3話
放課後になり、久しぶりに佐久穂さんと部室へ歩みを進める。
廊下を歩いていると、窓から校庭の様子が見え、運動部が汗を流していた。
部活に入っていない生徒は、帰宅の準備を済ませ、学園を後にしていく。
この光景を見ると、不思議と夏が始まるなと感じさせられる。ここでは初めて見るのにね。
隣人との会話は途切れる事もなく、目的地である『自然研究同好会』の扉の前に着いた。
東御先生から預かってきた鍵をポケットから取り出して、錠を開ける。
そのまま室内に入ると、むわっとした空気が肌に触れ、外気との差に驚かされる。
「うへぇー、あっつぅ」
「これは流石に……耐えられませんね」
佐久穂さんが声を上げると、それに同意するように言葉を漏らした。
二人して窓を開け、換気を行うと、ようやく部屋の暑さに慣れ始める。
「ふうっ。やっぱ、こっちの方が涼しいね」
「ですね。流石にあのままではいられないです」
「あははっ、そうだね」
僕達は、お互いに用意した椅子に座るなり、一息吐く。
「さて、何の話をする?」
「そうですねぇ……」
僕達の視線は、ホワイトボードに向けられる。
そこには、『来月の予定』『議題一覧表(仮)』『その他、連絡事項等あれば書き込んで下さい!』といった文字が並んでいる。
最初は、スマホのアプリ等でやりとりをすれば良いと思ったが、それだと部活動っぽくないと佐久穂さんに却下された。
その意見に反対出来る者はおらず、実際に使い始めてみると、案外悪くないと思えた。雰囲気は大切だ。
「どれにしよっかー」
佐久穂さんは、楽しそうな笑みを見せながらペンを手に取る。その様子を見て、僕の方も何となくやる気が湧き上がってきた。
「この暑さは、まさに夏! って感じでテンション上がるよね!」
「今の季節で暑かったら、本格的に夏になったらどうなるんですかね」
「そりゃあもう! 最高だよ!」
カノジョの言葉を受けて、僕は、今より更に気温が上がると想像する。それはもう、灼熱地獄と言っても過言ではないだろう。
「でも、ここは山に囲まれていて、それなりに標高もあるから、盆地ほどは酷くないよ」
「確かに。東京とかはもっと暑いと聞きますから」
「うんうん。だから、そこまで気にしなくてもいいと思うなー」
そう言うと、佐久穂さんは窓の外を見つめる。追う様に顔を向けると、視線の先には、雲一つ無い青空が広がっていた。
議題から反れ、しばらく他愛のない会話を続けていると、コンッコンッと小気味の良いノック音が室内に響き渡ると、続けて女性の声で「失礼します」との声が聞こえた。
その音に、僕達が振り返ると、一人の女性が室内へと足を踏み入れる。
現れた人物は、僕達が所属する同好会の顧問であり、担任でもある、東御先生であった。
「すまない。待たせたな」
東御先生は軽く頭を下げて謝罪すると、空いている席に腰を下ろした。
「センセーお疲れ様ー」
「ああ、ありがとう。お前達も久々で悪かったな」
「いえ、先生のお陰でこうして活動が出来ていますから」
先生が入室するなり、佐久穂さんは笑顔で労いの声を掛ける。僕も同じ思いだったので、カノジョに続く形で声を掛けると、東御先生は、少しだけ表情を和らげて感謝の意を示してくれた。
「先生。今日は何か連絡事項でも?」
「ああ、『祓魔師』に纏わる話がある」
「だとすれば、窓を閉めた方がよろしいでしょうか?」
「重要な話っぽいのは分かるけど、締め切ると暑くない? センセー?」
「熱中症問題などを考えると、佐久穂の言う事は正しい。なので職員室からこれを借りてきたぞ」
そう言って、東御先生はリモコンを取り出して、机の上に置く。
「おお~! これはもしや! クーラーを動かすのですか!? センセー!」
「正解だ、佐久穂。稼働確認を口実にして、クーラーの試運転が出来る」
「マジですか! やったー! 流石はとーみセンセー! 話が分かる!」
「佐久穂さん、先程までこの暑さが夏と豪語していたのに、切り替えが早過ぎませんか?」
「ソレはソレ! コレはコレ! 別腹的なアレ!」
「相変わらず、佐久穂は分かりやすい反応をしてくれるな。そういう事だから窓を閉めてもらえると助かる」
「了解しました」
僕と佐久穂さんは、手分けして窓とカーテンを閉める。
東御先生が冷房のスイッチを入れてしばらくすると、クーラーから冷たい風が吹き出し、部屋を冷やし始める。
「ふわぁ……涼しくなってきた。改めて感じると、やっぱり違うね」
「はい。快適ですね」
それぞれ感想を口にしていると、東御先生がコホンと咳払いをして注目を集める。話を始めても良いか? という合図だったようだ。
僕達は姿勢を正すと、意識を東御先生に向ける事にした。




