22話
平日の朝。いつもと変わらぬ風景。
ただ一つ違うのは、朝食を頂いている僕の目の前にいる佐久穂さんのご機嫌が、あまりよろしくない。
「聞いてよアオイ! 昨日の夜にお風呂に入ってたら叔母さんから電話があったんだけど! アオイとの夏休みの予定に、茶々を入れてくるんだよ!」
「……例えば?」
僕がそう問い返すと、佐久穂さんは頬を染めて俯く。
「えっと……その……プールに行かないの? とか言われたり……」
「夏ですからね、確かに良いかもしれません」
あの時の会話を聞かされていた、もとい聞いていた事もあり、佐久穂さんに、心の中で全力土下座。
「……あのさ、アオイはその、アタシの水着姿とか……見たい?」
佐久穂さんがそんな質問を投げかけてきた。
僕が答えるよりも先に、佐久穂さんは慌てて訂正を入れる。
「あ、いや、うん。無理に答えなくてもいいからね! あはは、今のは忘れて?」
「見たいです」
僕は、佐久穂さんの言葉に対して、間髪入れずに返答した。
するとカノジョは、更に慌てる。
「う、うえぇ!? なんでそんなハッキリ言えるのさ!? ち、ちょっと待って。心の準備が、まだ出来てなくて……」
佐久穂さんは、自分の髪を指でクルクルと巻いては解き、を繰り返している。
その姿は、普段のカノジョとは違って見えて、少し新鮮味を感じる。
そんな健気なカノジョの姿を見ていると、うん、隠し事は無理だ。
「瑠衣」
「……なに?」
「懺悔させてください」
「……はい?」
「実は昨日、瑠衣と美鈴さんが会話している時に、僕も傍におりまして」
「え、ちょ、叔母さんと通話してた時?」
「はい、そうです」
「……もしかして、叔母さんと話していた内容も聞かれた?」
「はい。美鈴さんから片方のイヤホンを渡されまして」
「……」
佐久穂さんは、無言で席を立ち、どこかへと向かっていく。僕は、その背中を追いかけた。
カノジョは、僕の自室に入ると、そのままベッドの上に敷かれている布団へと潜り込んだ。
「ちょ!? 瑠衣! 布団に潜らないで下さいよ!」
「うぅ、恥ずかしくて死にそうだよぉ……アオイの前では、健気で可愛らしい女の子でいたかったのにぃ……」
「すみませんでした。でも、大丈夫です。瑠衣は、とても魅力的で素敵で可愛いのを知っていますから」
「そういう問題じゃないのにぃ……」
佐久穂さんは、枕に顔を埋めながら、僕の言葉に反論してくる。
「アタシは、もっとアオイに甘えて欲しいんだよぉ。だから、遠慮しないで何でも言って欲しいんだぁ」
「僕も、最初からもっとストレートに聞くべきだったと反省しています」
「そうだよぉ。アオイはいっつも一人で我慢しちゃうから。アタシは、アオイの為に何かをしてあげたいのに、アオイはアタシに何もさせてくれないんだもん」
「僕は、もっと瑠衣に頼っても良いんですね」
「もちろんだよ! アタシ達は、隣人で相棒なんだから! お互いに支え合っていかなくっちゃ。……それに、アオイが辛い時や苦しい時は、今度はアタシが助けてあげる番だしね!」
「ありがとうございます」
「どう致しまして。……なんかこうやって改まって言うのって、ちょっと照れるよね」
「そうですか? 僕はそこまで気にしませんが」
「そっか。じゃあ、これからはなるべく意識しないようにするよ」
「それが一番だと思います」
「あははっ、確かに。でも、たまには、思い出して欲しいかな」
「善処します」
「そこは断定して欲しかったなぁ」
僕の布団から、ひょっこりと顔を覗かせている佐久穂さんは、頬を膨らませながらも、笑顔だ。
「ところで、瑠衣が僕の部屋に来た理由は?」
「……」
「……?」
「……えへへ」
カノジョは、誤魔化す様に呟きながら、布団へと潜っていくのであった。




