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黄金の戦士

__ 彼に会いに行こう。


急に私は思い立った。しかしその人を私は知らない。

いつの間にか持っていた水色の宝石を彼に返さなくてはならない。

しかしその人が誰なのか分からない。

 私はその気のまま、足を運んだ。


英雄研究所。英雄研究部。

その2つの単語には聞き覚えがあった。何度も彼の話を聞いた場所だ。

何度も彼に会った場所だ。

しかし彼が誰なのか、正体は何なのか。

私はその一切を知らない。


 部屋の真ん中にポツンと置かれてある机。

その上には一冊の本が乗っていた。


__ 英雄之仮面。


 その本には、そのようなタイトルが付けられていた。



*



「ふわあぁ…。」

青色の制服を着た男が腕を天井に向けて伸ばす。右の二の腕にある緑色の腕章には、警備員という文字があった。

「おい…真面目にやれ…。」

もう一人が眉間にしわを寄せつつ、あくびをした彼に言った。

「真面目にやれったって…不審者はこんな所に来ないだろ。ただでさえキュレイム王国の“国立”博物館だぜ? 警備は国内最高レベルだ。ここに来れるとしたら、羽虫くらいだろう。」

彼は帽子を脱ぎ、床に尻を着けて座った。

ボタンを2つ外し、パタパタと仰ぐ。

「はぁ…お前、何を背後にしてるか分かってるのか?」

「30万年前のミイラと、一緒に出てきた謎の宝石だろ? なぁ謎の宝石って、結局なんなんだろうな?」

「分からん。」

「わけわかんねぇもの置いて、それを守って…意味あんのかね………。」

「だから国の学者先生方が日夜研究を重ねているんだろ。魔力の正体だとか、魔法使いと非魔法使いの人種のルーツを探るためだとか。そのためにも、資料としてここに保管してあるものは、決して傷付けちゃならない。盗まれるなんてもってのほかだ。そのためにこうやってここに突っ立ってるんだ。分かるか?」

生真面目な彼がムキになって応える。説教された彼は、ヤレヤレとため息をつき、首を横に振った。

「はいはい、わかったわかった。とりあえずは、護るべき大事なものなのね。」

「分かったら制服を正してから立て。突っ立ってるだけで給料が貰えるんだからいいだろう。」

「はあ、そうだね。」

 よっこらせ、と掛け声して立ち上がり、帽子を被る。ボタンを正して首をコキコキと鳴らした後、改めてミイラの入っている棺に目をやる。

 なかには30万年前の人間の遺体(ミイラ)がある…。そんなものが近くにあることに実感がわかない。

そっと近付いて見てみる。

「おい、勝手に触るな。」

「見てるだけだろ。」

彼がそう言うと、じっとその棺を見てみた。

何か意味あり気に描かれた模様。人のようなものが描かれている。

どうやら銃のようなものををもっているようだが、これはいったい何だろう?

 こっちは、火だろうか? しずくの絵もあった。これは風だろうか? 「ミ」のような絵が描かれていた。

 なんとなく昔の人間は絵をかいて過ごしたという話を聞いたことがある。狩りが成功するようにだとか、子孫繁栄だとか、そういう願いを絵にしたとも聞く。

 この棺には、どういう意味があるのだろう?

考えてみると、なにか、言葉が喉元に浮かんだ。

 思わずそれを口にする。

「おい、どうした?」

声をかけられた。

意識では反応したい。しかし身体がそれに従わない。

ずっとその棺にくぎ付けになっていた。

なにかあるのか…? なぜ自分がここまでこの棺に興味を持っているのか分からない。

 声なき声で、ひたすらぶつぶつ言っているようだが、自分はこの言葉の意味を…いや、この言語を知らない…。

 その時だ。

次の言葉が、知っている言語が、腹の底から一気に這い上がり、その勢いのまま吐き出した。

「“我の肉を喰らい、血を飲み干し、今ここに降臨せよ”…。」

いつの間に白い手袋を外し、そしてその棺に触れた。

「よせ___ !!」

生真面目な彼がそれを止めようとしたとき、それは既に、


 手遅れだった。



 *



 ようこそ、キュレイム王国国立博物館へ。案内は私、アベルが務めさせて頂きます。


 よろしくお願い致します。


 キュレイム王国より北には、デイリア王国、ミルニア国がございますが、その両国の間にある国境には大きなクレーターがございます。

直径約5.14kmに及ぶクレーターは、今から1430年前にできたものとされており、これは“大魔獣マアガリアル”の覚醒によってできたものであるとされています。

周辺には現在でも人体にとって有毒な残留魔力が僅かに検出されており、立ち入り禁止区域となっています。


 続きまして、オーパーツエリア。

オーパーツとは、発見された場所や時代がそぐわないと考えられる物品を呼称します。

ここでは、キュレイム王国で発掘されたオーパーツについて、解説していきます。

 こちらに展示されている拳銃のようなものは、今から30万年前のキュレイム王国、即ち“セプト”と呼ばれる時代に造られたものとされています。

銃は今から約500年前に造られたものであり、尚且つ現代にはない特別が技術が使用されていました。


 こちらをご覧ください。

こちらは、先程の拳銃のようなものと一緒に発掘された弾丸状のカプセルです。こちらも、同じくセプト時代に造られたものであると見られています。

解析の結果、このカプセルには膨大な魔力が凝縮されていたことが判明しました。現代では魔力そのものを超圧縮し、魔力弾として用いる技術が存在していますが、研究者の間では、このカプセルには魔力どころかその種となる、“エレメント”が込められていたのではないかと憶測されています。

 そもそも現代に至るまで、この魔力のエレメントというものは実体化しているわけではない上、最新の魔法科学を駆使しても、その正体は未だに解明されておりません。

このオーパーツらは、当時の戦争に用いられたと考えられていますが、用途までは分かっておりません。

カプセルを実際の銃のように撃ち放つのか。或いは他に用途があったのか。

研究は、いまなおされつづけております。


 過去に用いられていたとされる技術を現代で利用でき、それを応用して私たちの生活をより豊かにするのが、これら研究の役割なのです。



__ 。



__ これは貴様達(ピュアマイト)には過ぎた力だ。



*







 突如、爆発が起きた。

緊急時に鳴るベルが高らかに響く。

悲鳴が上がると、来場者や職員たちが恐怖に駆られて出口へ走った。

たくさんの人間たちが押し寄せる。生き残るために必死になる。

_ 早く行け!

_ なにモタモタしてんだ!!

大の大人たちがなにも考えず心情を口々にした。汚い言葉と数百の足音がこの空間に満ちる。

ふと、少年が爆発の起きた方向を見る。黒煙がもくもくと立ち上る中、そこにいたのは警備員の制服を着たたった1人の男だった。

貴様達(ピュアマイト)は変わらんなァ…。愚鈍であり非力。虫酸が走る。」

彼はいつの間に、この博物館で展示されていた拳銃をその手にしたのである。

「おかえり。私の“希望”よ。」

彼はニヤリと笑った。

 彼が触れたそれは……錆尽くしてまるでボロボロだった“それ”は急に光り始め、そしてやがて、新品のように綺麗に再生した。そしてその男は慣れた手つきで弾丸のようなカプセルを手にし、拳銃に装填した。

「闇より産まれし漆黒の忌み子よ……盟約の下に宣誓せよ。」

男が呪文らしき独り言を唱えると、その拳銃の口を心臓部に当てた。

そして、彼は引き金を引いた。


 赤い飛沫の代わりに黒色の液がこぼれて見えた。それは彼の体にベットリとまとわりついた。

発砲した音に驚き、大人達も彼の方を見る。黒い液体に身体を埋めた、その男の方を。


ドロドロの液体に身体を侵された男は高らかに笑う。

液は床にまで行き届き、この場にいる全員の足元を浸す。液体は、まるで意思でもあるみたいに蠢きながら足元から這って登ってきた。

 この場を満たす漆黒の沼。大人たちはまた叫んだ。

沼から骸骨達が現れ、大人達の足を掴む。突如現れたそれに恐怖して叫びだす。逃げ出そうと必死になる。

「待たせたな同士たちよ! 永劫の眠りより目覚め、そして今度こそ!! 忌まわしきピュアマイトどもを滅ぼすのだ!!」

男は言った。

彼はいつの間に怪しげなローブに身を包み、魔法の杖を持っていた。

 その姿はまさしく……“漆黒の魔導師”そのものだった。

少年の足を、骸骨が掴んだ。

大人たちと同様に、少年が漆黒に飲まれて行く。


徐々に、徐々に。

「さらばだ…下等種族どもよ。」


漆黒の魔導師は嗤った。





*





____ キーンコーンカーンコーン。

 この音はもう全世界の人間が聞いたことのある音だ。そしてこれは5限目が始まるタイミングで鳴るやつ。昼食を終えたあとの授業だ。

__ ガラガラ。

先生が教室に入る頃には、みんな既に席に座っていた。

「はい、転校生を紹介する。」

メガネをかけたゴリラみてーな教師が教卓に立ち、全員に聞こえるようそう言った。この人はこのクラスの担任だ。

「今日から世話になる、ルウガ・オルロスっす! よろしくぅー!!」

俺は全力で笑顔を作って言った。

 みんなの反応は……しーん……なんか、良くなかったみたい。

「………まぁ、なんだ。転校初日からえらい遅刻をしているが……よくしてやれ。なんか質問あるやつはいるか?」

しーん……。

__ とするなか、1人が手をあげた。

「ティーノ・ノープルです。どうしてそんなに遅刻したんですか?」

綺麗で真面目そうな女子だ。艶のある桃色の髪がかわいい!

「捨てられた子猫がいたから保護して、新しい飼い主を探したんだ! あと、大きな荷物で困ってたお年寄りを助けて、川で溺れてた少年を助けたのと、女の子の風船が飛んでったからそれを捕まえて返したのと、ひったくりを懲らしめて…あ、ついでに落とし物を交番に届けたぜ!」

他にもいろんな人助けたけど忘れちまった。

教室内が騒がしくなる。一部聞こえてきたのは、嘘が下手だとか、そんなわけないだとか…。

俺が嘘つくわけねぇだろ…って言いたいけど、みんなとは初めましてだ。…弁解できねぇ。

「言い訳のフルコースのように聞こえるが…先程多方面からお礼の電話が入った。どうやら本当らしい。だから…注意しようにもできんのだ。」

教師が言いながら不満な様子を表した。

ナイスゴリラ先生…!

「さて…じゃあお前は空いてる席に座れ。授業を始めるぞ。」

俺のために用意された席のもとへ進み、着席する。

カバンから教科書とノートを取り出し、開いた。




 ここはキュレイム王国。この地球で北側に位置する王国だ。

魔法科学はマエニカ王国とかアマルス王国とかと並んで高水準。この二大王国とはとても親交も深く、度々交流会もしてるんだって。

 ま、あんまそーゆーの興味無いけどな。

そして俺が転校してきたのは、この魔法先進国である王国内で、“最も魔法学に長けてる名門(エリート)校”!

“ハルワナーク総合学園高等学校”!


の!!


普通(ノーマジック)科!!!!


なんでだよ!!!


めちゃくちゃ一生懸命勉強したのに!

…確かに転校前にやった魔法学の歴史のテストは40点だったけどさ…!

…うそだよ36点だよ。

 うぇー…なんでだよー…。


 おふくろが言うに、俺の家は代々魔法使いだった。けど…俺の曾々ばあちゃんの代からその力は年々弱り始めたらしい。

原因は分かってない。

魔法医師によると、遺伝によるものとは考えられないみたいだし、なにか外的要因があるはずなんだと。

 あるはずなんだろうけど…それがなんなのか。

だから、俺にはもう殆ど力がない。

でも、俺はいつか魔法使い…とまではいかなくても、そういう力で誰かを助けてやりたいんだ!

魔法でないといけないことなんて、そうそうあんまし無ェんだろうけど、手数は多いに越したことはねぇだろ?


 ……正直俺は…今は拳しかねぇけど…でも、魔法が使えるようになりゃきっと、できる人助けの幅はぐんっと広がる! …はずなんだけどなぁ…。普通科かぁ……。

…どうしたもんかなぁ……。




 ___ キーンコーンカーンコーン。

 6時間目が終わった。かえろかえろ。授業の8割が分かんなかったからほぼ寝てた。だからノートには、細くて薄いヒモみたいなのが雑に書かれている。…いや、これに雑も丁寧もあるのか……?

 俺はさっさと鞄に教科書ノートをしまって、帰りの支度を始めた。

「ねえ、ルウガくんだよね?」

声を掛けてきてくれたのは、さっき質問してきた女の子だった。

名前は……。

「私、ティーノ・ノープル。よろしくね!」

にこっと笑ったその顔がとても愛らしい…。そう…この俺のハートは既に、一気に打ち抜かれていた……!!

「お、よ、よろしく…!」

俺は制服でゴシゴシと拭ってからその手を差し出した。手汗なんてかいてたら嫌だろ?

「うん、よろし__ 」

俺の手を誰かが弾き飛ばした。

「ティーノ、こんなバカに構ってやる必要はないだろ。」

割って入ってきたのは、青髪のつり目男。

んだコイツ! 初対面をバカ呼ばわりとは気に食わねぇな!

「ロメ、そんな言い方ないでしょ。」

「いいから早く部室に来い。先日起きた事件をもう一度確認する。」

「部室って、まだ定員集まってないから部活としての認可貰ってないじゃん。勝手に使ってるだけでしょー。」

「…うるさいな。つくって間もないんだから仕方無いだろ。」

感じ悪い男が肩をすくめて言った。

そんなことより俺は気になった。

「新しい部活…ってことか?」

「部活というか愛好会みたいなものだよ。ね、ロメ?」

「ティーノ。」

ロメが彼女の目をしっかり見た。その時の目付きが、なんだか圧をかけてるように感じた。

「とにかく、俺たちは暇じゃない。それじゃあな、転校生。」

そいつは俺に言うと、背を向けて教室から出ていった。

「ごめんね! 悪いやつじゃないってことだけわかって! それじゃ!」

彼女は明らかな作り笑顔をして、彼の後を追った。

 …なんだよあいつ。呆れてため息をした。あんな態度で接されて、気分も悪い。あーストレスだ!

俺はむしゃくしゃする気を紛らわせるため、スマホを開いて着席した。

画面に表示されたのは、ニュースの速報を知らせるバーだ。


【速報】国王陛下 連続異変に対策。


なんだ? この記事…。

一瞬気になって詳細をタップしようとしたが、まぁいいやと思ってスライドして消した。

 そんなことよりティーノちゃんとロメのやってる部活ってのが気になる…。

事件を確認とか言ってたよな……?何をする部活なんだよそれ。新聞部?

俺は気になって、探検も兼ねて2人を探し始めた。




*





 パソコン室。


「ロメ、そろそろなんじゃない?」

「……ああ、そうかもな…。」

 ティーノ・ノープル。俺の幼馴染みだ。

彼女は俺の、そして俺は彼女の血筋の秘密を知っている。

と言っても、とんでもなくオカルトじみた話だ。誰に言っても信じられはしない。

ただ小さい頃に、ティーノの親が俺に、俺の親がティーノに…っていう形でそれぞれ告げられたので、それを信じているのだ。

 ティーノと俺の一族は、過去に“セデク”という王家に支えていたのだという。

それもただの家臣ではなく、当時の王国随一の“賢者”と“魔導師”として。

 しかし当時起きた大戦争により、セデク王は消息不明。挙げ句、魔導師はその力の一端を奪われてしまったのだ。セデク王は最前線で戦ったらしい。

消息不明とされているが、生存していると考える方が難しい。

何故なら……その相手は__ 。




「ルウガくん!?」

ティーノの声でハッとする。

急いで振り向くと、そこには確かに先程のバカがいた。

「よっす。」

「お前…なんでこんなところに!?」

俺は思わず立ち上がり、大きな声を出してしまった。

「お前らの部活ってのが気になって、探検がてら校内うろついてたらここに来たんだよ。にしてもスゲーなここのパソコン室! そのパソコンって今話題の最新モデルだろ!」

バカがずかずか入り込み、俺の座ってたところにあるパソコンをいじくり始めた。

「やめろ。」

その手を掴んでやめさせる。

「いいじゃん学校のなんだし。」

「良くない。」

「んなこといったら、お前だってここ勝手に使ってるんだろ? じゃあパソコンの使用許可もねーんじゃん。」

こいつ……バカのクセに痛いところを突いてきやがった…。

 ムカッ腹が立った俺はその手を払い投げて突き飛ばそうとした…が、体幹がしっかりしているのか一寸すらも動かない。文字通り、びくともしなかった……。

「お前、なんなんだ。ウザイぞ。」

「俺はルウガ・オルロス。」

「自己紹介しろとは言ってない!」

「なんなんだって聞いたのはお前だろ!」

「そういうことじゃない! いいから消えろ!」

「嫌だね! そんなこと言われたらますます意地張って出ていきたくなくなったぜ!!」

「子供かお前は!」

「まだ17ですー! 子供ですー!」

言い返そうとしたとき、耳を引っ張られた。それはこのバカもそうだった。

「あーもう!! 2人とも喧嘩しないの!!」

仲裁に入ったのはティーノだった。

「痛い痛い痛い! 痛いって!!」

「ティーノよせ! わかったから!」

「2人ともちゃんとごめんなさいしなさい!」

「絶対にヤダ!/断固拒否!」

2人の声が重なった。


 ふと、かしゃんとなにかが落ちる音がした。



*



__ かしゃん


音がした。

下を見ると、ロメのヤローの足下に拳銃が落ちていたのが見えた。

け、拳銃………!?

「お、おまそれ……!!」

ロメは急いでそれを拾い、ささっと懐にしまった。

「な、なんで拳銃なんて…!」

「……チッ…面倒だ……!!」

ロメはそう言い捨て、このパソコン室から出ていった。

なんだアイツ…変なの。

……でもあの拳銃…どっかで見たことあるな……。

「ルウガくん、あれは拳銃(ピストル)じゃないよ。」

ティーノが言った。

「あれは……オーパーツを再現したものなの。」

「オーパーツを再現……? あ! そーか! 見たことあんなーと思ったらそれだ! 確か王国国立博物館に!」

「そう。それを現代の技術(テクノロジー)で再現、複製(レプリカ)したものなの。」

未知(オーパーツ)複製(レプリカ)…? そんなもん、なんで持ち歩いてんだ?」

「……それは…ごめん、これは言えない約束なの。」

ティーノは申し訳なさそうにして言った。

「いやいいんだ! 根掘り葉掘り聞こうとしたわけでもないし。」

「ありがとう……それじゃあ、ルウガくん! またね!」

彼女はにこりと微笑みを浮かべると、ロメを追って行ってしまった。

 オーパーツのレプリカ…か。

そういうの、俺は大好きだぜー!? もしかしたら本当は気が合うかもしれない!

そう思うと居ても立ってもいられなくなった俺は、ティーノたちを追った。


途端、何か電流が流れるような衝撃を受けた。それは比喩とかそんなんじゃない。

ビリッと、胸の奥を電流が流れたのだ。手指の先がピリピリする。


 なんだ、これは……?



*



「ロメ、待ってよ!」

ティーノが追ってくる。

「どうしてルウガくんに冷たくするの?」

彼女の口調から呆れているのが分かった。

「ああいうのは昔から嫌いなんだ。話してて分かる“バカさ加減”からろくに勉強もしたこと無いんだろうな。」

「会って1日も経ってないのにいきなりバカ呼ばわりは流石にヒドイよ?」

「知るか。」

「……まったくもう…変わらないね。」

彼女はそう言ってクスリと笑った。

 その時だ。突然の奥を中心に電撃が走った。この一瞬の苦しさにうずくまってしまう。

視界がぼやけ、呼吸する度肺が痛んだ。

未だに手足の指の先がピリピリと痛むが、俺はティーノの方に視線を向けた。

彼女は壁に肩を預けつつ、ぺたんと地面に座り込んでいた。

苦しそうに頭を抱えながら。

「ティーノ…大丈夫か…!?」

「私は……大丈夫…ロメは…?」

「問題ない……。しかし…またこれか……ッ!」

そう、これは今回が初めてなんかじゃなかった。そしてこの現象が起きるとき__


__どこかで“異変”が起きる。


「またどこかで……?」

ティーノの声が震えていた。

「ここまで強いということは…この近くだ…!」

俺は予感に従い、その足を動かした。



*



 学校の近くには住宅街がある。

ロメとティーノは予感のするままそこまで駆けた。

 途中、鉄のような濃い臭いがツンと鼻を刺激した。反射的に肩をすくめ、呼吸を浅くすると……彼はいた。

「お前は……!」

「…あ! お前ら!!」

ルウガだ。

「ルウガくん!? どうしてここに!?」

「いや…体がビリッてしたかと思ったら、なんかここに急がなきゃーって__ 。」

 瞬間、殺気を感じた。

 ルウガはロメとティーノの腕を掴んで走り抜けた。その場から2人を退かしたのだ。

するとそこに、さっきまで彼らがいたそこに、“怪物”がいた。

姿形はヒトそのものだが、全身を茶色の毛に覆われ、頭部には大きな耳が生えていた。鼻は豚のようで、腕の下から膜が伸びており、その姿はまさに“コウモリ”のようだった。

「EaC'dF'aIdDa?」

聞いたことのない言語だった。

「は? なんて??」

ルウガが言い返す。

「BbCaGa,BeIeCc!!」

 コウモリのような怪物はそう言うと高く跳躍し、滑空してティーノを襲い出す。

ルウガがとっさに彼女を庇った。

コウモリの怪物による蹴りを喰らい、その衝撃に吹っ飛ばされてしまう。

地面に転がるも、彼女に怪我をさせまいとぎゅっと抱き締めた。

「いつつ………!」

「ルウガくん…大丈夫!?」

「……へへっ…問題…ねぇよ…!」

嘘だ。

コウモリの怪物の蹴りは内蔵にまで響いていた。吐き気が止まらない。呼吸が苦しい。そんななかでも彼は、心配させまいと作り笑顔したのだ。

「ティーノ!!」

ロメが駆け付け、オーパーツのレプリカを取り出し、その銃口を怪物に向けた。

「EaJnD'aCeIdJa? AeGeDb^HaBa?」

何かを言った後、怪物は笑った。

「くっ………!!」

「ロメ!?」

彼は弾丸状のカプセルを取り出し、レプリカに充填…しようとしたが、なかなか入らない。

まるで磁石の同極のように反発しているのだ。

「まだ俺には…扱えないのか……!?」

ロメが歯を食い縛る。

コウモリの怪物はじわりじわりと近付いて来た。

「うわぁあーーーーーっ!!!!」

ロメが自棄を起こしそうになった、その時だ。

ルウガが立ち上がり、彼の肩をぽんっと叩いた。

「貸せ…!」

そう言ってレプリカを強引に奪い取る。

「おい……!」

「こいつを取り出すってことは、ここで使うもんなんだろ……!? お前らは逃げろ……お前らが逃げれるように、俺が時間を稼いでやる!!」

「……お前…!」

「俺はルウガ! ルウガ・S・オルロス……!! いつ死んでもご先祖様に恥ずかしくねぇようにしてきた…! 死ぬ覚悟はできてるが、死ぬ気はねぇぞコラァ!!」

弾丸(カプセル)拳銃(レプリカ)に充填し、その銃口を怪物に向けた。

「なに…!?」

「いくぞコラァァァア!!」

ルウガは大きな声で叫ぶと、覚悟を決めて……。


__ 引き金を引いた。



閃光がその場にいた全員の目を刺激した。


そしてそれがおさまると…そこには……。


「なんだと……お前が…!?」

「うそ…ルウガくんが…!」


黄金の鎧を身に纏った、戦士が立っていた。




古代戦記 #1 黄金の戦士

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