37話
『状況報告』
『こちら第二部隊、アルファ。"穢れ"の集団は、依然、動き無し』
『こちらブラボー。同じく"穢れ"の動き無し』
『こちらチャーリー。"穢れ"の集団が川を渡る様子は無し。引き続き監視を行う』
『了解』
美鈴さんの落ち着いた声が、無線越しに聞こえる。
現在、時刻は午前二時。場所は『第一次』からそう遠くはない河川敷。
本来であれば、こんな時間に外を出歩く人間などいない。
だが、"穢れ"の影響によって生み出された異形の存在が、翁から伝えられた河川敷に集まっていた。
翁曰く、"穢れ"に憑りつかれた鴉天狗達が、"穢れ"を呼び寄せたせいだとのこと。
第二部隊が確認出来たのは、鴉天狗が三、"穢れ"が七十。
こちらの数は、通常戦力が四、イオ、シアさん、翁を含めても七。
数では圧倒的に不利だが、時が経つに連れ、徐々に"穢れ"の数が増えていくのは明白だった。
『一人頭、十体か。昂まるシチュエーションじゃないか?』
『あら? わたくしの分も残しておいてくださらないと困りますわよ? 麻績村さん』
敵を中心とし、右手側から攻めるのは、麻績村さんと小海さんコンビ。
「アタシ達も負けてらんないよね! アオイ!」
「うん。僕達だって戦える事をここでも証明しよう」
僕と佐久穂さんは、左手側に位置する。
『ワタクシ達もいる事を忘れないようにネ!』
『グルルルッ!』
『"鴉天狗の翁"の名に懸けて、ここは通さん』
そして……正面から迎え撃つのは、シアさん、イオ、翁の三名。
背中に漆黒の翼を広げ、その手に持つ錫杖を構える姿は、神々しくも見える。
シアさんは、手にしたライフルで鴉天狗に照準を合わせる。
『一応、聞いておきますネ。アナタの同族を浄化して欲しいとの事でしたが、間違いありませんかナ?』
『相違無い。我が同族達は、今まさに苦しんでいるのだ。どうか、その一撃で魂を救ってくれぬだろうか?』
『承知しましたヨ。それじゃあ、始めましょうか。皆さん、援護頼みますネー。まずは、挨拶代わりの一発をお見舞いするヨ!』
シアさんの言葉を皮切りに、彼女の持つライフルから弾丸が放たれた。
それが、合図でもある。
――――――
『作戦開始!』
無線越しから美鈴さんの声が響き渡ると共に、僕達は一斉に駆け出した。
"穢れ"の集団は、突如鳴り響いた銃声で動揺を見せ、烏合の衆のように騒ぎ始める。
鴉天狗の一人が、声にならない叫び声を挙げると、周囲に結界を展開していく。
事実上、僕達は閉じ込められた形に。しかし、それも想定内。
「瑠衣、一気に押し切りますよ」
「もちろん! その為に槍を借りてきたんだから!」
「なら、合わせますよ!」
「おっけー!」
僕は木刀を構え、槍を振りかぶる佐久穂さんに合わせるように走り出す。
彼女が持つ槍が、僕の身体を掠めそうになるが、構わず前へ。
カノジョが振り下ろした槍が、"穢れ"の身体を切り裂き、黒い霧となって消え去る。
だが次の瞬間には、"穢れ"が襲い掛かってきた。
僕はそれを、横薙ぎに一閃し、消滅させる。
「シア達を楽にしてあげなくっちゃ!」
"穢れ"の正面に位置するシアさん達。
今も鳴り響く銃声の音、イオの遠吠え、翁が手にしている錫杖からは、青白い光が漏れている。
『よもや、我らの力が、このような形で役に立つとはな』
『飛んで火に入る夏の虫デース!』
『愚人は夏の虫、飛んで火に入る。と言って貰いたいものだ』
『そういうのは、アオイ達にお願いしますヨー。ワタクシ、イギリス生まれの英国人ですカラ!』
二人は軽口を叩き合いながら、迫りくる敵を蹴散らしていく。
どうやら憑りつかれた鴉天狗は、あの方法で"穢れ"を寄せ集めていたようだ。
光に集まる蛾の如く、"穢れ"は青白い輝きに引き寄せられ、シアさんの放つ銃弾に貫かれ、次々と消滅していく。
一方で、僕の目の前にも敵の姿が現れるが、迷うことなく剣を振るい、その身体を両断した。
「はぁっ!!」
気迫を込めた声を発しながら、さらにもう一体の身体を斬り裂く。
佐久穂さんも、僕と同様に槍を振るいながら、次々に"穢れ"を屠っていく。
『うむ! 奇襲が出来るというのは良いな! こうやって自由に動けるというのも面白いぞ!』
『それは良かったですわね。でも油断は禁物ですよ? 何が起こるか分かりませんもの』
『その為に小海君がいるのだろう? 頼りにしているぞ』
『はいはい。右翼は問題なく進行中ですわ』
麻績村さんと小海さんのコンビは、シアさん達とは、また違うやりとりをしながら、順調に敵の数を減らしている。
「アオイ! アオイ!」
「なんですか!?」
「アタシ達も何か言おうよ! シア達の真似をしてさ!」
「この状況で何を言えというのですか!」
「アタシへの愛の告白でもいいんだぜ?」
「そういうのは、学園に伝わる伝承とかに乗りかかりたいタイプなもので!」
「おぉ、確かにそれはいいかも!」
「納得してどうするんですか!」
佐久穂さんは、僕のツッコミにケラケラと笑う。
カノジョは、いつもこうだ。ふざけたり、からかったりと、本当に掴みどころがない。
だけど、いざという時は、誰よりも頼れる存在になる。




