28話
シアさんと二人で歩いている最中に、不思議と会話を交わす事は殆ど無かった。
時折、すれ違う他の生徒達が振り返りながら見つめる中、カノジョはただ僕の隣に寄り添うようにして歩いてくれる。
ただ、シアさんの視線を感じてそちらを見ると、カノジョはニッコリとした笑顔を見せてくれた。
(なんだか不思議な感じだなぁ)
普段とは違う状況だからこそだろうか。
何とも言えない感覚を覚えながらも、学園内の簡単な説明を行い、途中で飲み物を用意していく。
「シアさんは、何を飲まれます? やはり紅茶……」
「ありがとうございます。でも、今回はこちらが飲みたいネ」
「サイダーですか? 確かに、夏の定番という感じですね。僕も同じのにしよっと」
「フフっ。夏はやっぱりこれですよネー」
「控えめな甘さと、喉越しが良いんですよね」
「おぉ、詳しいデスネー。アオイもしゅわしゅわが好きなのかナー?」
可愛らしい表現をすると、舌を出して悪戯っぽく笑みを浮かべるシアさん。
その様子に、僕は頬を掻きながら言葉を返す。
「いえ、ここにあるのだと、僕が飲めるのはこれぐらいしか無いだけで……。はい、シアさん」
「ありがとネー! 男性からこういうのを受け取るのは初めてで、嬉しいデス」
「そ、そうなんですね。まぁ……その、どういたしまして。飲み物も用意出来たので、最後の場所へ向かおうと思います」
「楽しみにしてマスヨー」
そう言うと、彼女は再び僕の隣に並ぶようにして歩く。
階段を上り、やがて辿り着いた場所は、学園の屋上であった。
「ここは……?」
「僕のお気に入りの場所の一つですね。風通しが良くて気持ちいいでしょう?」
「はい! それに、空も綺麗に見えるんデスー!」
目を輝かせているシアさんの様子を見て、僕はホッとすると同時に胸を撫で下ろす。
「良かった。楽しんで貰えたようで」
「とても良いところデス。ワタシは、この場所が気に入りマシタ!」
「ありがとうございます。ここで休憩しながら、お話しましょうか」
「賛成デス!」
僕は、鞄の中から取り出した未使用のタオルを取り出して地面に広げると、シアさんに勧める。
「使用していないので、汚れていないはずです。良ければ使ってください」
「それなら、アオイの方こそ使うべきデス。ワタクシは気にしないので」
「そう言われても、流石にそれは出来ません。遠慮なく使っちゃって下さい」
「……それなら、お言葉に甘えて。ありがとうございマス」
シアさんが恐縮しながらも腰かけると、僕もその隣に座り込む。
出入り口付近の傍にある壁に寄りかかりながら、お互いに手にしているサイダーをトンと当てて乾杯。
一口飲む度にシュワッと弾ける炭酸。爽やかな甘味が口に広がり、予習で疲れていた脳を癒していく。
「ぷはっ! 美味しいですね」
「はい! 最高デース!」
僕とシアさんは同時に声を上げると、互いに目を合わせて笑い合う。
「それにしても、ここは本当に良い所だネ。皆優しい人達ばかりで、空気も澄んでいてとても良いデス。自然に囲まれていて気持ち良い風が吹きます。まるで故郷にいるような気分になりマース」
「そう言ってもらえると、ここを紹介した甲斐がありました」
僕がそう答えると、シアさんは照れたように笑う。
すると、少しだけ間を置いた後に、ゆっくりと口を開いた。
「アオイには感謝していますヨ。今日はワタクシの為に時間を作ってくれマシタ。ありがとうデス」
「僕が好きでやったことですから、気にしないでください」
「アオイは謙虚デスネー。ワタクシがアオイの立場なら、拒否していたかもしれませんヨ?」
「それは、そうかもしれないですけど」
「冗談デスー。そんな顔をしなくても大丈夫ですヨ」
シアさんはクスリと小さく笑って見せると、再びサイダーを口に含む。
「シアさんって意外と意地悪ですよね?」
「よく言われるネー。だからよく怒られるヨ?」
「それは……なんと言い返せば……」
「フフッ。困らせてしまいましたか?」
「……はい」
「素直な子は好きデース」
「あまりからかわないで欲しいのですが」
「あら? からかっているつもりはないのデスヨ?」
「……」
「フフッ。アオイは可愛いですネー」
僕の反応を楽しむようにクスリと笑うと、シアさんは僕の腕を掴むと、引っ張ってくる。
突然の事で、僕は体勢を崩し、カノジョの膝の上に頭が置かれる。
驚きで目を見開くと、こちらを覗き込んでくるシアさんと僕の瞳が交差する。
吸い込まれそうになる程の翡翠色をした彼女の双眼は、僕を映し出している。
(え? ……これってどういう状況?)
僕は混乱する頭を必死に回転させながら、状況を整理しようとする。
しかし、それよりも早く、カノジョは口を開いた。
「こうして見ると、なかなかに面白い光景ですネー」
「あの、シアさん?」
「フフっ。良い眺めデース」
楽しげに笑みを浮かべるシアさんは、ゆっくりと口を開く。
「こうすれば、アオイとゆっくり話が出来るネ?」
「は、はい……」
僕を見下ろすシアさんの顔は、どこか嬉しそうにも見える。
その表情を見上げながら、改めて自分の置かれた立場を理解した。




