34話
佐久穂さんを追いかけた僕は、カノジョと『第一次』内部で追いかけっこ。
縦横無尽と駆け巡り、移動を繰り返している内に辿り着いたのは、この時間では人気の無い中庭だった。
佇む一本の木陰にて、お互いに息切れを起こしており、そのまま座り込んでしまう。
呼吸を整えつつ、空を見上げれば、夏の星座が僕達を迎える様に輝いていた。
僕は、隣で同じように座っている佐久穂さんへ視線を向けると、彼女もまた僕を見ていて、目が合ってしまう。
互いに見つめ合い、言葉を交わすことなく時間が過ぎていくと、自然と僕の手は彼女の手を握っていた。
握り返される手は、僕の体温より冷たく、しかし、僕の熱が伝わると、次第に温かくなっていく。
それが嬉しくもある。
僕達は手を繋いだまま、何も言わずにただ寄り添っていた。
どのくらいの時間、そうしていたのだろうか? 佐久穂さんは勢いよく立ち上がり、数歩進んだ後、こちらに振り返り、僕に向かって叫んだ。
「ああ、もう!! こうなったら直接確かめるしかないじゃん!!」
「確かめるって、何をですか!?」
「決まっているでしょ! シアとしたっていう、その……アレだよ! アオイは黙って目を瞑っていれば、それでいい! 後は全部、アタシに任せてくれればいいのさ! という訳だから、さっさと行くぞ!! アオイ!!」
「ちょっ! 瑠衣!? 雰囲気とシチュエーションは、大切なのでは!?」
「うっさい!! そんな過去の話は知ったこっちゃ無い!! 観念しろ!!」
佐久穂さんは僕を無理矢理立たせると、両肩を掴んで逃げられない様にしてくる。
「さあ、覚悟を決めろ! 大人しくしろ! 目を閉じるんだ!!」
「瑠衣! 待っ……」
僕の制止の声を振り切り、佐久穂さんは僕の頬に手を当ててきた。
カノジョはゆっくりと自分の顔を近づけていき、互いの息遣いが聞こえる距離にまで近づく。
僕の視界には、佐久穂さんの整った綺麗な顔立ちが映っており、頬は朱に染められていた……。
「おーい、職場でイチャつくのは止めなさいな。落ち着いて周囲を見てみようかー」
声が聞こえた方角へ視線を移すと、そこには小さく手を振ってこちらを見下ろす美鈴さんの姿。
彼女は呆れながらも笑っており、指摘通り、辺りを見回すと、人影がチラホラと。
僕達は周囲にいる人達の注目を集めてしまっていた。
「る、瑠衣……」
「あぅ……アオイ」
正気に戻った佐久穂さんは、お互いの顔が近い事に気が付き、思わず俯いてしまった。
美鈴さんは、その様子を見てケラケラと笑っている。
――――――
「いやぁ、若いって素晴らしいねぇ。お疲れ様。二人共」
「お、お恥ずかしい所をお見せしました」
「うううううう」
あれから暫くの間、羞恥心に苛まれてしまい、話を聞く状態ではなかったが、本来の目的を思い出す。
男性陣が少しばかりお疲れなのは……気にしないでおこう。
美鈴さんが咳払いをすると、全員の意識がそちらへと向く。
「翁殿、私の、私達の大切な仲間を救う情報の提供してくれて感謝する」
「気にするな。知っている事を話したまでだ……私の願いを叶えてくれるだろうか?」
「問題ない。必ず魂を救うと約束しよう」
「……ならば良い」
「翁さん。貴方が仰った同族とは、何者なのでしょうか?」
「その答えは簡単だ。私と同じ天狗だ。"穢れ"に憑り込まれた者を、どうにかして救おうと試みたのだが、どうにも上手くいかず……という訳だ」
翁は悲しそうな表情を浮かべながら、窓の外を見つめていた。
その様子から察するに、本当に救いたいと思っている事が分かる。
せめて、魂だけでも……と。
「私達に残された時間は、どれほど残されているのでしょうか?」
「正確な刻までは分からないが、同族が、"穢れ"を集めている場所は、特定出来た」
「その場所は何処なんだい?」
「ここからそう遠くない場所に、大きな川が流れておる場所があるだろう。そこだ……」
翁の言葉に、美鈴さんは天を仰ぎながらため息をつく。
「……目と鼻の先じゃないか。こんな近くに潜んでいたにも関わらず、探知出来なかったとは。灯台下暗しか」
「我らは隠蔽術に長けている故な。"穢れ"に憑りつかれても、無意識に実行しているのだろう。私の様に何かを探ろうと動かない限り、見つかる事は無いだろう」
「いやはや、科学の力だけでは測れない領域に踏み込んだものだねぇ。『祓魔師』というのは」
「我らからすれば、人の進む速度は早いと感じるよ。侮っていると置いて行かれてしまう程に」
「隣の芝生は青く見えるもの。ですかねぇ」
「そういうものなのかもしれんな」
二人の会話を聞きつつも、小海さんがホワイトボードに内容を記入していく。
「相手の数については?」
「昨日の時点で四つ足が三十、二つ足が二十だ。更に増えている可能性はあるが、同族以外の個体は確認されていない」
「成程ねぇ。翁殿には悪いが、個体や元『祓魔師』の存在が確認されていないのが、救いかな」
翁は美鈴さんの言葉に静かに首肯し、再び口を開く。
「今回の件に関してだが、私以外の同族から力を借りる事は叶わん。独断での行動が理由の一つでもある」
「含みのある言葉だねぇ。いっそうの事、全部共有しちゃおうよ?」
美鈴さんの提案に、翁はしばらく沈黙したままだった。
しかし意を決したのか、「分かった」と呟き、美鈴さんを見据える。
「私の行動に理解を示す同族から聞いた話だ。『第二次』がこの件について動き始めている」




