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ゼロ距離カノジョと祓魔師への道  作者: 詩永あえし
第一章 ゼロ距離なカノジョ
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最終話 ゼロ距離カノジョと祓魔師の道

 あの日から、ずっと考えていた事がある。佐久穂さんとの今後について。この想いを伝えるべきなのか、伝えるとしたら、どの様な言葉で伝えればいいのだろうか、と。

 佐久穂さんと過ごす時間は楽しくて、心地よく感じている。だけど、僕は彼女とどうなりたいと思っているのだろう。正直、自分でも分からない。

 僕は彼女に特別な想いを抱いているのかもしれない。だが、それは僕の一方的な気持ちに過ぎないのではないか? 佐久穂さんにとって僕は、ただの友人というだけの存在ではないのか?

 もしそうならば、僕はきっと後悔する。佐久穂さんとの関係を、友人という枠に収めてしまう事を。自分の感情を押し殺して、現状維持を選ぶというのも違うと思う。


 佐久穂さんと一緒にいる事は楽しい。彼女が僕に笑いかけてくれた時は、幸せを感じる。

 佐久穂さんが困ったような表情を見せた時には、どうにか助けになりたいと心から思う。

 佐久穂さんが泣いていた時にも、涙を拭ってあげたいと、傍にいたいと願ってしまうのだ。


 思考が段々と遠のいていくのが分かる。目覚める時が近いらしい。

 この短い間に、僕の気持ちに名前を付ける事は出来なかったけど、僕の中に生まれた想いは、否定しない。

 佐久穂さんを想う事が出来たから、僕は前に進む事が出来る。だから、どうか僕を見守っていて欲しい。


 ―――――


 ゆっくりと瞼が開く。見慣れぬ光景に少し困惑したが、徐々に頭が冴えてくると、先程までの出来事を思い出し始めた。


(そうだ、確か、試験官を倒した後に気絶してしまったんだ)


 身体を起こそうとするが、腹部と足に心地よい温もりと重さを感じ、視線を向けると腹部に佐久穂さんが寝息を立てながら僕に寄り掛かっている事に気付く。足元にはイオの頭が見え、寝ているようだ。

 彼女に視線を向けながら、指で髪をそっと触る。柔らかい髪質だ。所々で髪が跳ねているのが可愛い。思わず頬が緩んでしまう。

 佐久穂さんは起きる気配が無いようだ。寝ている時の佐久穂さんは、普段と違って何処か幼さがある。

 寝ている姿を見つめていると、佐久穂さんは僅かに身体を動かす。そして寝言で僕の名を呼ぶ。


「……ん……アオ……イ……?」

「はい、おはようございます」

「……あれ? アタシ、寝ちゃったみたいだ」


 寝ぼけ眼で周囲を確認する佐久穂さん。そんな佐久穂さんを見て、僕達は自然と笑顔になっていた。佐久穂さんは起き上がると、大きく伸びをした。制服の第一ボタンは外され、緩めてあるネクタイは、身体の線に沿うように着崩されている。

 佐久穂さんは欠伸を噛み殺し、僕を見た。


「よく眠れたかな? 寝坊助さん」

「はい、とても良い気分です」

「そっか、良かった」


 僕が答えると、佐久穂さんは安心しきった様子を見せる。


「びっくりしたよ、アオイが抱きしめてくれた! と思ったら、そのまま寄りかかって気絶しちゃうなんて……アオイも意外と大胆だったりする? 」

「ごめんなさい、ハッキリとは覚えてないんです。目が覚めたら、こうなっていたので」

「う~ん……そうなんだ。何となく残念な様な……でも、嬉しい」


 僕が謝ると、佐久穂さんは小さく呟き、何か考え込むと僕をジッと見詰めて来た。


「……ねぇ、アオイ。もう一度やって貰っても、いいですか?」

「……いいですよ」


 何を求めているのか察しがついたので、再び佐久穂さんを力強く抱き締めてみる。すると、今度は僕をしっかりと抱き締め返してきて、彼女は耳元で囁く。


『やっぱり落ち着くなぁ』


 佐久穂さんの声音はとても優しいもので、思わず聞き入ってしまう。

 僕の腕の中で佐久穂さんが、自由奔放に動き回り、呼吸を繰り返す度に、甘い香りが鼻腔をくすぐる。佐久穂さんの吐く呼気が、僕の肌に触れ、その感触に心臓が高鳴っていく。

 このまま佐久穂さんを抱き締めていたい衝動に駆られるが、流石にこれ以上はまずいだろうと思い、佐久穂さんを離す。


「ふぅ、もう終わりなの? もっと甘えてみたかったのになー」

「いや、それは……ちょっと勘弁して欲しいかも……」


 不満げな声を上げる佐久穂さんに、僕が返答に窮していると、彼女は悪戯っぽい笑みを僕に向けた。


「照れてるの? ……可愛い」

「……そういうところだよ、佐久穂さん」


 僕の指摘に、佐久穂さんは首を傾げる。こういった仕草をする彼女は、天然なのか、はたまた意図的に行っている事なのか……。

 まあ、どちらにせよ、今のやり取りは可愛すぎるので、反則だと思う。


 ―――――


 イオが構って欲しげに僕に飛び乗ってきたので、労いも兼ねて全身を撫で回していると、嬉しかったのか尻尾を振り回しながら頭を擦り付けてくる。その様子が愛らしく思えた僕は、優しく抱き寄せ、喉元をくすぐるように撫で上げた。

 すると、僕に抱かれながらもお腹を晒してくるので、マッサージするように指圧していくと、嬉しさのあまりゴロゴロと音を鳴らし出した。


「立科君は、いつもこんな風にイオちゃんと遊んでいるのかい?」


 声を掛けられた方へ振り向くと、そこには美鈴さんと東御先生が立っていた。いつの間にやって来たのだろうか。

 美鈴さんは、白衣を纏っており、東御先生は、いつもどおりのスーツ姿なのだが……目は赤く腫れており、化粧も所々崩れている。


「ええ、力の調節も含めて、訓練に付き合ってくれるんですよ」

「なるほどね」


 美鈴さんは納得したような表情を見せたが、どうしても隣にいる東御先生が気になる。一体どうしたというのだろうか? 僕の疑問に気付いた美鈴さんは、ニヤリと笑うと、僕の肩に手を置いてきた。


「キミ達の奮闘に感動して、ちょっと泣いただけさ」

「……佐久穂先生、余計な事は言わなくて結構です」


 僕としては恥ずかしかったのだが、二人が仲良さそうにしている様子を見るのは悪くないと思えるから不思議だ。

 佐久穂さんに視線を向けると、彼女は僕の意図を汲み取ってくれたのか、口を開く。


「そういえば! 試験の結果ってどうなったのか、聞いていないよね!?」


 佐久穂さんが思い出したかのように尋ねると、二人の空気が変わった事を僕は感じ取った。


(この二人って似てる?)


 そんな事を考えていると、「ああ……」という低い声で返事をしたのは、美鈴さんだ。その表情から、彼女が試験結果を伝えても良いかどうか迷っている事が分かる。

 しかし、ここで躊躇うという事は、何らかの理由があるからではないのだろうか?


「大丈夫です。僕はどんな事でも受け止めますから」


 僕が伝えると、美鈴さんは目を瞑り、大きく深呼吸をして口を開いた。彼女の瞳は、決意に満ちているように見える。

 次の瞬間、美鈴さんの口から発せられた言葉を聞く―――。


「二人とも、合格だ」


 美鈴さんが放った一言を聞き、しばしの沈黙。次第に内から感情がせり上がり、爆発した。

 この時ばかりは、何もかも忘れて声を挙げ、抱きしめ合いながら喜びを分かち合う。

 僕と佐久穂さんは、互いの顔を見て、涙を流しながら笑顔で笑い合ったのだ。


 ―――――


「いやはや、まさか彼に勝利するとは、思ってもいなかったよ」


 美鈴さんは、椅子に座りながら僕の方に視線を向け、愉快気に話し始めた。


「私は、二人を信じていたぞ。きっと勝つと信じていたさ」

「おやおや? 試合中に今にも飛び出しそうだったのは、誰だったかな?」


 東御先生の言葉に対し、美鈴さんが茶化すと、「い、いやまぁ、あれは、その、なんと言うか」と狼煙を上げた。

 そんな様子に、僕と佐久穂さんは思わず吹き出してしまう。

 先生は、僕達の様子に「コホン」と咳払いすると、話を戻そうとしてきた。


「立科が気絶した後の事だが、医務室に運ばれた後、手当てをし、君が目覚めるまで待つ事にしたんだ。身体の調子はどうだ?」

「全身に痛みはありますが、動けない程ではなさそうだと思います」


 僕の返答を聞いて、東御先生は満足そうな笑顔を浮かべた。


「それなら良かった。骨折はしていない様なので、安静にしていれば治りも早いだろう」

「はい」


 掌を握ったり開いたりを繰り返し、感覚を確かめる。

 うん、特に違和感はない。やはり力のおかげなのだろうか、回復力が上がっている気がする。

 自分の中でも安心感を覚えたのか、お腹から大きな音が鳴り響く。


「……」

「……アオイ?」

「あはは、すみません。緊張が解けたせいか、つい」

「いいさいいさ、お祝いにご飯を食べに行こうか!」

「はいはい! アタシ、『海猫屋』に行きたい! オムライス! オムライス!」

「二人共、立科は安静にしておかないと……」


 東御先生が呆れた様に言うが、その表情には笑みが浮かんでいた。

 そんな先生に、「今日行かなくていつ行くんだい?」と美鈴さんが答えると、東御先生は溜め息を吐く。


「全く、仕方がないな。立科は歩けそうか?」

「はい、何とかなりそうです」

「ほらっ、手を貸して! アタシが連れて行ってあげるよ!」


 佐久穂さんが嬉しそうに手を差し出し、美鈴さんと東御先生は、部屋の出入り口へと向かう。イオは小さく吠えて足に擦り寄ると、美鈴さんに着いて行った。

 僕は差し出された手を握り締め、ベッドから立ち上がると、そのまま佐久穂さんの耳元に口を近づける。

 今までの気持ちと、伝えたい想いと、これから先の未来に乗せて、僅かばかりのイタズラ心を込めて、囁く。


「ありがとう、瑠衣」

また続きを書く機会があればいいなと思いつつ。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

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