7話
部屋の中に入ると、壁一面に様々な機械が置かれており、中央には白いカーテンに覆われた空間がある。
どうやらその奥が個室のようになっているようで、扉が閉まっている。
(なるほど、ここが診察室代わりなのかー)
美鈴伯母さんは慣れた手つきで機器を操作し、測定の準備を始めると、手招きをしながらアタシを呼ぶ。
アタシは言われたとおり、伯母さんの横に立つと、モニターを見ながら伯母さんが説明を始めてくれた。
「まずは瑠依ちゃんの身体データを測っていくよ。瑠依ちゃんはここに立ってもらえるかい?」
「はーい」
アタシは指示された場所に立つと、伯母さんが何かを操作する。
すると、床から円形の機械が徐々に上昇してくるのが分かる。
これで全身をスキャンするんだろうなーとか思いながら、目を瞑っていると、しばらくしてピピッという電子音が鳴る。
伯母さんは数値を確認すると、再びキーボードを叩いていく。
「瑠依ちゃんは平均より身長が高いね。スタイルも抜群だ」
「えへへ、ありがとございます」
アタシは自分の胸を見下ろしながらお辞儀をした。大きい事は良いことだしね!
「体重は……少し軽いかな。しかし小食では無かった気がするのだが……。これが若さか、羨ましいよ」
「美鈴伯母さんもまだまだ若いじゃないですか?」
「お世辞でも嬉しいよ」
そう言いながら、伯母さんは優しく微笑む。
アタシの事を褒める言葉を口にしながらも操作の手を止めていないところを見ると、真面目な性格なんだろうなと思った。
そんな時、ふとした疑問が生まれ、アタシは聞いてみる事にした。
「美鈴伯母さん、一つ質問してもいいー?」
「ん? 構わないぞ?」
「伯母さんっていつからこの仕事をしているの? そんな素振りを見た記憶がないんだけれど?」
伯母さんの手が止まる。そしてゆっくりとアタシの方に顔を向けた。……ちょっと怖いかも。目が笑ってない感じだし……。
アタシは心の中で後悔し始めたその時、伯母さんの口が開く。
「瑠依ちゃん、それはね……」
「はい」
「お金の為だよ」
「……へぁ?」
伯母さんの言葉に、間の抜けた声が出てしまう。
えっと、どういうこと? お金って聞こえたような気がするんだけど、気のせいかな?
アタシが困惑しながら固まっていると、伯母さんは笑みを浮かべながら話を続ける。
「ごめんごめん、本気に受け取られるとは思わなかったよ。お金は大事なのは言うまでもないけどさ」
頭を掻きながらアタシに謝る。
「まぁ、簡単に言えば仕事として受けただけだよ。危険が伴う事もあるから、それなりの報酬を頂いている訳だ」
そう言いながら、天井を見つめる伯母さん。
「夢があったような気もするが、今となっては思い出せない程に遠い記憶の彼方へと消え去ってしまったよ」
どこか寂しげに呟く美鈴伯母さんは、きっと過去に色々あったのかもしれない。
「まぁ、簡単に言えば昔の話だ。今はもう、"穢れ"の事で精一杯だからね。それ以外の事を考える余裕が無いのさ」
肩をすくめながらそう口にする伯母さんは、「ところで」と言いながら作業に戻る。
「データ上は瑠衣ちゃんの身体に、"穢れ"の影響は問題なし。立科君を守る為とはいえ、"穢れ"を蹴り飛ばすなんて、なかなか出来る事ではないと思うんだが」
「あの時はアオイを助ける事しか考えてなかったので、無我夢中で」
確かに冷静に考えればとんでもない行動だったなって思うけど、あの時は本当に必死で他に何も考えられなかったから。
「そうか。立科君は幸せ者だね」
「アタシがもっと幸せな気持ちにしてあげないといけませんよね!」
「……」
伯母さんは黙り込んでしまう。
「あれ、どうしました?」
「いや、瑠依ちゃんは面白い子なんだなと思ってね」
「?」
美鈴伯母さんが何を言っているのか分からず、アタシは首を傾げる。
「立科君も大変だなぁ」
「何の話をしているのか、さっぱり分からないんだけれど!」
「独り言だよ。瑠依ちゃんは気にしなくていいから」
「そう言われても気になるんですけどー!」
アタシの文句を聞き流し、伯母さんは再びパソコンに向かい、キーボードを叩き始めた。
「次は血液検査を行うよー」
「流さないで下さいよぉ」
「はいはい」
美鈴伯母さんは苦笑いを浮かべながら、検査の準備を進めていくのであった。