35話
翁の言葉を聞いた美鈴さんは、椅子の背もたれに深く腰掛け、天井を見上げる。
深呼吸をする様に、何度か大きく呼吸を繰り返した後、美鈴さんは翁へ質問を投げかけた。
「それは確かな情報かい? それとも、ただの憶測? もしくは、嘘の情報を流したか? どれだい?」
美鈴さんの問いかけに対し、翁は首を横に振る事で否定の意思を示した。
「全て事実である。私は私の同族を信じる。私が知りうる事を伝えたまでだ。それでも、お前達が求めているのは、真実であろう?」
翁は美鈴さんの目を見ながら問い返す。
美鈴さんは翁の視線から逃げる事はせず、しっかりと受け止め、見つめ返し、返答を行った。
「私はこの目で見た物以外を信じるつもりはない。だが、目の前に翁殿が居なければ信じなかったかもしれないね」
翁はその言葉を耳にすると満足げに笑みを見せる。
反面、美鈴さんは頭に手を当てて深い溜息をついた。
「はぁー。『第二次』まで動き始めたのかぁー。嫌だなぁー、面倒くさいなぁー」
「あの、美鈴さんはどうして『第二次』を、何というか苦手そうな感じなんですか?」
「それは彼らが、伝統と格式、そして確かな成果を積み重ねてきた組織だからよ」
「小海さん?」
僕の問いに美鈴さんではなく、小海さんが答える。
「彼らは、古くから続く由緒正しい家柄の出身者で構成されているの。勿論、家柄だけで実力が伴わないなんて、有り得ないわ。代々受け継がれてきた知識と技術は、現代でも通用するレベルなの」
「優琴ちゃんの言うとおりさ。彼らの力は本物だよ。だからこそ、厄介なんだ」
美鈴さんは苦虫を噛み潰したような顔をしながら、小海さんの説明を引き継ぐ。
「彼らには、私達に知らせていない"穢れ"に関する知識が、豊富にある。それに、歴史ある家柄だけに、コネクションだって強い。つまり、私達よりも先に、奴らの動きを掴む可能性が高いのよ。そうなると、こちらが後手に回ってしまう事になるわ」
「先手を打たれる前に、こちらが動かなければならない状況になってしまうのですね」
「ああ。それが『第二次捜査機関陰陽課』だ。私達とは違う、『陰陽師』の系譜を継ぐ者達」
美鈴さんは、僕と佐久穂さんを見て、真剣味を帯びた声色で語る。
佐久穂さんは僕の隣に立ち、真っ直ぐと前を見据えながら美鈴さんの話を聞いており、その瞳からは闘志のようなものを感じた。
「まっ、そうは言っても身内同士の話さ、そちらは横に置いておこう。オミムー?」
「所長までオミムーと呼んで下さるとは。何でしょう?」
「『第一次』が発足されて以来、初めての先制攻撃になるわけだけど、準備は出来てる?」
「はい。抜かりなく」
「流石だねぇ。頼もしい限りだ」
美鈴さんは、佐久穂さんと小海さんの方を見ると、優しく語りかける。
「二人共、覚悟はいい?」
「アタシはいつでも!」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「うん。良い返事だ。頼りにしてるよ」
そして、僕とシアさんに視線を向けてくる。
「立科君、キミは『第一次』の切り札だ。だが、温存するつもりはない、全力を出し切って欲しい」
「分かりました。みんなの期待に応えて見せます」
「その意気込みがあれば十分だ。それと、アレクシアちゃん」
「ハイ」
「キミについては選択肢がある。これから起こる戦いに参加するか否か」
「……」
「強制はしない。アレクシアちゃんの立場は特殊だ。イギリスならともかく、日本で命の危険がある戦いに出る必要は無いんだ」
「……」
「無理にとは言わない。決めるのは、キミ自身だ」
シアさんは、瞼を閉じて、呼吸を整えるように胸を上下させる。
その姿はまるで、自分自身と対話をしている様だった。
しばらくして、ゆっくりと目を開いた彼女は、迷いの無い眼差しを美鈴さんに向ける。
「ワタクシの答えは変わらないネ! アオイ達と一緒に戦うヨ!」
「……そっか。ありがとう」
「お礼を言うのはこっちダヨ? 助けてくれたお礼は、何倍にもして返すのがワタクシの流儀ネ!」
「シア!!」
佐久穂さんがシアさんに勢いよく抱き着くと、そのまま頬ずりを始めた。
カノジョの頭を撫でているシアさんは、とても嬉しそうだ。
「して、美鈴殿。仕掛ける刻は、いつにするのだ?」
翁からの問いかけに、美鈴さんは机の上に置かれていた白金の弾薬を掴み、握り締める。
「今夜さ」




