20話
「アオイ! 絶対だぞ! 約束破ったら泣いて喚いてご近所の皆さんに迷惑かけてやるからね!」
「分かっているよ。必ず行こう」
「にしし! 嬉しいなぁ。それじゃまた明日! いつも送ってくれてありがとね!」
「こちらこそ、お疲れ様」
僕は佐久穂さんに別れを告げると、ゆっくりと歩き始める。
隣にカノジョがいないだけで、寂しさを感じてしまうのは、きっと気のせいではないはずだ。
夜の空を見上げると、あれだけの大事があったにも関わらず、雲一つ無く星々が煌めいている。
そんな夜道を一人で歩いていると、スマホが振動した。
画面を確認すると、メッセージアプリに通知が届いている。差出人は、佐久穂さんだった。
『おつかれさま!』
たった一言だけの文章。しかし、それが何よりも嬉しかった。
僕も同じように、メッセージを送信する。
『お休みなさい』
すると、すぐに既読マークが付いた。
『おやすみ!』
僕達の距離感を表すような、短いやり取り。それでも、彼女と繋がっていると感じられる。
そんなやりとりが、僕の心を満たしてくれた。
しかし、それとは別の問題が、僕の心を曇らせる。
「……やっぱり美鈴さんに、オタリーさんの事を説明しておこう」
そう呟く僕の声は、自分でも分かる程、覇気が抜けていた。
佐久穂さんとの会話で、少しだけ気持ちが楽になったが、やはりまだ不安が消えていない。
オタリーさんが言っていた、『神を信じてはいない』という言葉が、引っかかっているのだ。
僕は、美鈴さんに連絡を入れるべく通話ボタンをタップすると、呼び出し音が鳴り、しばらく待つと、声が聞こえてきた。
「もしもし? 立科君? どうしたんだい?」
「こんばんは、美鈴さん。実は、少し相談したい事が……」
「なになに? もしかして瑠依ちゃんと喧嘩でもした?」
「オタリーさんの事なので、場合によっては、そうなるかもしれません……」
「……ふむ、よしきた! 今から立科君の家に向かおうじゃないか!」
「い、いいんですか?」
「当たり前さ。本人が居る場では、話しづらい内容だったんだろう? 言葉を濁しているようだし、直接、私が聞くのが一番いいんじゃないかな?」
「すみません。ありがとうございます。それでは、お待ちしています」
「了解! すぐに向かうよ」
「はい。お願いします」
僕は電話を切ると、自宅へと急ぐのであった。
――――――
着替えもせずに、ぼーっと椅子に座っていると、呼び鈴の音が聞こえる。玄関を開けると、そこには満面の笑みを浮かべた美鈴さんが立っていた。
「おいっす、立科君。遊びに来たよ」
「お忙しいところすみません、美鈴さん。わざわざありがとうございます」
「なに、気にする事は無いよ。私が好きで来たんだ」
「立ち話もなんですし、上がってください」
「お邪魔しまーす」
「お茶を用意しますね。好きなところに座って下さい」
用意したお茶を、お互いに一口つけた後、早速、本題に移る。
オタリーさんが呟いた言葉の内容は、シスターとは思えないものであったと、美鈴さんに伝える。
「神様を信じていない、か……」
「はい。何か、思い当たる節はありませんか?」
「うーん。資料に書かれている限りでは、彼女は、模範的とも呼ばれているシスターなんだがなぁ」
美鈴さんは、顎に手を当て、考え込む。
「もしかすると、私達が思っている以上に、彼女……いや、それ以外も含めて事情があるのかもしれない。だがね、立科君よ」
「はい」
「いま立科君に必要な事は、アレクシアちゃんとのコミュニケーションであると、私は考えている」
「……」
「会話を重ね、お互いの人となりを理解する努力、これはとても大切なことだ。特にアレクシアちゃんは、キミが考えている以上に、様々な経験をしてきているのだから」
「……美鈴さんのおかげで、自分がとても浮薄な人間であると実感して、反省しています」
美鈴さんは、僕の肩をポンッと叩く。
「立科君。私はキミに、『祓魔師』の才能があると知った時から、キミについて調べ上げたよ」
「……」
「内容的には、キミしか知らない事も含まれている。瑠衣ちゃんですら聞いた事のない話も、当然ながらね」
僕は、ただ黙って美鈴さんの話に、耳を傾ける。
「立科君、改めて聞かせて貰うよ。こんな私を、立科君は信用してくれるかい?」
「もちろんです」
「ふふっ、ありがとう。とても嬉しいよ。……答えには気づいたかい?」
「はい。瑠衣と同じ……は、難しくても、僕なりにオタリーさんと向き合って接していこうと思います」
「うん。その意気だ。頑張りたまえ」
「はい!」
「あぁ、そうだ。立科君、ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「なんですか?」
「瑠衣ちゃんとは、この話はしたのかい?」
「はい。瑠衣は、神様を信じていても、信じていなくても、オタリーさんは、友達だから気にしない。と」
美鈴さんにそう伝えると、笑いを堪えるような表情を見せる。
「そっか。瑠衣ちゃんらしいな」
「僕もそう思いました」
「いやはや、キミ達は本当に相性の良いコンビだよ。……よし! 立科君が私に全幅の信頼を寄せてくれるのならば、私もそれに応えねば、叔母さんの沽券にかかわる!」
「信頼している事は、事実ですし、日頃からお世話になっていますから、そんな……」
僕の話を聞くまでもなく、美鈴さんは、どこかに連絡を入れ始めたのであった。




