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散文集(エッセイ的なもの)  作者: 咲田涼人
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第8回 教育と虐待のあいだ

 なんだか聞いたことのある感じがするなぁと思ったあなたは、さぞかし本が好きなのだろうと思う。今回のテーマは、もちろん『冷静と情熱のあいだ』にかけているわけだが、本家の方は素晴らしい作品だし、不思議な作品だとも思う。かつて恋人だったあおいと順正、男女それぞれの視点でひとつの恋を描いていく共作だった。あおいの視点を描いた江國香織さんのRosso、順正の視点を描いた辻仁成さんのBlu、どちらを先に読むかで印象が変わるから不思議だ。まだ読んでいない人がいるなら、ぜひ手にとってほしいと思う。


 さて、前置きはこれくらいにしておき本題に入るとするが、一見正反対と思える『教育』と『虐待』だけれど、今の時代はその線引が難解で、紙一重と言えよう。

 小生が子どもの頃などは、叩かれたり罵声を浴びせられたりするのは教育の一環として片付けられていた。悪い事をすれば叱られて叩かれるのが当たり前で、身を通して学んでいったものだ。それと同時に『ごめんなさい』も学ぶのだ。母親からは「人の身になって行動しなさい」と耳にタコができるほど聞かされた記憶がある。

 ところが現代ではそうはならない。モンペアなどと言われる親たちは、我が子可愛さで「虐待だ!」と声を上げる。子どもを叱ることもなく、守ることばかり。そこから学ぶことなんて何一つない。悪い事をしても、叱られることも、叩かれることもなければ、何が間違っていたのか、悪い事なのか、それすらもわからないまま成長していくのだ。『ありがとう』も『ごめんなさい』も言えない子どもが大人になり、社会を形成していく世の中を想像してほしい。こんな恐ろしい未来ならいらないと思う。


 もう二十年ほど前の話になるけれど、自治会のお祭りのときに、近所の男の子(Aくん)が別の男の子(Bくん)と小競り合いをしていて、挙げ句に暴言を吐いたことがあった。Bくんのお母さんは、すっぴんでも美しいフィリピンの方だったが、日本語も流暢で、子どもの教育にも熱心な女性だった。自治会の行事にも積極的に参加していたし、もはや周りの人たちは外国人だということさえ忘れていたくらいだった。ただ、やはり人種が違うDNAを受け継いだことで、二人の子どもたちは若干褐色の肌をしていた。Aくんは、そんなBくんの肌の色を馬鹿にしたのだ。

 それを間近で聞いていた小生は、どうしても我慢できずに8歳になったばかりのAくんに平手打ちを食らわせ、Aくんの両親の前で大声で叱ったのだ。

「お前は自分の親を選んで生まれてきたのか? 違うだろ! Bくんも同じだ。肌の色とか眼の色とか、そんなもので比べるのは人間として一番卑怯なやり方だ!」と。

 その夜、Aくんのお母さんは「ごめんなさい。あれはウチの主人が言わなきゃいけなかった」と謝罪にきたのだが、小生も小さい子どもに手を上げたことを「すまなかった。Aくんは大丈夫か?」と言い、決して揉めるようなことはなかった。これが『社会が人を育てる』ということだと思うのだが如何だろうか? 物事の本質というのか全体を見ようとせずに、一部分だけを切り取って見るから『虐待』みたいな反応になるのだろう。体罰は時と場合によるが必要なものだと小生は思う。もちろん行き過ぎれば虐待となってしまうが、体罰は教育の一環であるという考え方はもはや古いのだろうか。そうであるなら、教育とはいったい何なのか疑問しかない。

 Aくんも今では立派な社会人となり、会えば挨拶もできるし、小生ともちゃんとした会話もできる大人となっている。小生が彼を叩いたことは「覚えている」と言っていたが、彼自身もまた、近所の子どもたちを叱れる人になっている。大事なことはちゃんと継がれているということに安堵する小生なのです。

 

 『教育』と『虐待』のあいだにあるもの。それはきっと、人の人に対する愛情であり優しさであると小生は信じたい。

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