7話
更衣室から出て、待ち合わせの場所まで歩みを進めていると、既に佐久穂さんの姿があった。
カノジョの顔がこちらに向き、表情がパッとする。僕を見るなり駆け寄ってきた。
「おおっ! アオイ! 礼服姿、カッコいいじゃん!」
「ありがとうございます」
佐久穂さんは笑みを浮かべる。礼服効果とも言うべきなのだろうか、いつもより一層、輝いて見え、可愛さよりも美しさが勝っているように感じる。
カノジョが身に纏っている衣装は、僕と似た配色の上着にタイトスカートの姿。裾の部分にある赤いラインが特徴的だ。
そしてストッキング……というよりは、タイツであろうか。肌の色は一切見せず、黒一色。しかし、それが逆にいつもと違う雰囲気を作り出している。
「瑠衣もよく似合っています。とても綺麗ですよ」
「き、急に褒めるのは卑怯だっ! 不意打ち過ぎる! それも綺麗だなんて……反則だよ……」
佐久穂さんは俯くと、ボソッと呟いた。
普段、僕の方を見つめてくる事が多い佐久穂さんが、目線を合わせようとせず、こちらをチラリとだけ見つめては視線を戻す事を繰り返している。
僕はその姿がとても愛らしく感じて、つい笑い声が漏れてしまう。
「もうっ! 笑う事ないでしょ!」
「すみません。ギャップがあって、その……」
「その?」
「可愛いなって」
「……っ!?」
カノジョの顔が一気に赤くなる。耳までも赤くなっており、恥ずかしさのあまりか目を逸らしてしまう。
「……ばかっ」
佐久穂さんから小さく呟かれた言葉は、怒るというよりも照れた感じの声色で発せられた。
僕はそんなカノジョの様子を眺めていると、どこからか視線のような物を感じた。
そちらの方へと振り向いてみると……通路の角から顔を半分だけ覗かせている女性の姿が見える。
あの人は……以前、『祓魔師』の試験の際にもお世話になった、受付のお姉さんだ。
僕が見ている事に気づいたのか、口元に手を当てて「シー」と言っているのが分かった。その姿を見て、先程のやり取りを聞かれていたのだと理解する。
「ねえ、どうしたの?」
佐久穂さんは首を傾げて聞いてくる。僕は何と説明しようかを迷った挙句、誤魔化す方向でいく事に決めた。
「いえ、なんでもありませんよ」
「本当に? 何か隠してたりしてないよね? 今更だけど、私に言いにくい内容だったりとか……」
「違いますよ。妖精さんと目が合ったぐらいです」
「へ? 何それ?」
「直ぐに分かります」
「またそうやってはぐらかす! まあ、いっか。そろそろ時間だし、移動しよっか」
「そうですね。行きましょうか」
「うん!」
――――――
僕達は、任命式が行われる中央ホールへと向かっている最中であった。
道中、僕とカノジョは、お互いに手を繋いで歩いている。
いざ本番かと思うと急に緊張してしまい、気持ちを落ち着かせようとしていたら、佐久穂さんが手を握ってくれたのだ。
試験の時とは、逆だ。なんて思いながらも、握り締めた手のひらの感触は、僕の心を安心させてくれる。
「緊張、解れた?」
「はい。ありがとうございます」
「良かった。でも、もう少しこうしててもいい?」
「もちろん」
僕は握り返すと、そのままの状態で歩き続ける。カノジョと共に進む道は、まだ始まったばかりなのだ。
廊下を進んだ先に、一人の人物がこちらを待ち構えている。その人物は、僕達の前に立つと、深々と頭を下げた。
「お久しぶりでございます。この度は、『祓魔師』の任に就かれるとの事で、おめでとうございます」
「ありがとうございます。お姉さんの事は覚えています。受付や試験の際にお会いしましたよね?」
「はい。改めて自己紹介をさせて頂きますね。私の名前は小海優琴。お二人より少しだけ早く、『祓魔師』としての資格を手に致しております」
「お姉さんも、『祓魔師』だったんだ! なんか嬉しいかも! あっ、アタシは、佐久穂瑠依っていいます!」
「立科葵です。よろしくお願いします」
僕と佐久穂さんは挨拶を交わす。すると、お姉さんは笑みを浮かべながら僕達を見ていた。
「佐久穂さん、立科さん、どうぞ宜しくね。わたくしのことは、気軽に名前で呼んでくださると嬉しいわ」
「分かりました! ゆーこさん!」
「僕は何だか恐れ多くて……小海さんでいいでしょうか?」
「……立科くん。お姉さんは悲しいわ。どうしてそんなに他人行儀なのかしら? 先程、秘密を分かち合った仲だというのに……」
「アオイ。その話、詳しく」
涙なくして語れないという仕草をする小海さんと、真顔で詰め寄ってくる佐久穂さん。正直、怖いんですけど。
「ちょっ、ちょっと待った! 誤解です! 僕は何も言ってません! 小海さんとは目が合っただけで、他には何も……」
「ふぅん? 目が合うだけで分かり合える仲なんだ。へぇー。アタシとだってまだなのに」
人間は、本当に怒っている時は、頬を膨らませないし、まばたきをする事も忘れるらしい。
ただ一点、僕を見つめ続けるカノジョは、笑顔のままだが、目が全く笑っていない。
しかし、佐久穂さんから嫉妬心のようなものを感じられる事に、自分でも言葉に出来ない喜びを感じてしまっている。
しばらく続いた沈黙は、小海さんの抑えつける様な笑い声によって破られた。
「うふふっ、ごめんなさい。佐久穂さんの気持ちが分かる気がするわ。立科くんが可愛くて、つい意地悪しちゃいました」
「へ? どういう事ですか? ゆーこさん?」
「二人がロビーに居た時に、こっそりと隠れながら、様子を見ていたの。立科くんに言われなかった? 妖精さんがいる。って」
「……まさか、ゆーこさんは全て見てた?」
「ええ。勿論」
カノジョの顔がみるみると赤くなっていく。
「もう、なんで黙っていたのさ」
「すみませんでした。言うタイミングを逃してしまいまして」
「……ゆーこさん。その……見た感想は……?」
「可愛いなぁと思いました」
「っ!?」
「佐久穂さん、とても可愛かったですよ」
「あ、ありがと……でも恥ずかしいので、二度も言わないで欲しいデス……」
新しい登場人物の名前に、ルビを振る設定を忘れてました。




