27話
シアさんとの懇親会から数日後、無慈悲にも夏休みを前にして、抜き打ち学力テストが行われる。
その為、こうして放課後の部室で勉強を行っているのだ。
「直前とはいえ、予告をしているだけ良いと思うべきかな?」
「アタシはもうダメだぁ。諦めよう」
佐久穂さんは既に机の上で突っ伏しており、やる気が完全に失せているようだ。
こうなったカノジョは、何をしても動かない事は分かっている為、僕は諦めて自分の課題に取り掛かる事にした。
「あぁ……もう無理ぃ」
「やれば出来る人がそんな事を言わずに。ほら、頑張りましょうよ。」
「そんなこと言われてもぉ」
机に伏せてだらける佐久穂さん。制服から覗く肌は白く、艶やかな髪がサラリと流れる。
とはいえ、僕も問題集を解き進めているものの、集中力が切れ始めてきた頃合いである。
そんな時であった。開けられたままの扉からノックの音が聞こえてくる。
「二人共、頑張っているか?」
「あっ、とーみセンセー! クーラーのリモコンはー?」
「授業時間外の使用は、原則禁止だ」
「ぶーぶー!」と不満の声を上げる佐久間さんに対して東御先生は、呆れ気味にため息をつく。
「後で冷たい物を奢ってやるから、それで我慢しろ」
「やったぜ! センセー大好きっ!」
「現金な奴め」
東御先生は、苦笑いを浮かべながら呟いた。
その時、最近では見慣れた修道服を着た人物の姿が視界に入る。
「あれ、シアさんですか?」
「二人共、こんにちわネー」
「シアじゃん! 学園に来るなんて初めてだよね!?」
佐久穂さんは椅子から立ち上がると、シアさんの元へ駆け寄って行った。
「ハイ。普段は、ミスズやユーコと一緒なのですが、今日は別行動デス。確か日本では、『カワイイ子には旅をさせろ』と言うのでしたか?」
「意味は少し違うが、言葉が出てくるとは。やはり君は優秀なのだと実感させられる」
「ありがとう、レイ。これもルイと沢山お喋りをしていた成果デス」
「道理で佐久穂の欠伸をする姿を、よく見かけると思ったら……」
「……えへへ」
佐久穂さんが照れたように笑うと、東御先生は呆れた様な表情を見せる。
しかし、すぐにいつもの表情に戻ると、シアさんに向かって話しかけ始めた。
「しかし、また突然だねー? 昨日、お喋りをしていた時には、明日来るなんて言ってなかったよね?」
「はい。ちょっとしたサプライズデース。ミスズとレイには、事前にお願いをしていました。ご迷惑をおかけしましたか?」
シアさんは申し訳なさそうな表情を見せるも、佐久穂さんも東御先生はすぐに首を横に振って否定する。
するとカノジョは安心をしたのか表情を和らげた後に、「実はですね―……」と話し始めるのだった。
「ルイから、アオイを少しお借りしたいと思いまして」
「特に瑠衣のモノでは無いのですが……僕をですか?」
「ハイ。もしよろしければ、ワタクシと一緒に来てもらえませんか?」
「それは構いませんが、見回りが……」
そう言いかけたところで口を閉ざす僕に対して、シアさんは優しく笑みを向けてくれると口を開く。
「"穢れ"の事なら心配いらないデスヨ。オミムーやユーコにお願いして対応してもらう事ができましたから」
「オミムー? 麻績村さんのことかな?」
「名前の発音が難しいですからネ。ユーコに相談したらこれで良いと教えてくれました。本人からも許可済みですネー」
「あーうん。オミーだったら、確かにあり得るかも」
佐久穂さんは納得するかのように何度か小さく首肯する。
すると、東御先生は何かを思い出したかの様に声を漏らすと、腕を組みながら話し始めた。
「彼には、何度か手合わせをお願いされたな。『俺がどれだけ強くなっているか試してみたい』とか言っていた気がするが……」
その言葉を聞いた僕達は、顔を見合わせると、思わず黙り込んでしまう。
――――――
集中力が切れ始めたタイミングと、シアさんが訪れたという事もあり、本日は解散となった。
佐久穂さんは、僕をジッと見ていたが、「それじゃあねぇ~」「ばいばいっ!」と手をひらつかせて去って行くと、先に部室から出て行ってしまう。
東御先生は、佐久穂さんが出て行ってから数秒程の間を置いてから、こちらに視線を向けて来た。
「彼女なりに気を遣ったのだろう。では、私もそろそろ行こう。佐久穂に奢ってやると約束もしたからな。戸締まりは頼んだぞ」
「分かりました」
「ふっ」と小さな吐息を零しながら、東御先生は立ち去る。
図らずしも、この場に残ったのは、僕とシアさんの二人だけであった。
「それじゃ僕達も移動しましょうか」
「アオイがよければ、もう少しここの学園を探索してもよろしいネ?」
「東御先生と一緒に来られたのなら、大丈夫かな? それなら簡単に学園内を案内しますよ」
「はいデスー」
シアさんは、嬉しそうに返事をしてくれると、僕の隣に立って歩き出すのだった。




