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ゼロ距離カノジョと祓魔師への道  作者: 詩永あえし
第二章 『祓魔師』とカノジョ
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36話

 深夜零時。

 美鈴さんからの命令で、『第一次』内部に併設されている仮眠室で睡眠を摂っていた僕は、目を覚まし、身体を起こす。

 作戦決行時刻は、午前二時。いわゆる丑三つ時と呼ばれる時間だ。

 隣で寝ていたはずの麻績村さんは、既に起きているのか、布団の上には誰もいなかった。

 僕は洗面台で顔を洗い、着替えを行い、部屋を出て建物内の通路を歩く。

 途中ですれ違う人達は、忙しそうにしており、緊張感が伝わってきた。

 そんな彼らに会釈しながら、目的地へと向かう。

 辿り着いた先は、大きな会議室で、室内には、美鈴さんが待機していた。


「おはようございます」

「おはよう、立科君。少しは眠れたかい?」

「正直、あまり寝付けたとはいえません」

「まあ、仕方がないよね。内心は私もドキドキだよ。でも、不思議と不安感とか恐怖は湧いてこなくてね。むしろ、ワクワクしているくらいかな?」

「美鈴さんらしいです」

「ふふっ、褒め言葉として受け取っておくよ」


 美鈴さんの表情は普段と変わらず、余裕のある笑みを浮かべながら、手に持っていたタブレットを眺めていた。


「立科君、ちょっと座って待っていてくれるかい?」

「はい」


 美鈴さんは、僕の返事を聞くなり、小走りで部屋の奥へと消えていく。

 言われた通り椅子に腰掛け待っていると、程なくして美鈴さんが戻ってきた。

 手に持つ盆には湯呑が二つ乗っており、一つを手渡される。

 お茶の良い香りが鼻腔をくすぐり、一口飲むと、喉を潤すことが出来た。


「たまには、こういうのも良いだろう? 緊張がほぐれてくれたら嬉しいんだけれどね」

「はい。美味しいですね」

「良かった。実は、美味しいお茶の入れ方を優琴ちゃんに教えてもらったんだよ」

「小海さんですか?」

「うん。ほら、さっきの優琴ちゃん、少し当りが強かったろう? アレクシアちゃんの時を察するに、立科君の場合、そういうのは気になるタイプかと思ってね」


 美鈴さんの言葉に、先程の事を思い出す。

 小海さんの口調は、麻績村さんに悪態を付く時とは、別の刺々しさがあった。


「確かに、あれは小海さんらしくなかったと感じました」

「やっぱりかぁー。どうする? 簡単に説明しようか? 本来なら私から話す事じゃないんだけれど……」

「それならば、今日の出来事が終わってから、直接、小海さんに聞いてみる事にします。美鈴さんから聞くのも失礼だと思いますし。何よりシアさんの一件で、悩むぐらいなら本人に直接聞くべきだと学んだので」

「なーるほど。それは良い考えだ。『男子、三日会わざれば刮目してみよ』とは、良く言ったものだねぇ」

「いえ、そこまで大層なモノでは」

「謙遜する事は無いじゃないか。自分の行動に問題があると気づいて、それを改善しようと努力する。私は好きだぞ、そういった考え方」


 美鈴さんは僕の頭に手を乗せると、くしゃくしゃと髪を乱してくる。

 彼女の性格を表しているかのように感じられた。

 やがて満足したのか、僕の頭に乗せていた手を離すと、腕を組みながら話し始める。


「さて、今回の任務についてだが、概要は既に把握しているな?」

「はい。河川敷で翁さんの同族を。寄せ集めている"穢れ"を祓う。それで間違いありませんか?」

「ああ。その認識で合っているよ。第二部隊が調査及び監視を行い、こちらでも確認が取れた。ただ、想定よりも"穢れ"の数が増えている」

「数が増えてるんですか?」

「恐らく、"穢れ"に憑りつかれた同族による招集の影響だろう。このままだと、大規模な、"穢れ"の集団が出来上がる可能性がある。それを阻止する為にも、今回は迅速に解決する必要がある」

「はい!」

「それにしても、"穢れ"が仲間を呼ぶなんて事例は初めて聞いたよ。私達が知らないだけで、過去に似たような事件が無かったか調べたが、該当するものは無かった」

「今回が初めてという事になるわけですね」

「そうだね、何もかも初めて尽くしだ。架空の存在かと思われていた天狗殿からの直々なお願いでもある。だからこそ、私達『第一次』が迅速に行動を開始する事を決めた。この件を『第二次』に介入された場合、ややこしくなるからねぇ」


 美鈴さんはため息交じりに語ると、肩をすくめる。


「まっ、今は目の前の任務に集中しよう。今日中に終わらせるよ」

「はいっ!」

「もし、時間が余っている様なら、訓練室に行ってみなさい。瑠衣ちゃん、優琴ちゃん、玲ちゃんも応援に駆け付けているはずだ」

「東御先生も!? 分かりました。行ってきます」

「ああ、行っておいで」


 ――――――


 美鈴さんと別れ、エレベーターを利用し、地下にある訓練室へ。

 扉を開けると、そこには、佐久穂さんと麻績村さんの姿があり、二人共真剣にモニターを見つめている。


「瑠衣、麻績村さん」

「やっほ~、アオイ!」

「おっ、起きたか。多少は寝れたか? 立科君」


 僕の存在に気づくと、笑顔を見せてくれる二人。僕もつられて笑みを返す。


「僅かにですが、眠気は取れたので大丈夫ですよ」

「そうか。まあ、身体を横にしているだけでも、多少は違うからな」

「えぇ、おかげさまで。ところで二人は何を見ていたんですか?」


 僕は二人の横に立ち、一緒にモニターを覗き込む。

 そこに映っていたのは、槍を構えている佐久穂さんと、その……ピコピコハンマーを手にし、対峙している東御先生であった。

 どうやら録画した物みたいだが、佐久穂さんが幾度か槍を扱う度に、生まれた隙をついて東御先生が、その頭を軽く叩く。

 傍から見ると、じゃれるような光景に見えた。


「アタシの薙刀、今回の出撃には修理が間に合わないから、槍を借りたんだけど、ご存知の通りだよ。オミーに確認して貰いながら反省中」

「流石の佐久穂さんでも、扱いに慣れていない武器ですから仕方が無いでしょう」

「まあね。けど、この調子で本番を迎えるとマズイ。せめて、手応えを感じるぐらいにまで扱えないとね」


 悔しそうな表情を見せるカノジョは、モニターを見つめている。

 邪魔をしては悪いと思い、席を立つ時に麻績村さんから、東御先生の居る場所を教えて貰ったので、そちらに向かう事に。


 ――――――


 自動販売機が並ぶ休憩室の一角。

 そこで壁に身体を預けながら缶コーヒーを手にしている、東御先生の姿を見つけた。


「こんばんは、東御先生」

「んっ? ああ、立科か。どうした?」

「いえ、特に用事は……。隣、良いですか?」

「構わんよ。その前に何か自販機から出して来なさい。私の奢りだ」

「ありがとうございます。ご馳走になります」


 僕はお言葉に甘えて、近くの自動販売まで歩き、飲み物を購入する。

 戻って来た僕は、そのまま隣に立つと、封を開けてから、口を付ける。


「美味しいですね」

「ふむ? ……ブラックか?」


 僕の手元を見ながら尋ねてくる先生に対し、小さく首を振る事で否定する。


「違います。甘い方が好きなので」

「私と同じか。しかし、意外だな」

「そうでしょうか?」

「立科は、こういった類の物は飲まないと思っていた」

「普段は飲みませんね。でも偶には飲んでみたくなりまして」

「なるほどな」


 先生は笑みを浮かべながら、手にしていた缶をテーブルに置くと、視線を窓の外へと向ける。

 釣られるように、僕の視界にも夜の街並みが飛び込んできた。

 深夜帯にも関わらず、街灯の明かりが点々と存在し、人々の営みを感じさせる。


「立科、お前はどう思う?」

「どう、と言いますと?」


 突然の質問に戸惑いながらも、何とか言葉を絞り出す。


「佐久穂先生からのお願いとはいえ、私はこの場にいても良いのかと」

「僕は東御先生がいてくれて心強いです。頼れる人が近くにいるのって安心できますから」

「そ、そうなのか?」

「はい。なので、そんなに思い詰めない方が良いと思いますよ? いつもの自信満々な感じの方が、先生らしいと思います」


 普段の凛々しい姿を思い浮かべつつ、伝える。すると、彼女は頬を掻き始めた。

 やがて、苦笑いをしながら呟く。


「やはり、柄にも無かったか?」

「そういう訳ではありません。僕が想っていた事を伝えただけです。気にしないで下さい」

「立科の想いか……」

「あっ、あの! 変な意味ではなくて!  純粋な僕の個人的な意見として受け取ってくださいね!」

「分かっている。ただ、嬉しかっただけだ」


 東御先生は僕から顔を背けると、空になった缶をゴミ箱に投げ入れる。

 カランッという音が響くと同時に、再び先生はこちらに向き直った。


「立科の言うとおり、私らしく行こうじゃないか。悩んでいても仕方ないからな」

「それが一番だと思います」

「うむ。さぁ、もうすぐ任務の時間だ。準備をするぞ」

「はい!」

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