42話
シアさんの怒涛の銃撃戦を終えた事を確認した僕達は、中洲へと移動した。
そこでは、既に満身創痍の鴉天狗の姿があった。
「シアさん! 大丈夫ですか?」
「アオイ! ワタクシは平気だヨー! だけどちょっと疲れたネー」
僕は、シアさんに駆け寄り、肩を貸す。
「シア! 怪我は無い!?」
「うん。問題無いネー」
「良かったぁ。あ、あの……、シア! 凄く格好良かったよ!」
「ありがとうネ!」
シアさんは、佐久穂さんの頭に手を置き、優しく撫でる。
「お見事。流石はエクソ……いや、オタリー君の実力だな。俺達の出る幕は無かったか」
麻績村さんが、感心しながら呟いた。
「正直に言えば、ここまで上手く行くとは思ってませんでした」
「謙遜する事はないぞ? 現に、立科君はオタリー君に力を譲渡し、彼女は見事にその力を発揮していたじゃないか」
「シアさんが頑張ってくれたおかげです」
「ワタクシの力じゃなくて、アオイのおかげだヨ!」
シアさんと言葉が被る。思わず笑ってしまうと、カノジョも笑顔を浮かべた。
――――――
息も絶え絶えの鴉天狗を見据え、ゆっくりと近付くと、僕達を威嚇するように睨みつけてくる。
しかし、もう戦う力は残っていないようだ。
翁がそっと近づき、話し掛ける。
「もうよいのだ。お前は十分に戦った。これ以上は、無益な争いになるだけだ」
「ア……アァ……」
その一言を聞いた鴉天狗は、静かに涙を流した。
「オキナ……ワタシハ……モウ……」
「あぁ、分かっておるとも。よくやってくれた」
「ワタシノ……ナカマ……タス……ケテ……」
「大丈夫だ。同族達の魂は救われた。後は、私に任せておけ」
「……ア……リガ……トウ」
そう言い残すと、鴉天狗は天を仰ぎ見ながら動かなくなった。
「……立科君。頼む」
「はい」
僕は、翁に促され、前に歩み出た。
目の前にいる鴉天狗に向けて、手をかざすと、僕の手が淡く光り始める。
「……」
目を閉じ、集中する。
すると、次第に光が強くなり、閉じているはずの瞼を越え、視界全体が真っ白に染まっていく。
『我は汝を求む』
どこからともなく声が聞こえた。
それと同時に、全身に力が溢れていくのを感じる。
「っ!?」
声が聞こえたのと同時に、瞼を開くと、目の前の景色が変わっていた。
先程まで中洲にいたはずなのに……周囲を確認すると、僕以外は誰もいない状況だ。
そして、目の前には、大きな屋敷が存在していた。
「ここは?」
どうしたものかと考えていると、背後から声を掛けられた。
それは、先程聞こえた声と同じものであった。
「これは驚いたの。わらわを浄化するだけでなく、呼び掛けに応じてくれるとは」
振り返ってみると、予想外の出来事が起こり、戸惑う。
何故ならば、そこに立っている女性は、どう見ても人間にしか見えなかったからだ。
その女性を見た瞬間、直感的に理解出来た。彼女が、あの鴉天狗達を束ねていた存在だと。
「貴女は?」
「わらわが何者か、それは後回しにしよう。まずは、礼を言う。同胞を救ってくれたことに感謝を」
「いえ、当然の事ですから。気になさらなくても」
「ふふふ、優しい童じゃの。して、ここへ辿り着いたとなれば、わらわの声が届いたのであろう? 『我は汝を求む』と」
「はい。確かに聞こえました。けど、あれはどういう意味なんでしょうか?」
「そのままの意味じゃ。本来であれば、この様な事は有り得ぬ事なのじゃが、翁も認めた者である故、特別じゃぞ?」
「え!?」
突然の事に、様々な疑問が頭の中で浮かんでは消えを繰り返し、思考が追い付かない。
僕の頭に置かれた彼女の掌からは、温もりが伝わってきて、それがとても心地良い。
「これでよし。馴染むまで時間が掛かると思うが、我慢しておくれ」
「は、はい」
「そんなに緊張せんでもよい。これから共に過ごすのだから」
「は、はぁ……?」
「うーん。やはり反応が薄いのう。もっとこう、驚くとか喜ぶとかないのかえ?」
「すみません。まだ頭が混乱していて……ところで、どうしてこんな事を? 僕に何をされたんですか?」
「なに、あの狼殿と同じ事よ。わらわも童の中で、しばらく世話になるぞい」
「は、はいぃいいいいっ!?」
今日という一日ほど、色々な意味で衝撃を受けた日はなかっただろう。




