表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼロ距離カノジョと祓魔師への道  作者: aec
第一章 ゼロ距離なカノジョ
9/77

9話

「よーし、本日の検査は全て終了! 予定通り食べたい物があれば奢るぞ!」

「お肉! お寿司! ラーメン!」


 佐久穂さんは、目をキラキラとさせながら指を立てていく。その様子を見ていた僕と美鈴さんは互いに顔を合わせて笑う。

 やがて美鈴さんが立ち上がって声を上げた。


「何でもいいぞー。瑠依ちゃん、行きたい店はあるのかい?」

「それじゃ『海猫屋』が良いな。久しぶりに行きたいなーって思っていたんだよね」


 佐久穂さんの提案を聞き、美鈴さんは顎に手を当てて考え込む。

 僕にとってはよく分からない事だったが、二人の間では通じ合っているようだった。


「瑠依ちゃんは、昔からあそこのオムライスが好きだったもんね」

「覚えていてくれたの!?」

「そりゃ勿論。伯母さんはなんでも知っているさ」


 二人は仲睦まじそうに会話を繰り広げているが、僕には会話の内容はよく分からなかった。

 やがて美鈴さんも立ち上がった。


「そうと決まれば、行こうか」


 ―――――


 美鈴さんの後をついて行き、辿り着いた。佐久穂さんが選んだ場所は、駅から歩いて十五分程の場所にある洋食屋だった。

 店内は落ち着いた雰囲気で、席数はそこまで多くない。

 店員さんとは顔見知りなのだろう、美鈴さんは挨拶を交わした後、案内されたテーブルに向かい合って座る。


「さぁ、遠慮なく注文してくれたまえ」

「ありがとうございます」


 佐久穂さんが開いたページを眺めながら、どれを頼んでみようかと考える。

 しかし、どれも美味しそうな写真が並んでおり、中々に悩ましい。佐久穂さんは楽しげな表情で僕の反応を待ってくれている。


「佐久穂さんは、やはりオムライスですか?」

「そうだね! やっぱりここのオムライスが一番好きかな!」

「では、僕もオムライスでお願いします。美鈴さんはどうされますか?」

「そうだね。私も二人と同じものを貰おうか」

「畏まりました」


 店員さんはメモを取ると、そのまま厨房の方へと消えていった。僕達三人は、先に届いたそれぞれの飲み物を口にしながら、他愛のない話に花を咲かせる。

 しばらくして料理が運ばれてくると、佐久穂さんは嬉しそうに写真を撮り始めた。


「相変わらず、瑠依ちゃんは可愛いなぁ」

「伯母さん、からかわないでよー」

「からかっているつもりは無いんだけどなぁ」


 佐久穂さんは頬を膨らませて、美鈴さんに抗議する。しかし、美鈴さんはニコニコと笑っているだけだった。


「映える料理ではあるが、温かいうちに頂いた方が絶対に美味しいぞー?」

「そうだよね。冷めたら勿体ない! ということで!」

『いただきます』


 佐久穂さんがスプーンを手に取ると、卵とチキンライスを一口サイズにして口に運ぶ。


「ん~っ!! おいひぃ!!」


 幸せそうな彼女の顔を見ているだけで心が和らぐ。


「アオイも早く食べてみてよ! 絶品なんだから!」

「分かった」


 僕もスプーンを手に取り、早速一口食べる事にする。


「おおっ、こんなに美味しいオムライスは初めてだ」

「ねっ! そうでしょ? アタシここのオムライスが大好きなんだー」


 佐久穂さんは満面の笑みを浮かべ、僕の顔を見ている。

 注文したオムライスは、半熟卵に包まれており、デミグラスソースがかかっているのだが、絶妙な味付けと焼き加減のオムレツは、口の中でとろけていき、中に入っている鶏肉はプリッとした触感がありつつも、程よい噛み応えがあって、チキンライスとの相性も抜群であった。

 添えられていたグリーンピースのスープとポテトサラダは、定番ではあるが故にハズれる事のない味で、思わず夢中で平らげてしまった。


「ふふっ、アオイは何かを食べている時って、すごく幸せそうな表情をしているね」

「そうですか?」


 僕自身あまり意識したことはなかったけれど、確かに食べる事は好きな方だし、実際に目の前のオムライスも美味しくて、つい我を忘れてしまいそうになった。ただそれを口に出して指摘されると少し恥ずかしく感じてしまう。


「うん。普段もそうだけど、今日は特に良い表情をしていたよ」

「きっと佐久穂さんも一緒にいるからですよ」

「えへへ、そっか。でも、それはこっちのセリフでもあるんだよ?」

「どういう意味ですか?」

「アオイと一緒にご飯を食べるのは楽しいからね!」


 佐久穂さんは屈託の無い笑顔で僕にそう告げた。その言葉は僕にとっても嬉しいものだった。


「そう言ってもらえると、僕としても嬉しいです」

「うん。また今度、食べに来ようよ!」

「そうですね。今度は別のメニューも試してみたいので、是非」


 そんなやりとりを交わしていると、美鈴さんからは、「青春だねぇ~」という呟き声と共に、生暖かい視線を向けられているのを感じた。

 なんだか無性に気恥しくなり、隣にいる佐久穂さんから視線を逸らす。すると、彼女は僅かに空いた隙間さえ埋める様に近づき、僕の顔を覗き込む。


「んふー、これでアタシ以外を見る事は出来まい!」

「いや、別にそういうわけじゃ……」

「あはは、冗談だよ」


 そう言いながらも、佐久穂さんは更に身体を寄せて密着しながら僕の頬を突いてきた。

 こうなれば佐久穂さんのペースだ。からかわれて遊ばれてしまっている。

 しかし、嫌な気分にはならない。むしろ心地良さすら感じるのだ。不思議な感覚である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ