4話
翌日、教室に入るとクラスメイトから挨拶をされながら席に着く。
ふと、昨日の出来事が頭を過り、僕は自分の腕を眺める。そこには傷一つなく、至って普通の腕だ。
僕の様子を見ていた隣の席に座っている佐久穂さんが、僕の様子を窺う。
「アオイ、本当に大丈夫だった?」
「はい、おかげさまで」
僕は笑顔で答えると、佐久穂さんは安心した様子で、「良かった」と呟いた。
原因が分からぬまま、いつもと変わらないやり取りをしながら僕達は学校生活を謳歌する。
そうしていると、僕らのクラスの担任である先生の姿が現れ、僕らの方へ向かって来る。
「立科、佐久穂、二人に用事があると言われているお客様がいらっしゃっている。授業は受けなくていいから、至急、事務室へ向かってくれるか?」
僕と佐久穂さんはお互いの顔を見合わせながら首を傾げる。
「まあ、行ってみれば分かると思うぞ?」
そう言って先生は、職員室へ戻って行った。
「なんだろうね? とりあえず、行こうか」
佐久穂さんの言葉に従い、僕は彼女と肩を並べて歩き始める。
「わざわざ呼び出しなんて珍しいよね」
「確かに、今までこんな事は無かったですし」
―――――
佐久穂さんと会話を交わしながら歩く事、数分。
事務室の前にはスーツ姿の男性二人が、入り口の両脇に立つという異様な雰囲気を漂わせている。
僕と佐久穂さんは怪しがるようにしながら男性の元へ足を進めると、一人の男性が話しかけてきた。
「君達が立科君と佐久穂さんか?」
僕らは軽く頭を下げてから、「はい」と答えると、促されるまま事務室内に入る。
そこには、スーツの上に白衣を纏った一人の女性がいた……と思いきや、突然、佐久穂さんが声を挙げる。
「おばさん!」
「誰がおばさんだ! お姉さんと呼べと何度も言っているだろう!」
「……お知り合い?」
僕は小声で佐久穂さんに尋ねると、小さくコクリと肯く。
「アタシのお父さんの姉。だからおばさんだよ!」
「ふふふ……瑠衣ちゃんには、きちんと躾けてあげなくてはならない時が来た様だね!」
佐久穂さんを名前で呼ぶ白衣の女性は、佐久穂さんからすると父方の伯母にあたるようだ。
「まっ、それは横に置いといて。ぼーっと突っ立っていないで座ったらどうだい? お茶ぐらいは出すよ?」
女性はソファに腰を掛けながら僕達に向かって指示をする。
「は、はい」
僕と佐久穂さんは横に並ぶ形でソファに座り、女性は手慣れた様子でお茶を用意してくれる。学園の関係者なのだろうか?
「最初に自己紹介からしておこうか。私は佐久穂美鈴。そこにいる瑠衣ちゃんの伯母にあたる者だ」
「ご丁寧にありがとうございます。僕は立科葵と申します」
僕の隣にいる佐久穂さんも小さな声を出して何かを発言していた。
「さてと、自己紹介も終わった所で本題……の前に立科君に伝えなければならない事があったよ」
佐久穂さんはそう言うと席から立ち上がり、こちらに向けて頭を下げる。
「こちらの不手際に君たちを巻き込んでしまい、本当に申し訳ない」
唐突に謝られた事で、僕自身もどうしてよいのかわからず、隣にいる佐久穂さんと一緒に戸惑ってしまう。
「い、いえ! 特に何か被害が出たわけでもありませんから!」
「瑠衣ちゃんを庇った際に、立科君が怪我をしたと報告が挙がっている。だから私は直接謝りに来たんだよ。そして感謝を伝える為に。あの時、瑠衣ちゃんを助けてくれて、本当にありがとう」
そう言いながら再び頭を下げる佐久穂さん。
「そんな気にしないでください。たまたま運良く助ける事ができただけですので……」
僕が慌てて目の前にいる佐久穂さんを止めると、彼女はようやく頭を上げた。
「キミは良い男だね。瑠衣ちゃんが気に入るのも分かるよ」
なんだかイタズラそうな笑顔で、にひひと笑う姿をみると、隣人との血の繋がりがあるのだなって考えてしまう。