38話
"穢れ"の数は、開始当初よりもまばらになりつつあった。
それでも、未だに"穢れ"が消える事は無い。
憑りつかれた鴉天狗を討ち果たし、全てを浄化するまでは、この戦いに終わりが来ないのかもしれない。
「流石に……少し疲れてきました……」
「もう! そんなんじゃダメだよ! ほら! もっと頑張って! アオイは男の子なんだから! 根性見せて!」
「ははは……そうですね。シアさん達にも良い所を見せたいし!」
『アオイ! 素敵ネ! 頑張れ! ファイトだヨ!』
「聞かれてた!? 恥ずかしいですがありがとうございます! シアさん!」
『フハハッ。青春だな! そんな少年少女達に報告がある。リーダー格の鴉天狗が、中洲へと逃げ始めたぞ』
無線機越しから聞こえてくるのは、麻績村さんの声。
僕達に左右から押され、翁の誘導灯により、"穢れ"の集団は正面へ。
統制が効かなくなったのだろうか、一人はその場に、もう一人は、背中の翼を広げ、川を渡り始めていた。
『小海君はそのまま直進し、立科君達の援護を。俺はお嬢様の方へ向かう。どちらの『祓魔師』を先に引き連れてこれるか、勝負といこうか?』
『あら? 勝負になるのかしら?』
『言うじゃないか! では、健闘を祈る!』
麻績村さんは、小海さんに指示を出すと同時に、アレクシアさんの元へ。
小海さんは、鴉天狗を無視してそのまま真っ直ぐと突き進む姿が、こちらからも見えた。
『二人共、疲れたとは、言わないでしょう?』
「はいはい! アオイがさっき弱音を吐いてましたー! 弱気なアオイを見ていると、ゾクゾクッてしちゃいます!」
「瑠衣……」
佐久穂さんの言葉を聞き、僕は呆れたような視線を向ける。
『立科君ったら、後でお仕置きが必要ね。二人共、私達が合流する場所まで、全力で駆け抜けてきてちょうだい』
「それだと"穢れ"を無視する形になってしまいますし、何より囲まれてしまうのでは?」
『それが狙いよ。その他の個体種が確認されていない以上、わたくしと佐久穂さんの武器を最大限に活かす為には、この方法が一番なのよ』
「なるほど。了解しました」
『佐久穂さん、訓練室で試したアレ、やりますわよ?』
「オッケー! 任せて!」
"穢れ"の相手もそこそこに、僕達は小海さんと合流する。
案の定、僕や小海さんを追いかけて来た"穢れ"が、包囲を始めた。
「佐久穂さん! 合わせなさい!」
「がってん! ゆーこさん!」
槍をクルリと回し、佐久穂さんは構えを取る。
僕は木刀を正眼に構えると、息を吸い込むのに合わせて、彼女は槍を突き出す。
「いっきまーす!」
佐久穂さんが声を上げると、彼女の身体がブレたように見えた。
次の瞬間には、槍の先端が"穢れ"を貫き、霧散させる。
「まだまだ行くぜい!」
今度は、槍を回すように振り回しながら、"穢れ"を次々と薙ぎ払っていった。
小海さんが、佐久穂さんの背後に回り込み、薙ぎ払った後の隙を埋めるようにして、攻撃を加えていく。
二人の連携は、見事だった。
まるで、二人で一つの存在になったかのように、お互いの動きを理解し、動いているように見える。
佐久穂さんは、小海さんのサポートを受けつつ、次々と"穢れ"を倒していった。
一方の小海さんは、カノジョの攻撃が届かない範囲にいる"穢れ"の処理をしている。
佐久穂さんが動き回る事で、小海さんがフォローしやすい位置取りになっているのだ。
カノジョは、自分の役割をしっかりと理解している。
僕の方にも"穢れ"が迫ってきた時、小海さんは、僕の前に立ち塞がり、"穢れ"の攻撃を受け止めた。
「立科君、大丈夫かしら? 怪我はない?」
「はい。おかげで助かりました。ありがとうございます」
「佐久穂さんのおかげで周囲の"穢れ"は、私達だけでも対処できる数まで減ったわ。さて、立科君がすべき行動は、なんでしょうか?」
小海さんは悪戯っぽい笑みを浮かべながら、問いかける。
答えは既に分かっている筈なのに、あえて聞いてくるのは、意思確認の為だろう。
その証拠に、小海さんは、既に準備万端といった様子で、戦闘態勢に入っている。
彼女なりの優しさなのだろう。
「憑りつかれた鴉天狗の元に、行ってきます!」
「よろしい。それでこそ、『祓魔師』よ」
小海さんは、満足そうな表情で、ニッコリと笑う。




