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ゼロ距離カノジョと祓魔師への道  作者: 詩永あえし
第二章 『祓魔師』とカノジョ
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33話

 佐久穂さんの言うことは、間違っていない。

 目の前にいるシアさんは、とても神秘的で、まるで絵画の世界から抜け出た様な美しさを持っている。


「これが、ワタクシの力……!」


 カノジョは、自分の掌をじっと見つめると、感慨深げに見入っている。


「ふむ、上手くいったか。私の想像以上の結果だよ」

「ですが、ワタクシだけが救われて……アオイは、大丈夫なのですか?」

「言葉が足りなかったな。彼には"澱"が残らないのだよ。それどころか、他者に残されている"澱"すら取り込み"浄める"ことが出来る」

「……」

「お嬢さん、君の生み出した銀の……いや、白金の弾薬を一つ持って来てくれないか?」

「白金? ワタクシのは……これは、まさか!?」

「ああ、そうだよ。これが、本来のお嬢さんの力だ。そして……」


 シアさんから受け取った白金の弾薬を、翁は、僕に手渡そうとする。


「すみませんが、受け取れません。以前、手にしたら消えてしまったもので」

「だからこそだ。これを手にし、君がお嬢さんにしてあげた事を、実感してみるといい」


 僕は、手渡された弾薬を受け取ると、恐るおそる握り締める。

 すると不思議な事に、僕の手の中には、確かに弾薬が存在したままでいる。


「以前、手にしたら消えたと言っていたな。その理由は、今なら分かるだろう?」

「弾薬に"澱"が憑り込まれおり、手にした僕の中で"浄め"られたからですか?」

「正解だ。"澱"を取り除かれたお嬢さんが、新たに生み出した白金の弾薬を、君が手にしても消え去らないのが、何よりの証拠だ」


 僕の手の中にある弾薬は、以前よりも強い存在感を放っていた。

 あの時は、確かに触れただけで、手の中から弾薬が消失してしまった。

 だが今は違う。僕は、しっかりと掴み、その存在を確かめている。

 シアさんを救えたという実感を、噛みしめる様に。


「はいはい!! 大円団な雰囲気が出てきちゃっているけれど! 結局、アオイはシアに対して何を行って"澱"を取り除いたのさ! そこ重要じゃないの!?」


 佐久穂さんが手をパンッと叩くと、僕達の間に流れていた空気をぶち壊してくれた。

 翁は、「やれやれ」といった感じで首を左右に振っており、美鈴さんは呆れた表情を浮かべている。


「元気なお嬢さん。方法は幾つかある。だが……」

「だが?」

「私から聞くよりも、本人たちの口から聞きだした方が、面白いだろう?」

「むぅ……アオイ? シアに何をしたのかな? アタシに包み隠さず話してくれるよね?」


 あれ? 佐久穂さんって、こんなに怖かったっけ? 普段は笑顔を絶やさない子なんだけど、 今だけは、笑っていない。

 無表情のまま、こちらへ近寄り、お互いの吐息がかかる距離まで詰め寄られる。


「さ、佐久穂さん。少し落ち着いて、ゆっくりと……」

「落ち着いてる。名前、前の呼び方に戻ってる」

「すみません、瑠衣。出来たら少し距離を。その……素敵なものが当たって……」

「知ってる。当ててるんだよ。わざと」

「あ、う……」


 カノジョの柔らかな胸が押し付けられていて、僕の理性が削られていくのが分かる。


「ねえ、教えてくれる?」

「お、教えると言っても! 何が切っ掛けでシアさんの"澱"が"浄め"られたのか、検討もつきません!!」

「それは話を聞いたアタシが判断する。だから言え。早く言え。白状しろ」

「うぐ……。例え瑠衣であっても、シアさんと秘密だと約束した事は破れません! 絶対に言いません!」

「ちぃ! この頑固者めぇ!」


 佐久穂さんは僕の両頬を引っ張ると、上下に激しく動かしてくる。


「ひゃめてくらはい~」

「しばらくアタシの気が済むまで、頬っぺたつねつねの刑だ!!」

「やべでくだしゃいっ」

「はぁ……もう。二人共、こういう時だけは行動が幼くなるんだから」


 小海さんが呆れている間に、美鈴さんがシアさんの傍に寄り、お伺いをたてていた。


「アレクシアちゃん。何か思い当たる節はないのかい?」

「そうネ……アオイが身体を張ってまで、ワタクシとの約束を守ろうとしている姿は、キュンとくるネ!」

「いや、今の話じゃなくてね。今日の夕方の話を……」

「冗談デスヨ、本心ですけどネ。ルーイー、説明しますからアオイを解放してあげて欲しいネー」

「分かったよ。ほら、アオイ。離してあげる」

「ありがとうございます。瑠依」

「どう致しまして。それで、シア。アオイにどんな事をされたのか、覚えている?」

「はい。アオイは、まず……」


 学園の屋上での出来事を、シアさんが語り始める。

 カノジョの言葉に耳を傾けながら、僕は相槌を打っていく。

 やがてシアさんが話し終えると、真っ先に口を開いたのは、やはり佐久穂さんであった。


「うーん、アタシもしてあげている事しかしてないなぁ。お爺ちゃん、今のでシアの"澱"が"浄め"られるものなの?」

「他者に触れるという条件は、満たしている。後は、彼次第だろうな……」

「アオイ、全て吐き出せ。お前は一体、シアにナニをした?」

「……あっ」

「あっ? やっぱり何かあったんだな? さあ吐け! 自白しろ! それをアタシにもするんだ!!」

「いえ、その……帰り際にシアさんからされた事がありまして」

「詳しく」

「……はい。シアさんの指先で僕の唇が押されたのですが」

「ふむふむ?」

「その後、押していた指先が離れ、シアさんが自分の唇へと当てました」

「シアァァァ!!」


 佐久穂さんは叫ぶと同時に、シアさんの身体を抱き締める。

 カノジョは抵抗する事無く、されるがままになっているが、とても幸せそうな顔をしていた。


「ルイ、一つだけ教えてあげるネ」

「な、なんだい?」

「……初めては夢心地で、甘く蕩けてしまう程、気持ちが良いモノなのですよ?」


 シアさんの言葉に、佐久穂さんは、一瞬にして顔色を変えていた。

 その変化は、まるで熟れたトマトの様に真っ赤に染まり、頭からは湯気が立ち上っている。

 佐久穂さんは、両手をバタつかせながら慌ただしく動き回ると、部屋から飛び出していった。

 慌てて僕は、カノジョを追いかけて行くのであった。


 ――――――


「ご老公、私からも質問の許可を」

「許可しよう」

「では失礼を。"澱"を"浄める"方法は、立科君が相手に触れ、力を流し込めば良い。ということでしょうか?」

「その認識で間違っていない。私もそうだと考えている」

「では何故、素直にそれを伝えず、少年少女が間接キスで騒ぎ立てている状況になるのでしょう?」

「簡単な話だ。痴情のもつれ程、面白い物はないからな」

「確かに。天狗殿の言われるとおりだ」


 麻績村と翁は笑い合う。

 その影で、無表情で近寄る女性陣達の姿に気が付くことも無く……。

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