21話
一体どこへ連絡を入れているのやら。
ソワソワとする僕を尻目に、美鈴さんはスマホの音が聞こえる様にと、片側のイヤホンを僕に手渡す。
そして人差し指を口元に置いて、静かにとの合図を送っていると、呼び出し音が途切れ、どこかと繋がる。
不意に、よく隣で聞く人物の声が、イヤホンから聞こえた。
『もしもーし。どうしたの、美鈴叔母さん? 何かあったー?』
「やあやあ、瑠衣ちゃん。ちょっと話がしたくてね。今は何をしているんだい?」
『んーとねぇ、今はお風呂に入って一息……ってそうだ! 聞いてよ叔母さん!』
佐久穂さんは、何かを思い出したかのように、大声で叫ぶ。
これは聞いていてはダメなやつでは……?
「どうしたんだい?」
『あのね! アオイが夏休みになったら、デートしよって誘ってくれたんだよ! 動物園とか! 水族館とか!』
「おぉ、良かったじゃないか! そういう事なら、『祓魔師』の休みを調節してみよう」
『え!? ほんと!? やったー!!』
そう佐久穂さんに伝える美鈴さんは、先ほど以上にニヤニヤと僕を見つめてくる。
だが、この状況で僕に出来る事は、口を閉じる事だけである。
時折、聞こえてくる湯船の音が、想像力を引き立ててしまう。
「しかしだ、瑠衣ちゃん。それらアトラクションも楽しいだろうが、もっと良い場所があるぞ?」
『いいところー?』
「夏といえば、プールに決まってるじゃないか」
佐久穂さんは、美鈴さんの言葉を聞き、少しの間、沈黙。
そして押し寄せてくる言葉の数々。
『あああアオイとプールだなんて! いや別に嫌じゃないよ!? でも、流石に水着はまだ恥ずかしいっていうか……アオイに見られて呆れられたら、アタシもう生きていけないかも……』
直後、湯船に頭を沈めたのだろうか、お湯の跳ねる音と、佐久穂さんが発した言葉の残響が耳に届く。
『うぅ……叔母さんが変な事を言うせいで、のぼせそうだよ。さっきの、聞かなかった事に出来ないかなぁ。』
「出来るよ? その代わりに立科君は、瑠衣ちゃんの代わりに、アレクシアちゃんと交流を深める事になるが」
『オバサンの鬼! アクマ! 人でなしー!』
「瑠衣ちゃんも言うようになったねぇ」
美鈴さんは、楽しげに笑っている。
「まっ、立科君が瑠衣ちゃんの代わりにーっていう行動はありえないね。瑠衣ちゃんが望むなら別だけど」
『それはあり得ないもん!』
「でしょ? 良かったねぇ立科君。キミは瑠衣ちゃんからとても愛されているよ」
『も、もぉ、叔母さんったら! 恥ずかしいよぉ!』
「はははっ、じゃあそろそろ切るよ。身体を冷やさないように。またね」
美鈴さんは、電話を切る。
僕はといえば、顔を真っ赤に染めて項垂れていた。
「いやー最後ので気づくかと思ったけど、我が姪っ子はそれどころではなかったようだね!」
「……はい」
「その表情を見れば、楽しんでもらえて何よりだ。立科君もまだまだ若いなぁ。ところで話は変わるが、明日の予定は空いているかい?」
「明日は、学園が終われば見回り以外は、特に用事はありませんが」
「それならば、私と一緒にアレクシアちゃんの所へ行こう」
「オタリーさんの元へ?」
「最初の一歩は、誰しも緊張するものだ。そこで、私が同行すれば心強いと思ってね」
美鈴さんが、僕の力になりたいという気持ちは、十分に伝わってきた。
断る理由もない、彼女の申し出を受ける。
「分かりました。よろしくお願いします」
「ふむ。素直でよろしい。それでこそ私の可愛い部下? 甥っ子? もう婿に来なよ」
冗談なのか本気なのか分からない事を、美鈴さんは笑顔で話す。
ただ、僕を励まそうとしてくれている気持ちは、十分伝わってきた。
(修正)
イヤホンがスピーカーホンになっていました




