなく、後部座席でつくるとたもつがフライドポテトの食べさせ合いっこをし始めた中、助手席のボブが赤城てんぷへと本題を切り出す。
「そんで大将、今日はいったい何をおっぱじめるつもりなんだい?」
陽気に問いかけるボブとは裏腹に、赤城てんぷは冷淡ともいえる表情とともに前を見据えながらそっけないほどの口調で答える。
「あぁ、なんでも俺が住んでるアパートの大家いわく、昨今の若者によるラノベ離れがかなり深刻らしくてな……このままいけば、早晩にラノベ業界は新規読者層を失い滅び去ってしまうのは確実のようなんだ」
それに対してボブはヒュウッ、と口笛を鳴らしてからすぐにパチンと指を鳴らして笑みを浮かべる。
「な・る・ほ・ど・な~。そこまで聞けば流石に理解できるぜ!……要するにアンタはもしも自分が書籍化したときに売上がなさ過ぎて打ち切り!なんて事態を避けるために、これから若い連中にラノベに興味を持たせまくるようなビッグイベントを開催しようって腹積もりなんだな?――俺や後ろのコイツ等を導線に利用してな?」
そう言いながら、交互に自身や後部座席の二人組を指さすボブ。
確かにボブの言う通り、引き締まった身体つきにミステリアスな言動を兼ね備えた黒人留学生の自分や互いに特別な絆で結ばれた男子高校生のつくるとたもつといった『素敵な男の子は、いつでもどこでだって輝ける』ことを体現した者達が組めば、ラノベ業界を促進するようなイベントを大々的に開催出来るに違いない。
それに参加した者達の中から彼らのような同世代の若者達だけでなく、恋人や旦那との生活に物足りなさを感じている女性陣や男同士の激しい裸のぶつかり合いに昂りを覚えてしまうおじさんマエストロ達といった普段ラノベを読まないような層までも取り込めるかもしれないのである。
ラノベ業界を盛り上げるうえでこれ以上にない完全な作戦のはずだが――赤城てんぷからもたらされたのは、ボブが予想だにしていない答えだった。
彼は遠くを見据えながら――はっきりとした口調で告げる。
「いいや、ボブ。俺がやろうとしていることはその逆だ。――俺はこれを機に、今の終わりかけたラノベ業界って奴を完全に叩き潰してやるのさ……!!」