18話
オタリーさんの手にしている銃から放たれた弾は、"穢れ"の頭部に直撃し、"穢れ"はそのまま横たわる。
じきにこの空間は消え去り、日常が取り戻されるはずなのだが、視線の先にいる人物のせいだろうか、現実感が無い。
美鈴さんから見せてもらった写真と同じ顔立ちで、身長は高く、肌の露出は、顔以外ほぼ無いに等しい。
唯一、写真と違うところは、銃を収める為のホルスターが腰に巻かれており、くびれの美しさが際立っている。
「……」
「アオイ! 無事!?」
「はい、おかげさまで僕は大丈夫です。貴女がアレクシア・オタリーさんでよろしいでしょうか? 助けていただき、ありがとうございます。」
「イエス。アナタ達がミスズから聞いている人達ネ。ゆっくりと紅茶を飲みながら自己紹介をしたいところではありますガ、その前に済ませるべき事がありますネ」
そう言うと、彼女は倒れている"穢れ"の元へと歩み寄る。
「ミスター・タテシナ。アナタの力をワタクシに見せて下さい。ピュアリフィケイションではなく、ピュリファイを行える力があるか、どうかヲ」
「言葉の違いが難しいのですが……いつも通りの事しか行えませんよ?」
「構いまセン。お願いしマス」
「分かりました」
僕は、倒れている"穢れ"に対して、手を伸ばし、浄化を行う。
粒子の光が僕の手に集まり、僕の中へと吸収されていく。やがて、"穢れ"は消え去った。
「……終わりました」
「お疲れ様デス。何か変化を感じられますカ?」
「すぐには分かりません。でも、"穢れ"に吹き飛ばされた時の痛みが、無くなっています」
「資料に書かれていタ、ヒーリングの効果ですネ。ワタクシにハ、その力はありませン」
「そうなんですか?」
「イエス。近し能力で例えるナラ、シンタイキョカ……? デスネ」
頬に人差し指を当てながら、言葉に自信が無さそうに答えるオタリーさん。
「身体強化。エンチャントうんたら~で通じるかな?」
「それデス! ミス・サクホ。アナタの事もウワサになっていますヨ!」
佐久穂さんの出した単語に、オタリーさんはウインクをしながら、嬉しそうに話す。
「アタシの事も? どんな風に?」
「ヤマトナデシコが、サムライと共ニ、"ケガレ"と戦っていると聞きまシタ!」
「瑠衣が大和撫子なのは事実だとして、僕は侍とは程遠いと思うのですが……」
「アタシはどっちかって言うと、ヤンチャ娘って感じだし。ゆーこさんみたいな人をそう呼ぶんじゃないかな?」
「ソウナンですカ? ミス・サクホもトテモ美しいと思いますガ……」
「いやぁ……写真で見た以上に、綺麗な方からそう言われてもなぁ……」
佐久穂さんは、両手で頭を抱えながら項垂れる。
カノジョは、自分の事を普通だと思っているみたいだけど、客観的に見たとしても、佐久穂さんは美人の部類に入る。
その事は、僕は良く知っているつもりだが、当の本人はあまり自覚していないらしい。
そんな彼女の様子を見かねたのか、オタリーさんが口を開く。
「大丈夫デスヨ、ミス・サクホ。アナタがとてもチャーミングであることハ、ワタシが保証しマス」
「そ、そこまで言われると、照れるというかなんと言うか……それも神様の声なの?」
「……ワタクシは、神を信じてはいませんヨ。これはワタクシ自身の言葉デス。だから安心して下サイ」
「いまシレっと凄い事言ったよね? ……でも、嬉しいな。オタリー自身の言葉だって言ってくれたのが。ありがとっ!」
佐久穂さんは、満面の笑みを浮かべると、そのまま勢いよくオタリーさんに抱き着く。
「オゥ! ミ、ミス・サクホ? どうしましたカ? 急にハグをシテくるなんて……。ア、アレ? ソ、ソーリー! ワタクシとしたことが、ハグを返すのを忘れてイマシタ! 失礼しまシタ!」
オタリーさんは慌てて佐久穂さんを抱き締め返し、離れようとするが、カノジョはさらに強く抱きしめ、離そうとしない。
「いいの! ハグしたかったから! ダメだった?」
「イエ、ダメではありませんケド……」
「じゃあこのままでいいじゃん。ね? それに堅苦しい呼び方はやめて、名前で呼ぼっ?」
「は、ハイ! では、ルイとお呼びしても宜しいですカ?」
「うん! よろしくね! あたしもオタリーの事、名前で呼ばせてもらってもいい? それと敬語はいらないからさ!」
「勿論デス! では、これからはルイと呼びマス。ワタクシのことも、気軽にシアと呼んでくだサイ」
「オッケー! シア、これからよろしくね!」
「はい! こちらこそデス、ルイ!」
二人は、お互いに笑顔を見せ合いながら抱き合っている。
何だろう。二人を見ていると、こちらまで心が温かくなっていくのを感じる。
ナントカの視覚化なんて言葉を聞いたことがあるけど、まさに今が、それかもしれない。
ただ、気になる言葉も聞こえた。
オタリーさんは、神様を信じていない? シスターなのに? 一体、どういう意味なのだろう。
二人の間にイオも混ざり、僕は一人、その言葉の意味を考え続けていた。
……僅かに揺れた樹木のざわめきにも、気付かずに。




